2012 Fiscal Year Research-status Report
統計力学と流体力学のコラボレーションによる塑性流動と乱流の新理論の展開
Project/Area Number |
24540404
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
大信田 丈志 鳥取大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50294343)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中原 明生 日本大学, 理工学部, 准教授 (60297778)
後藤 晋 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (40321616)
松本 剛 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (20346076)
大槻 道夫 青山学院大学, 理工学部, 助教 (30456751)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 塑性流動 / 乱流 / ラベル変数 / モード結合理論 / 揺動応答関係 / 一列縦隊拡散 / シェルモデル / 非平衡統計力学 |
Research Abstract |
歯磨き粉など(ペーストあるいは濃密スラリー)が示す塑性流動を微視的な基礎に基づいて理解すること、およびその基礎となる非平衡統計力学の枠組みそのものの進展を目指し、6回のコラボセミナー(通算第18回-第23回)による検討をおこなった。特に20回目のセミナーは、海外からの参加者を含む研究会の形で実施した。 まず、旧プロジェクト(2009-2011年度:「塑性流動の新理論に向けての統計力学と流体力学のコラボレーション」)の成果である「一列縦隊拡散(SFD)のラベル変数理論」をさらに推進した。 SFDとは「追い越し禁止相互作用」をもつ1次元ブラウン粒子系が示す挙動で、粒子の運動が他の粒子に阻まれるために拡散が非常に遅くなる。SFDに対する我々の理論と、ガラス系の微視的理論として最有望視されている「モード結合理論」(MCT)とを組み合わせることで、今までの理論で線形解析にとどまっていた部分を改良し、密度揺らぎのLagrange相関に対する非線形な方程式を導出して、粒子の平均二乗変位を求めた。さらに、粒子の共同運動の指標である時空4点相関(いわゆる非線形感受率χ4)を解析的に計算することにも成功した。これらの結果を検証するため、多数のブラウン粒子からなる系の直接数値計算を行い、MCTによる解析解と良好な一致が見られることを示した。 他方、非平衡現象としての塑性流動や乱流に理論を展開するための布石として、乱流の力学系モデルであるシェルモデルの数値計算を行った。具体的には、シェルモデルに揺動力を加えた系において速度相関と応答関数を数値的に求め、揺動力無限小という特異な極限でのHarada-Sasa関係式の適用可能性について検討した。さらにペーストの記憶効果の実験に関し、その理論的解釈について考察を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の研究実施計画において最も重要な事項は「一列縦隊拡散(SFD)のラベル変数理論」をモード結合理論(MCT)と融合させることであるが、この点が問題なく実行できたため、プロジェクトとしては基本的に順調に進んでいると言える。 これが重要である理由は、SFDの基礎方程式系は形式的には3次元のコロイド系の方程式の1次元版にほかならないこと、またSFDはケージ効果を理想化したモデルだとも解釈できることによる。 続いて理論の2次元化が必要であるが、年度末の時点で具体的な式こそ書き下していないものの、2次元化のための基本的なアイディアは既に得られており、新年度の早い段階で実行できる見込みがある。 また数値的検証についても準備が進んでいる。 乱流モデルにおける揺動応答関係式については、Harada-Sasa関係式のそもそもの発見者の一人である佐々真一氏と議論する機会があり、有益な示唆を得た。 また、ペーストの記憶効果の実験やレオロジー測定については、特に連携研究者である狐崎創氏を通じて、他のいくつかの科研費プロジェクトとの連携および情報交換を進め、実験サイドからの示唆を得ることができた。 これはいずれも新理論の展開に資するものであり、その意味でも研究プロジェクトは順調に進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に1次元のラベル変数理論とMCTを組み合わせることに成功し、また2次元化のための基本的アイディアも得られているので、この路線をそのまま推し進める。 まずはガラス系の2次元モデル(密度場に対するLangevin方程式)をラベル変数理論で扱えるようにする。 続いて、これによる新しいMCT方程式を具体的に導出する。 赤外発散などの異常事態が生じる可能性も否定できないが、それはそれで有用な情報であり、少なくとも適当な制約条件のもとで数値的に扱える方程式が得られることが期待できる。 さらに、新しいMCT方程式(1次元および2次元)の数値解を求め、既存の理論との共通点や相違点について考察する。 1次元の場合の方程式は、ある極限では解析的に扱えることが既に分かっているが、それに加えて数値解法を確立することでさまざまな応用が可能になり、また2次元の解析の基礎が得られる。 2次元の方程式では、時空4点相関の一種である変位相関を計算できる枠組みを構築し、粒子系の直接計算と比較することで結果の妥当性を検証する。 これがうまくいったら、ラベル変数による新理論に剪断流や駆動外力などを加えた場合の検討に進む。 この段階で非平衡定常系となるので、解析の指針を得るために、熱浴つき乱流モデルを通じて数値的に得られつつある揺動応答関係式に関する知見を整理し、結果の比較検討をおこなう。 さらに、他の科研費プロジェクトと協力して、ペーストの記憶効果に関する実験を進める。 いくつかの実験事実を検討した結果は、乾燥破壊での記憶を担う物理量が残留張力である可能性を間接的に支持しているように思えるが、これに関する直接的な実験的検証を試みる。 これらの研究成果の統合と議論のために、初年度と同様に5回または6回のセミナーを実施する。 特に、そのなかのひとつは、10月から12月にかけての適当な時期に研究会の形で開催する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究分担者のひとりである大槻が2013年4月に青山学院大学から島根大学に異動するのに伴い、研究費の一部を節約して繰り越した。 金額は127616円で、島根大学に異動したあと、研究をただちに再開できるようにするための電算機環境の整備費用にあてる。 これ以外の、当初の予定に従って請求した助成金については、使用計画に本質的な変更はない。 研究費の大半はセミナー実施のための旅費であり(大槻の異動見込みが生じた時点で旅費の必要額を再計算し分担金配分額を調整ずみ)、あとは、統計物理等の理論に関する図書購入費用と、ペーストの実験のための消耗品が主な使途となる。
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Research Products
(13 results)