2013 Fiscal Year Research-status Report
イッテルビウム合金準結晶を用いた準周期価数揺動系の低温状態の研究
Project/Area Number |
24540386
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
綿貫 徹 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 研究主幹 (30343932)
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Keywords | 金属 / 準結晶 / 価数揺動 |
Research Abstract |
H24年度の研究で価数揺動準結晶であることを明らかにしたYb-Au-Al準結晶について、価数揺動を反映する体積の温度・圧力依存性の決定、および、価数の低温での磁場依存性の決定を行なった。測定は、大型放射光施設SPring-8での回折実験およびYb-L3吸収端近傍のX線吸収分光実験により行なった。Yb-Au-Al準結晶において2つの異なるYb価数のサイトがあること、および、この系の量子臨界現象に価数揺らぎの関与があることを示唆する結果が得られた。 Yb-Au-Al準結晶の体積の温度依存性においては、Tm-Au-Al準結晶と比較することにより、Yb寄与分のみを抽出した。冷却とともに価数が低下してイオン半径の大きな2価状態に向かうことを反映して、200K以下からYb寄与体積が増加していくという結果が得られた。但し、この増加は、この準結晶に対応する周期系である近似結晶と比較すると3割ほど小さく、準結晶の中に価数の温度変化を起こさないYbが存在することが示唆された。近似結晶にはないクラスター間のYbサイトが、異なる近藤温度を持つために温度変化を起こさないとすると無矛盾に説明できることが分かった。一方で、体積の圧力依存性は、Ybサイトごとの近藤温度の影響が小さいことを反映して、準結晶と近似結晶とでほぼ一致する結果が得られた。 価数の低温での磁場依存性においては相対精度1/1000以下での高精度測定に成功した。それにより、この系の量子臨界現象に価数揺らぎの関与があることを示唆する磁場依存性の異常を観測することに成功した。 Eu系への展開のため、大型放射光施設SPring-8原子力機構ビームラインBL22XUにおいて高圧下でのEu価数を評価できるようにダイアモンドアンビルセルを用いた高圧下X線吸収分光測定の環境整備を行なった。Eu系近似結晶について、11万気圧までの価数測定に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H24年度の研究で価数揺動準結晶であることを明らかにしたYb-Au-Al準結晶について、価数状態に係る性質およびこの系の量子臨界現象について、計画通りにその理解を進展させることができた。前者においては、2つの異なるYb価数のサイトがあること、後者においては、低温磁場下の測定を通じて価数揺らぎの関与があることを示唆する結果を得ることに成功した。 新物質である価数揺動Yb-Au-Al準結晶についての基礎データ取得という観点では、昨年度と併せて、価数・体積の温度・圧力依存性および価数の低温磁場下の依存性の測定を計画通りに完了させることができた。特に、低温磁場下での価数測定については、相対精度1/1000以下という計画以上の高精度測定に成功した。また、Eu系への展開のための高圧下X線吸収分光測定の環境整備も完了した。 以上から、順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、Yb-Au-Al準結晶の価数状態に係る性質およびこの系の量子臨界現象の理解を深める一方で、Yb-Au-Al準結晶以外の系への展開を図る。 H24-25年度の測定結果から議論を更に進めるためには、より精密なデータ取得が必要であることが分かってきた。特に、価数の温度依存性測定の高精度化を、低温での磁場依存性測定の高精度化の知見を活かして行なう。それにより、低温から室温の領域においては、格子体積変化と価数変化の対応関係を明らかにして、2つの異なるYb価数状態が存在するモデルを補強する。また、低温で量子臨界現象の現れる領域では、既に取得した磁場依存性の結果と組合せて、この系の量子臨界現象に価数揺らぎが関与していることの確証を得る。 一方で、Yb-Au-Al準結晶以外の系への展開を行ない、価数揺動準結晶・近似結晶という研究カテゴリー全体の発展を図る。そのため、Yb系においては、新規価数揺動の探索を行う。H25年度に新たに発見した価数揺動系と併せて、価数の温度・圧力依存性の決定を行ない、価数揺動準結晶・近似結晶の全般的傾向を理解するとともに、これらと比較して、量子臨界点上に位置するYb-Au-Al準結晶がどのように特異的であるかを明らかにする。 更に、Eu系にも研究を展開する。H25年度に整備を行なった高圧下X線吸収分光測定環境を活かして、Eu系準結晶・近似結晶を加圧することにより価数揺動状態にさせ、そのうえで、価数転移などの特異な物性の発現を狙う。 これらの研究は、価数揺動準結晶・近似結晶という新たな研究カテゴリーを切り拓いていくものであり、得られた知見は学会や論文等で順次発表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
国際会議での発表を予定しているため、旅費がH26年度予定額を超えることが明らかとなった。そのため、H25年度の一部をH26年度に充当せざるを得なくなった。 最終年度のため、国際会議など発表のための参加費および旅費に重点的に用いる予定である。また、破損したダイアモンドアンビルの交換や実験消耗品の購入など、これまで開発した手法を活かして継続的に測定するために必要な物品購入に用いる予定である。
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Research Products
(5 results)