2013 Fiscal Year Research-status Report
ヒスイ生成の謎に迫る:ストロンチウム・バリウム含有鉱物の合成実験からのアプローチ
Project/Area Number |
24540510
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
下林 典正 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (70235688)
|
Keywords | 変成岩 / ヒスイ / ヒスイ輝石 / 鉱物共生 / 合成実験 / ストロンチウム / バリウム |
Research Abstract |
ヒスイ輝石を主要な構成鉱物とするヒスイ輝石岩(ヒスイ)の中で、ヒスイ輝石と共生する鉱物を特定して、その鉱物の安定条件および共生関係からヒスイの生成環境に制約を付けることが本研究の目的である。そのためにヒスイ輝石岩および関連岩中のSrやBaを含有する鉱物種をターゲットとしている。 ただし、ヒスイ中には石英に代表されるようなシリカ鉱物は存在しない―すなわち、ヒスイ中に低温高圧変成作用の指標となる「ヒスイ輝石+石英」の共生がみられない―ことが本研究の立案・推進の大前提となっていたが、①長野県北方の栂池地域から一時産出した脈状ヒスイ中にヒスイ輝石と石英との共存が報告されている(茅原,1987)こと、および ②前年度の糸魚川地域のヒスイ調査により、周辺の岩体からシリカ鉱物が新たに発見されたことから、これらの石英やその類縁シリカ鉱物の存在・関連を検証することが緊急事案として浮上していた。そこで、国立科学博物館・フォッサマグナミュージアム・益富地学会館・東北大を巻き込んでの合同調査を行うこととなり、平成25年度だけでも合計4回の合同調査を行った。その結果、①に関しては誤報であること(申請者自身 最近になって知ったことであるが、発表者自ら数年後に訂正したとのこと)が確かめられたとともに、実際に試料を入手して観察・分析した結果からも石英との平衡な共存はなさそうであることが追認できた。また、②のシリカ類塩鉱物に関してはヒスイの生成との関連がないことが確認された。とくに、②に関しては、本研究課題のテーマとは外れるものの、世界で2例目の千葉石の発見といった大きな成果が上がった。 そうした別の展開もあって、当初計画にあった天然試料中のSr・Baに富む鉱物種の特定作業やその合成実験に関しては遅れ気味である。特に後者の合成実験においては、現段階でも試行錯誤の状態が続いているのが実情である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
前述のように、現地調査に基づく天然試料の記載において想定外の展開があったために、“寄り道”を余儀なくされた状態で、その結果として、交付申請書の記載の実施計画からは遅れが生じている。特に実施計画記載の後半の合成実験に関しては、当初の計画の水熱合成装置のグレードアップを諸事の理由から断念したこともあり、大幅な計画の変更の必要が生じた。その代替として急遽導入することとなったサファイア・アンビル式の高圧装置も、常温での試運転は終了しているものの、いまだ試料加熱するためのヒーターを試作している段階であり、まだ実験システムとしては完成していない状況である。 このように研究課題名の副題にある「ストロンチウム・バリウム含有鉱物の合成実験からのアプローチ」という観点からは遅れを生じていることは否めないものの、本来の主題である「ヒスイ生成の謎に迫る」には“新タイプのシリカ鉱物との共存はあるのか”といった交付申請書の段階では想定していなかった新たな観点についての検証作業を終えた感があり、いよいよ最終年度に向けて合成実験にウェイトを移行する体制が固まったと言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
1.天然試料中のSr・Ba含有鉱物種の特定:天然のヒスイ試料中のSr・Ba含有鉱物の観察・分析は継続していく。平成24年度、25年度は、糸魚川地域産の試料で手一杯であったが、平成26年度はそれに加えて、大屋地域、若桜地域産のヒスイ輝石岩および関連岩試料に関しても観察・分析を行っていく。サンプルはほぼ確保済みであるが、大屋地域に関してはサンプル追加採取のための調査も行いたいと考えている。 2.合成実験によるSr・Ba含有鉱物の相関係:平成24年度に導入したサファイアアンビル装置および研究協力をお願いしている京都大学人間・環境学研究科の小木曽研究室に設置してあるピストン・シリンダー型高圧装置を使って、1で特定されたSr含有鉱物・Ba含有 鉱物の合成実験を行い、それらの生成条件を検討する。差し当たりは、ローソン石およびそのストロンチウム置換体である糸魚川石の合成実験を行い、ローソン石ー糸魚川石の固溶体関係を検証する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
合成実験に関しては、当初計画していた水熱合成装置のグレードアップの計画が頓挫し、その代替として導入したサファイアアンビル式高圧装置も加熱システムがまだ完成していないといったことで、計画よりもかなり遅れている。そこで他研究室のピストン・シリンダー型装置をお借りする手筈を整え、試験運転は何度か済ませている。その本格使用は、最終年度である平成26年度に実施するつもりである。そのための消耗品等の費用を最終年度に回すべく、25年度の使用を控えたので、次年度使用額が発生した次第である。 高圧合成実験のために他研究室のピストン・シリンダー型装置をお借りする手筈にはなっているが、必要な消耗品は当経費より供出することになっている。当初の予定より高圧実験に遅れが生じているため、次年度に実験の実行が集中するため、前年度よりも実験用の消耗品費が必要になってきた。また、適任者がいれば実験の補助を依頼する可能性もあり、その場合は謝金が必要となることもあり得る。また、天然試料および合成試料の観察・分析に用いるFE-SEM、SEM-EDX、WDX、FIB、TEMのための試料準備および使用に伴う費用についても当経費より捻出するつもりでいる。さらに、ヒスイ試料の採取のためのサンプリング旅費や学会発表のための国内出張旅費などにも本経費を充当する予定である。
|
Research Products
(9 results)
-
-
[Journal Article] Adachiite, a Si-poor member of the tourmaline supergroup from the Kiura mine, Oita Prefecture, Japan.2014
Author(s)
Nishio-Hamane, D., Minakawa, T., Yamaura, J., Oyama, T., Ohnishi, M., Shimobayashi, N.
-
Journal Title
Journal of Mineralogical and Petrological Sciences
Volume: 109
Pages: in press
DOI
Peer Reviewed
-
-
[Journal Article] Talmessite from the Uriya deposit at the Kiura mining area, Oita Prefecture, Japan.2013
Author(s)
Ohnishi, M., Shimobayashi, N., Kishi, S., Tanabe, M. and Kobayashi, S.
-
Journal Title
Journal of Mineralogical and Petrological Sciences
Volume: 108
Pages: 116-120
DOI
Peer Reviewed
-
-
-
-
-