最先端電顕法による造岩鉱物の元素分配に関する実験的研究

2012 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 24540526
• Research Category: Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
• Research Institution: Kyushu University
• Principal Investigator: 藤 昇一 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20380595)
• Co-Investigator(Kenkyū-buntansha): 中牟田 義博 九州大学, 総合研究博物館, 准教授 (80128058) ; 三宅 亮 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10324609)
• Project Period (FY): 2012-04-01 – 2015-03-31
• Keywords: 造岩鉱物 / 分析電子顕微鏡 / ALCHEMI法

Research Abstract

当該年度の研究実施計画の要点として，１）主要造岩鉱物であるかんらん石、輝石、長石に着目する、２）光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡を用いた分析位置の選定、３）ガンドルフィーカメラおよびリートベルト解析、４）集束イオンビームによる試料の作製、５）主にかんらん石でのALCHEMI実験の実施、を挙げた。
これらのうち、１）については既に充分な試料を入手できている。２）については鏡下での観察を実施し、輝石については適当な場所を選定し、集束イオンビームによる試料作製を行っている。３）についてはガンドルフィーカメラでの解析に遅れが出ているものの、測定結果から席占有率を求める為のリートベルト解析法の実施へ向けたソフトウェアの使用法を習得した。４）については、輝石について分担研究者である三宅博士と連携を取りつつ、既に数点の電子顕微鏡用試料の作製を行っている。５）については、当初計画では当該年度まで勤務した九州大学超高圧電子顕微鏡室が保有する大面積エネルギー分散型X線分光分析装置（EDS）を使用する予定であったが、後に、分担研究者の研究室で更に取込み角度の大きい装置が導入される事が判明したため、当初計画を変更して次年度以降に実施する事とした。
以上のように、当該年度では学会発表などの具体的な成果は得られていないものの、研究計画全体から見れば、本年度は準備期間として捉えていた為、本研究において一定の意義を挙げられたものと捉えている。本研究において最も重要である、ALCHEMI実験を延期した点については、問題点として捉えられる。その一方で、本研究の目的の本質である、より高い感度が期待できる大面積EDS装置が分担研究者の研究室に導入され、本装置を使用する事により大きな成果が期待できるものと考えている。

Current Status of Research Progress

3: Progress in research has been slightly delayed.

Reason

当該年度において、本研究で主眼とする最新鋭超高感度EDSによるALCHEMI実験を延期した事は、研究計画全体から見れば、やや遅れを生じたと捉えている。この遅れは、より高い感度が期待できる装置の分担研究者の研究室への納期が当該年度末であったため、実験開始時期の遅れへとつながった。しかしながら、この度の延期はEDSの感度において最重要パラメータである、立体角が大きい装置の利用を見据えた為であり、当初計画の変更と捉えている。
さらに当該年度の終盤において、本研究の代表研究者の所属が移動となった事も、やや遅れを生じた理由の一つである事は否めない。しかしながら、異動先の研究室においては、通常のEDS装置を搭載した分析電子顕微鏡が自由に利用できる環境にある。また、代表研究者の研究室の装置と、分担研究者のそれとは、電子顕微鏡の筐体自体が類似する。すなわち、次年度以降では、最先端超高感度EDSと通常の立体角を有する装置との比較検討が可能となった。
以上に加えて、本研究の目的から鑑みると、基本的には全研究期間を通じて同じ装置を用いた分析実験を実施する事が好ましい。これは使用装置を限定する事で、考慮すべきパラメータを出来る限り限定する事が出来るからである。この点もALCHEMI実験を当初計画より遅らせた理由である。

Strategy for Future Research Activity

前述した通り、当該年度は新たな高感度分析電子顕微鏡の利用を見込んだ事、および代表研究者の移動といった理由から、当初計画からやや遅れを生じており、今後は多少の軌道修正を行いつつ当初計画に沿った研究を進める。特に、かんらん石ならびに輝石に重点をおいたALCHEMI法による元素分配の決定、席占有率の導出については最重要項目として進める。また、第２年度目の計画では分析試料点数および解析点数の蓄積を計画しており、この点からも精力的に研究を進める必要がある。
席占有率の導出における精度向上の観点からは、やはりガンドルフィーカメラによるX線回折実験ならびにリートベルト解析が要請されるため、分担研究者である中牟田博士との連携を更に密にとりつつ、ALCHEMI実験と平行して進めたい。
今後は当初計画に加えてより高感度な分析電顕および通常の分析電顕が利用可能な環境が整った。実際に京都大学の三宅博士からも承諾を得ている。このような環境を利用して本研究の主眼の達成を目指す。
これらを基礎とし、通常のALCHEMI法を発展させた手法であるHARECXS法や統計的ALCHEMI法の造岩鉱物への適用可能性も追求する。これらの手法の側面における応用を図るとともに、解析対象も造岩鉱物内部の微細組織解析へと発展させる。
以上のように、今後の研究の推進は、本研究提案当初の計画に加えて、新たな実験環境を効果的に組み合わせる事で本研究の本質である、元素分配の精度向上の追求を行う。
さらに、当該年度における文献調査および学会等での情報収集により、本研究の成果は当初計画より更に広い範囲で活用できる事が明らかとなった。従って、今後の研究においては当初計画の推進に努めるとともに、その応用範囲についての検討も平行して行う。それにより、本研究を次の段階へ発展させる可能性についても継続的に検討する。

Expenditure Plans for the Next FY Research Funding

本研究計画の全体から見れば、経費使用費目に大きな変更はない。
ただし、次年度に限ってみると、本研究経費により偏光顕微鏡の購入を計画しており、当初計画からの変更を行う。これは、代表研究者の所属機関の異動により、偏光顕微鏡の整備が必須となったからである。偏光顕微鏡は造岩鉱物の内部において均質な領域の選定、および析出物などの微細組織の領域の選定などにあたって、当初計画に沿った研究を進める上で必要不可欠であるため、本研究経費により導入する事とした。
また、本研究の推進にあたっては特に透過型電子顕微鏡で取得した電子回折パターンの解析による、結晶学的情報が必要不可欠である。それをサポートする為のシミュレーションソフトウェアを本研究経費で導入する。電子顕微鏡での回折情報に関連したソフトとしては、数種類の選択肢があるが、本研究ではスイス、ローザンヌ大学のピエールステードルマン博士が開発する、jems、を導入する予定である。本ソフトウェアは、電子線回折の動力学効果を充分に吟味して考慮されている為であり、本研究のALCHEMI法も同じく動力学効果によるブロッホ波の影響の考慮が必要不可欠であるからである。