2012 Fiscal Year Research-status Report
ガラス転移を特徴づける新しいタイプの緩和時間の実験的研究
Project/Area Number |
24540434
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
猿山 靖夫 京都工芸繊維大学, 工芸科学研究科, 教授 (50162532)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
八尾 晴彦 京都工芸繊維大学, 工芸科学研究科, 准教授 (60212271)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ガラス転移 / 緩和時間 / 温度変調非線形誘電測定 |
Research Abstract |
本研究の申請書で述べたとおり、本研究で先ず解決するべき問題は実験技術の改良であった。本研究では緩和時間の温度変調に対する複素感受率を測定するが、申請に至るまでの予備的実験では、その位相が不安定さが大きな問題であった。試料作成法、検出器への取り付け法などの詳細な検討と、種々のデータ処理結果の検討を行った結果、温度変調用ヒーターと試料との間の熱移動が問題の中心であることが突き止めた。ヒーターによる発熱と試料による吸熱の時間差を0にすることは不可能であるが、モデルに基づく理論解析によりデータ補正を行うことができることを明らかにした。現在は、この理論モデルの改良を進めている。なお、予備的段階の実験結果については論文として報告した。(当該年度の成果ではないのでここに記載する。Akihiro HARADA, Takashi OIKAWA, Haruhiko YAO, Koji FUKAO, Yasuo SARUYAMA, Journal of the Physical Society of Japan, Short Notes, vol. 81. 065001 1-2 (2012), DOI: 10.1143/JPSJ.81.065001) 申請者らがtau_tauと呼ぶ「緩和時間の緩和時間」のモデルについては、以前から協力関係にある小田垣孝教授(東京電機大学、九州大学名誉教授)と議論を進めている。そこで検討された結果の一部は、小田垣教授との共著で、論文として発表した。(研究発表の項目参照) 以上に述べた実験的および理論的研究については、2013年7月にバルセロナ(スペイン)で行われる、第7回 International Discussion Meeting on Relaxations in Complex Systems において、招待講演として発表予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で述べた通り、初年度の第一の目的であった実験技術の改善については目途が立ち、現在その確立を目指して作業を進めている。これにより、あと2年間の研究が大きく進展する基礎ができたと考えている。さらに、tau_tauのモデルについても有意義な進展があった。後者のモデルは、申請者らの予備的研究がきっかけとなって発展した理論的研究である。即ち、申請書で本研究の目的の重要な要素として述べた、実験的研究が新しい考え方の契機となることが、実現しつつあると言える。具体的な研究成果と共に、分野全体の研究のあり方という、いわばソフトな成果も上記の評価に含まれている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の対象は、現象自体がこれまで知られていなかったものであることから、いろいろな条件によるデータの蓄積が今後の研究で先ず求められる。これまでは、誘電測定法が適用しやすい物質である、ポリビニルアルコールを用いてきたが、他の物質で測定することは、tau_tauの普遍性を調べるためには重要な方策である。また、測定では温度変調と誘電測定の電場という、2つの周期的刺激が試料に印加されている。温度変調に対する緩和時間の遅れという発想をもっとも直接的な形で調べるために、これまでは温度変調周波数依存性に注目して測定を行ってきたが、もう一つの刺激である電場の周波数依存性も興味あるテーマである。さらに、試料の観点からは、ガラス転移は履歴依存性の大きな現象であることから、エイジングをはじめとする、いろいろな履歴の試料について調べることは、次の段階のテーマとして検討している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の物品費により、試料作成に関わる設備の充実を図る。真空乾燥機とスピンコーターの購入を計画している。前者は試料の劣化を防ぎ、且つ試料と基盤の接触を両項にするために必要である。後者はnmオーダーで平面性のよい試料を作製するための標準的な装置である。旅費は、「研究実績の概要」で述べた、平成25年7月にスペインで行われる国際会議で招待講演を行うための旅費に充当する予定である。その他、専門知識の提供、論文発表等に必要な経費を、本助成金で賄う。
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Research Products
(2 results)