2012 Fiscal Year Research-status Report
イッテルビウム合金準結晶を用いた準周期価数揺動系の低温状態の研究
Project/Area Number |
24540386
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
綿貫 徹 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門 量子ビーム物性制御・解析技術ユニット, 研究主幹 (30343932)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 金属 / 準結晶 / 価数揺動 |
Research Abstract |
Yb-Au-Al準結晶が価数揺動準結晶であることを発見し、低温において非フェルミ液体的振舞いを示すことを明らかにした。Yb-L3吸収端近傍のX線吸収分光測定を大型放射光施設SPring-8で行なった結果、Yb価数が2.61価であり、常圧においても2価と3価との中間価数状態をとることが判明した。従来、準結晶の価数揺動状態は加圧によって生成してきたが、常圧における価数揺動準結晶はこれが世界初の例である。この価数揺動状態の性質を明らかにするために、磁化および比熱測定を行なったところ、0.38Kに至る低温においても帯磁率および電子比熱係数が冷却とともに発散し続けるといった、非フェルミ液体的振舞いが出現した。これは、この準結晶が丁度、量子臨界点上に位置し、スピン揺らぎが極低温まで発達し続けることを示した結果である。また、この準結晶に対応する周期系であるYb-Au-Al近似結晶も同様に価数揺動系であり(Yb: 2.80価)、準結晶よりもその度合いは小さいもののスピン揺らぎが極低温まで発達し続けることが明らかとなった。以上の成果はPhysical Review B 誌に掲載された。 このYb-Au-Al準結晶について、価数揺動状態を特徴付ける基本パラメータであるYb価数の測定を行ない、その圧力および温度依存性を決定した。室温での加圧において、Yb価数は30 GPaまでの加圧により、約2.9価にまで増加した。ここで実現された価数領域はYb系において電子相関の強さが大きく変化する領域であり、この結果は、Yb-Au-Al準結晶の電子相関の制御に加圧が有効であることを示すものである。一方、常圧低温実験の結果、価数は冷却とともに減少し、10Kまでの冷却で0.05程度減少することが判明した。特に、10K付近の低温においても価数がある一定値をとることなく、変化し続けることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
常圧における価数揺動準結晶の発見は期待以上の成果である。計画では加圧により準結晶の価数揺動状態を生成させる予定であったが、常圧で達成されたため、通常装置による低温物性測定が可能となり、この系の非フェルミ液体的振舞いも発見するに至った。これらの成果は本研究に新たな展開をもたらすものである。今後の研究の推進方策で記載した通り、価数揺動と非フェルミ液体的振舞いとの関係の追究、および、新たな常圧における価数揺動準結晶の探索へと、本研究を更に発展させていく契機となった。常圧における価数揺動準結晶Yb-Au-Al系に対しては、計画通りに価数の圧力および温度依存性の測定も遂行できた。一方で、低温、且つ、高圧下の測定に関しては、加圧装置の準備は行なったものの、放射光マシンタイムの都合上、実際の測定を行なうまでには至らなかった。 以上、本年度は期待以上の発見があり、それによって新たな研究の進展の方向も明らかとなった。この成果に関しては論文発表も行っている。計画していた実験のうちの一部に実施できなかったものがあったものの、総合的には順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通りに、加圧および冷却時の価数変化に対応する構造変化の観測をYb-Au-Al準結晶に対して行なう。初年度予定の低温、且つ、高圧下の価数測定も併せて実施する。一方で、この準結晶で非フェルミ液体的振舞いが見られたことから、この現象の価数揺動状態との関係を明らかにするために、当初予定よりも実験条件を追加拡張して価数測定実験を実施する。非フェルミ液体的な状態は圧力や磁場印加により壊されると考えられ、その際にYb価数に異常が現れるか否かを価数測定により明らかにする。そのため、低温に関しては、当初予定の10Kでなく、非フェルミ液体的性質がより顕著になる2K程度にまで測定温度領域を拡張する。低温、且つ、高圧下の実験でも温度領域を3K程度にまで拡張する。また、低温磁場下の実験も追加して行ない、2K程度の低温で10T程度までの磁場を印加して実施する予定である。 常圧での価数揺動準結晶の発見は、他の準結晶合金系でも価数揺動系が見つかることを示唆するものである。よって、価数揺動準結晶の探索も併せて進める。探索はYb系のみならず、Eu系にも拡張する。可能性のある合金系についてYb、或いは、Euの価数測定を行ない、常圧で価数揺動状態であるいか否かの決定を行なう。 以上の構造観測および価数測定は、大型放射光施設SPring-8のBL22XU或いはBL39XUで行なう。構造観測はX線回折実験によって、また、価数測定はX線吸収分光測定によって行なう。但し、当初予定を超えた実験条件で実験を行なうため、高圧発生装置および測定光学系の最適化を更に行なう。 価数揺動と非フェルミ液体的振舞いの関係性の決定や、常圧での価数揺動準結晶の探索は、価数揺動状態の準周期系の研究を切り拓いていくものであり、得られた知見は学会や論文等で順次発表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
常圧における価数揺動準結晶の発見およびその非フェルミ液体的振舞いを明らかにしたことは期待以上の成果であり、これを更に発展させることが本研究課題を推進するうえで重要となった。そのため、今後の研究の推進方策に記載した通り、実験条件の追加拡張が必要となった。即ち、追加拡張のための実験装置の最適化が必要となった。しかしながら、この最適化は当初予定ではなかったため、本年度中に行なうことは不可能であった。一方、H25年度の研究費では予定していなかったものであり、これを賄うことはできない。そのため、研究費が相対的に多い初年度から捻出し、次年度の研究費として追加拡張計画に充当せざるを得なくなった。この研究費は、高圧発生装置であるダイアモンドアンビルセルの部品およびX線吸収分光測定用機器部品、寒剤に用いる予定である。
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Research Products
(7 results)