2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24540540
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
白藤 立 大阪市立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10235757)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | プラズマ / レーザ / 液中 / 医療 / 歯科 / Er:YAG / マイクロプラズマ / 低侵襲 |
Research Abstract |
液体中でのレーザ誘起マイクロプラズマの生成は,波長1.064μmのNd:YAGレーザを用いた場合には,レーザ誘起ブレークダウン分光などで知られるように,既に報告例が多数ある.一方,波長が2.94μmと長いEr:YAGレーザを用いた場合には,水による吸収係数が極めて大きいため,気泡形成,及び,それに伴う衝撃波の生成や,それを利用した歯牙の切削が可能であるなどの,物理的作用は報告されている.本研究では,水が関与する対象物にEr:YAGレーザを照射した際のプラズマ生成の可能性について注目し,主に発光分光法を用いることによって,その化学的作用について研究を行った. 発光分光によるプラズマの確認の前に,歯科治療にて利用されている虫歯菌(ミュータンス菌)の検出手法を用い,Er:YAGレーザによる歯の切削時にミュータンス菌が不活化されていることを確認した.通常のドリルによる切削では,ミュータンス菌が残留するのに対し,Er:YAGレーザを用いた切削の場合には,ミュータンス菌が不活化されていることを確認した.次に,高感度ICCD検出器を用い,レーザパルスと同期した分光測定を行った.対象物として,人工的に合成された多孔質ヒドロキシアパタイトを用いた.水を照射せずにヒドロキシアパタイトにレーザ照射した場合には,対象物の定常的な温度は数百度に達し,黒体輻射に対応する発光スペクトルとなった.一方,実際に歯科治療を行う条件と同様に水を照射しつつレーザ照射した場合には,対象物の定常的な温度は室温近辺を維持していた.また,レーザ励起要のポンプ光のスペクトルに重畳した発光ピークを観測することができた.その起源については,現時点では未解明であるが,水を照射せずに高温となった場合に,ピークの半値幅が広がることが確認され,対象物の近傍で発光している化学種であることが確認された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
水が関与する媒質に対して波長1.064μmのNd:YAGレーザを照射することによりプラズマが生成されることは,レーザ誘起ブレークダウン分光が実用化されていることからも,良く知られている事例である.しかし,波長2.94μmのEr:YAGレーザを照射した場合に,プラズマが生成されているかどうかは,これまでのところあまり知見が無かった.一方,虫歯に含まれるミュータンス菌が,Er:YAGレーザを用いた歯科治療において不活化されている可能性があることが,これまでの臨床的な経験則によって予測されていた.近年,プラズマが滅菌作用を有することから,この臨床的経験則は,波長が長く,通常の考え方ではプラズマ生成が困難なEr:YAGレーザ照射時にも,局所かつ極短時間の間にプラズマが生成されている可能性を秘めている. 第1年目の研究では,まず,このミュータンス菌の不活化を確認する実験を行い,ドリルによる歯の切削ではミュータンス菌が不活化しないのに対し,Er:YAGレーザを用いた場合には,確かにミュータンス菌が不活化されることを実験的に明らかにした. 次に,プラズマ生成の有無を確認するために,レーザパルスと同期させた発光分光を実施した.その結果,ポンプ光スペクトルに重畳した形で,照射対象物由来と考えられる発光ピークを観測することに成功した.この結果は,照射対象物が,熱的ではなく電子的に励起されていることを意味しており,プラズマが生成されている可能性を示唆している.以上の成果は,Er:YAGレーザ照射の化学的作用とプラズマ生成の確認をまず行うこととした第1年目の研究が,おおむね順調に進んだことを示している.
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Strategy for Future Research Activity |
1年目では,パルス的に照射されるレーザ照射周期と同期した分光計測を行い,発光スペクトルにポンプ光以外の照射対象物由来と考えられる発光ピークを見出した.また,水を供給しなかった場合と比較して,水を供給した場合には,発光ピークの半値幅が狭くなる現象も観測した.2年目の研究では,これらの研究成果を踏まえ,以下の研究を推進する. まず,ポンプ光のスペクトルに重畳する形で観測されたレーザ照射対象(ヒドロキシアパタイト)物由来と考えられる発光ピークの帰属を明かにする.そのための方策として,既知の発光波長テーブルを参照するとともに,対象物がプラズマ中で電子励起された場合の典型的なスペクトルを別途取得し,比較することにより,より明確な帰属を行う. 1年目では,ICCD検出器のゲートを開ける時間をレーザパルス幅と同じ時間とした.この理由は,発光強度の積算値を得ることができ,発光強度が小さい現象であっても観測できる可能性があったためである.2年目では,ICCD検出器のゲートを開ける時間をパルス幅より短くし,更に,ゲートを開ける遅延時間をずらすことにより,発光の時間変化を追跡する. 1年目の研究では,水が供給されている環境下では,ヒドロキシアパタイトにEr:YAGレーザを照射しても,その定常的な温度は最大60℃であり,ミュータンス菌が不活化するような温度ではないことが分かっている.しかし,水を供給しない場合には,数百度まで熱せられることから,水を供給している場合であっても,局所的に極短時間の高温状態が形成されている可能性がある.1年目に観測された発光ピークの半値幅の注水有無による変化は,この温度に依存していると考えられる.そこで,上記の時間依存性を測定する際に,半値幅の変化にも注目し,対象物近傍の局所的,極短時間の温度変化の評価も合わせておこなうことにより,非プラズマの効果の有無を確認する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では,模擬的な歯牙として多孔質ヒドロキシアパタイトの小片を利用している.1年目の研究において,レーザ照射対象物による発光ピークを得るまでに,多数の小片を消費したが,1年目の後半において,ようやく対象物由来と考えられる発光ピークを観測することに成功した.そのため,追加のヒドロキシアパタイトを年度内に購入し,探索実験を行うのではなく,当該発光ピークの解析を優先して研究を遂行した.次年度では,時間分解測定のために,更にヒドロキシアパタイトの小片が多数必要となる.従って,本年度末に生じた次年度使用額については,ヒドロキシアパタイト購入に充てる.
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