2013 Fiscal Year Research-status Report
ガラス転移を特徴づける新しいタイプの緩和時間の実験的研究
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24540434
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Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
猿山 靖夫 京都工芸繊維大学, 工芸科学研究科, 教授 (50162532)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
八尾 晴彦 京都工芸繊維大学, 工芸科学研究科, 准教授 (60212271)
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Keywords | ガラス転移 / 緩和時間 / 温度変調誘電測定法 |
Research Abstract |
平成25年度の研究では、二つの大きな成果が得られた。第一成果は2013年7月にバルセロナ(スペイン)で行われた、第7回 International Discussion Meeting on Relaxations in Complex Systems (7th IDMRCS)における招待講演である。昨年度の報告書で述べたように、温度変調非線形誘電測定法の実験装置およびデータ解析の技術的改良を進めた結果、報告者らがtau_tauと呼ぶ「緩和時間の緩和時間」の温度依存性について、予備段階(A. HARADA, T. OIKAWA, H. YAO, K. FUKAO, Y. SARUYAMA, J. Phys. Soc. Jpn, Short Notes, vol. 81. 065001 1-2 (2012), DOI: 10.1143/JPSJ.81.065001)よりも広い温度域で信頼性の高い結果を得ることができた。 第二の成果はデータ解析法の大きな進歩である。温度変調法は熱拡散で試料の加熱をするため、変調周波数が狭い範囲に限られるという制限がある。これを克服するため、新しいデータ解析法を確立した。この方法で緩和時間の評価の信頼性が大きく改善され、tau_tauの温度依存性がより詳細に求められるようになった。これまでに、tau_tauで特徴づけられる過程は協同性が弱いという予想外の結果が得られており、ガラス転移の理解に大きく貢献することが期待される。現在、この方法に基づいた測定をさらに進めているが、途中経過を2014年6月にロストク(ドイツ)で行われる、Laehnwitzseminar 2014 で発表予定である。tau_tauの理論的モデルについては、小田垣孝教授(東京電機大学)と議論を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で述べた通り、2013年度の研究で二つの大きな成果があった。7th IDMRCSの発表でガラス転移の世界的専門家に対して本研究の成果を示し、高い評価を得ることができた。また、小田垣孝教授(東京電機大学)との議論も本研究に大きく貢献しており、tau_tauの研究は、実験・理論の両面で日本における研究が世界をリードする環境ができている。 第二の成果に基づく研究は現在も進行中であるが、ガラス転移の根幹に関わる緩和過程で、協同性が弱いという結果は予想を覆すものであり、今後のガラス転移研究に大きな影響を与えると期待される。本研究の申請書で研究目的の重要な要素として述べた、「実験的研究が新しい考え方の契機となること」を目指した研究方針が、実際に実を結びつつあると考えている。 さらに、2013年度の研究では、温度変調非線形誘電測定法を用いた新たな研究分野が見えてきている。研究は未だ公表する段階には至っていないが、ガラス転移の本質に迫る研究が可能となりつつある。この新たな発展の兆候も含めて、2013年度の研究は計画以上に進展したと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2014年度の研究は、「現在までの達成度」で述べた第二の成果に基づく測定を更に進めることと、新たな研究分野の可能性を見極めることを主たる方針として、推進する計画である。 tau_tauの温度依存性の研究は、新しいデータ解析法を用いても、ガラス転移温度近傍に限られている。これを可能な限り広げることが、tau_tauが示す弱い協同性をより確かなものとすることは明らかである。このためにはいくつかの方法が考えられるが、いずれにしてもデータのS/N比の改善が求められ、測定技術の地道な改良が欠かせない。測定信号そのもののノイズの低減には、試料作成法の改善が有力である。電極の作成法、電極と試料の接触状態、リード線の取り出しなどの改善が、具体的な作業になる。また、低周波温度変調への拡張は、特に低温領域の限界を広げるために有用であると期待される。 新たな研究分野は、温度変調非線形誘電測定を用いて測定を行うが、これまでとは異なる測定条件が必要となる。この研究が進めば、本研究の当初計画を大きく上回る成果をあげることができると期待される。
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Research Products
(2 results)