2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24540379
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
堀田 貴嗣 首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (00262163)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ヤーンテラーフォノン / 超伝導 / 軌道自由度 / フェルミ面 / 磁性 / 近藤効果 / ラットリング / バイブロニック状態 |
Research Abstract |
まず、ヤーンテラーフォノンと結合しないeg電子模型を考え、電子の跳び移り積分をさまざまに変えてフェルミ面構造の特徴を調べ、電子数の変化とともにフェルミ面のトポロジーが変化する様相を明らかにした。次に、ヤーンテラーフォノンと結合するeg電子模型の強結合超伝導の性質を明らかにするために、ミグダル・エリアシュベルグ理論に基づいて超伝導転移温度を計算するプログラムを構築した。その結果、複数のフェルミ面が存在する場合に電子対の散乱振幅が増強され、有効引力相互作用が増加し、s++波の超伝導状態がより安定化することによって超伝導転移温度が上昇することを見出した。また、フェルミ面の枚数が変化する場合にファンホッフ特異性によって状態密度が大きくなり、それによって超伝導転移温度が上昇することも確認した。 ヤーンテラーフォノンが関与した近藤効果についても研究を開始した。今年度は、まず、数値繰り込み群法のプログラムの確認も兼ねて、簡単なホルスタイン・アンダーソン模型における電気双極子感受率の温度依存性を議論した。直接フォノングリーン関数を計算する方法と、電荷感受率を計算してダイソン方程式からフォノングリーン関数を求める方法の2種類について検討し、電気双極子感受率の正しい温度依存性を明らかにした。次に、局所ヤーンテラー振動と結合する2軌道アンダーソンモデルを数値繰り込み群法によって詳細に解析した。その結果、電子のスピン・軌道自由度とヤーンテラー振動が動的に強く結合したバイブロニック状態に対する近藤効果を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画では、ヤーンテラーフォノンと結合するeg電子模型の超伝導の強結合理論を展開することになっていたが、それは計画通り遂行することができた。これによって、フェルミ面のトポロジーの変化と超伝導転移温度の関係を明らかにするなどの成果があった。特に、複数フェルミ面が存在する場合にクーパー対の散乱振幅が増強され、超伝導転移温度が上昇することを見出した。また、局所原子振動としてヤーンテラーモードを考え、それと結合する軌道縮退アンダーソンモデルのスピン感受率、電荷感受率、比熱、エントロピーなどを調べる計画であったが、それについても、局所ヤーンテラーフォノンと結合する2軌道アンダーソン模型を数値繰り込み群法によって解析し、バイブロニック状態に関する近藤効果を明らかにするなどの成果があった。以上のことから、研究は概ね順調に推移していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
ヤーンテラー振動子に立方非調和性を考慮すると量子カオスが発生することが知られているが、これまで、その研究は局在電子とヤーンテラーフォノンが動的に結合したバイブロニック状態に限られていた。近年、カゴ状構造物物質における局所非調和原子振動と伝導電子との結合による新奇物性に注目が集まっていることから、本年度は、カオスが発生する非調和ヤーンテラーフォノンと結合する電子系の解析に力を注ぐ。特に、前年度に開発した数値繰り込み群法のプログラムを用いて、非調和ヤーンテラーフォノンと結合する2軌道アンダーソンモデルを解析し、カオスが伝導電子の物性にどのように影響するか、特に、カオスを電子物性から検出するための具体的な方法の提案を行う。これは、非線形物理と固体物理の融合による新しい現象の発見と理解につながる可能性がある。 また、1次元ヤーンテラー結晶における電子ダイナミクスの研究に着手する。モデルについて、基本的にはヤーンテラーフォノンと結合する 1次元電子系を考えることになるが、最初は強磁性状態を仮定して、スピンレス 2軌道電子系を考える。このとき、跳び移り積分としてσボンドのみを考えると、eg軌道のうちの一つが完全に局在してしまうので、そうならないように、跳び移り積分に対してπボンドやδボンドも考慮するか、あるいは、eg電子の跳び移り方向が周期的に変わるジグザグ 1次元鎖を考える。その様なモデルを、最終的には時間依存密度行列繰り込み群法によって解析するが、最初からフォノン自由度がある場合の計算は困難であると考えられるので、まず、2軌道スピンレス電子系に対し、時間依存密度行列繰り込み群法による解析を行う。たとえば、ジグザグ1次元鎖を考え、マンガン酸化物でよく観測される CEタイプ反強磁性構造に対し、バンド絶縁体からモット絶縁体に移り変わるときの電子のダイナミクスの変化の様相を調べる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初計画では、平成24年度に本研究課題遂行のための専用の数値計算用ワークステーションを導入する予定であったが、設置場所となる共用の計算機室の電源が確保できなかったため、1年遅らせることとなった。そのための平成24年度の予算178万を利用して、今年度の7月に、ワークステーションを導入する予定である。消耗品としては、ソフトウェア類に30万円、データ保存用の周辺機器や記録媒体に20万円を計上している。旅費としては、日本物理学会や国内研究会の出席に20万、国際会議出席に30万を計上している。その他として、会議の参加登録費などに10万を計上している。
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