2013 Fiscal Year Research-status Report
歯の成長線解析と同位体分析に基づく束柱類の季節周期精度での生活史の復元
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24540502
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Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
甲能 直樹 独立行政法人国立科学博物館, 地学研究部, 研究主幹 (20250136)
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Keywords | 古生態学 / 歯学 / 安定同位体 / 微量元素 / 束柱類 / 生活史 |
Research Abstract |
本研究は,目のレベルで絶滅してしまった海生哺乳類の束柱類(デスモスチルスやパレオパラドキシアの仲間)について,歯のエナメル質に残された体内生理の周期的変動の刻印である成長線を指標として,成長線に沿った試料を連続的に採取し,炭素・酸素および微量元素(ストロンチウム)の安定同位体比分析に基づいて,この仲間の生活史を年周期よりも短い周期(季節周期)の精度で明らかにすることを目的としている. 今年度は,昨年度に引き続いて国立科学博物館(以下科博)に所蔵されている約420点のデスモスチルスの歯牙標本の中から歯種が決定できかつ咬耗が進んでいない臼歯および乳臼歯6点を選定し,精密低速切削工具を用いて歯の成長線に並行して歯冠エナメルから試料を切削し,個体の生活史において起こり得る周期的な生理反応もしくは行動生態の抽出を試みた.成長線の確認と試料採取にあたっては,各標本に認められた成長線に沿って1標本あたり6~22ポイント(12mm~40mm)の同位体分析用試料を採取して,安定同位体質量分析装置MAT253により同位体比を測定した. その結果,デスモスチルスにおいて,炭素と酸素の同位体比がお互いに同期して一定の周期で変動する傾向を持つ個体とそうでない個体が見いだされた.また,この傾向は,日本産とカリフォルニア産の臼歯で同様に観察された.これらのことから,周期的変動は地理的な要因ではない動物固有の生態生理を反映したものであることが推定された.しかしながら,同位体比の周期的な変動は,個体によって短い期間に起ったらしいことを示しており,従来の解釈では生態生理のどちらにおいても現生哺乳類に類似の周期を見いだせない.現時点では,デスモスチルスが個体の区別を伴って何らかの周期性いよる生態的あるいは生理的変化を伴う生活史を持った動物であったと作業仮説をたて,次年度に最終的な検討を行なう予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究においては,体内に取り込まれた炭素と酸素および微量元素の同位体比を指標として,この動物のもつ生活史を年周期よりも短い周期で明らかにすることを目標としている.このため,分析にあたって貴重な標本を少なからず破壊しなければならないことについて,より「非破壊的」な試料の採取法を確立することが重要であった.幸い,デスモスチルス属は歯の標本点数が比較的多く,各咬頭が咬柱をなしているため,ひとつひとつの咬柱を物理的に分離させやすい.この特質を利用して,本研究においては咬柱を安全に分離する手法を確立し,歯の内側表面を試料採取に用いることで貴重な標本を外見上「非破壊」で連続的にサンプリングして長期間の生体情報が得られるようになった結果,分析科学的研究において最も問題となる標本試料の破壊が最小限に抑えられるようになり,標本の形態情報を失うことなく貴重な標本から本研究に必要な量の連続的な微少試料(1標本から最多で22サンプリング)を十分に得ることができていることから,研究はおおむね順調に進展させられている.
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は,初年度および今年度に採取した安定同位体分析用試料のサンプルについて,微量元素の分析を集中して行なう予定である.分析にあたっては,研究協力者の鵜野 光(国立農業環境技術研究所)と共に,引続き安定同位体質量分析装置MAT253により炭素と酸素の安定同位体比を測定すると同時に,表面電離型質量分析装置Tritonを用いて,同一のサンプルから微量元素であるストロンチウムの安定同位体比を測定する.さらに,来年度は最終年度となるため,炭素と酸素およびストロンチウムの安定同位体比に加えて,科博に設置されているレーザー照射型誘導結合プラズマ質量分析装置LA-ICPMSを用いて,試料のサンプリングを100μ以下の間隔で実施して,カルシウムに対するストロンチウムの重量比を成長線に沿って連続的に測定し,炭素と酸素の安定同位体比とは異なる指標での周期的行動あるいは生理の動態抽出を試みる.これらの分析によって得られた結果が統計学的に扱えるだけの試料点数となるよう,分析結果の精度と共にその点数をより大きいものにしていくことを計画している.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
硝酸等の薬品と同位体比分析用の標準試料が必要時に未入荷状況だったため,一部の薬品類の購入を次年度に行なうこととし,予算の繰り越しの手続きをとった. 上記の通り,繰り越した予算により,硝酸等の薬品類と同位体分析用標準試料の購入を予定している.
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Research Products
(4 results)