2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24540540
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
白藤 立 大阪市立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10235757)
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Keywords | 液中 / プラズマ / レーザ / キャビテーション / Er:YAG / 歯科 / 過酸化水素 / OHラジカル |
Research Abstract |
昨年度までの研究によって,虫歯菌(ミュータンス菌)を有する歯牙をEr:YAGレーザによって切削した時に,ミュータンス菌の不活化も同時に行われていることを明かにし,温度計測の結果から定常的な加熱による不活化では無いことを明かにした.本年度は,この不活化の起源を明かにするために,液体へのラジカル注入によって生成されると考えられる液体中の過酸化水素濃度に注目した.対象液体は脱イオン水とした.過酸化水素の濃度評価は,酵素を用いた4-アミノアンチピリン比色法による液体色の変化によって評価した.200mJ,25HzのEr:YAGレーザを脱イオン水に5分間照射した液体と未照射の液体を当該手法にて評価したところ,処理後の液体には,約0.5ppmの過酸化水素が含まれているという結果が得られた.また,5分間の処理後,8日経過した液体中の過酸化水素濃度は,約2ppmまで増加した.未処理の液体は,同じ環境下で8日間経過しても過酸化水素の増加は見られなかった.以上の結果より,Er:YAGレーザを水に照射した場合,過酸化水素が発生していることを明かにした.Er:YAGレーザ照射直後の過酸化水素濃度の増加は,プラズマ生成などの過渡的な現象に起因すると考えられるが,8日間経過後の過酸化水素濃度の増加の起源は,Er:YAGレーザ照射時にマクロなバブルとともに生成されると考えられるナノバブルではないかと考えている.このナノバブルが徐々に崩壊する際に生成されるOHラジカルが水に溶け込み,水中での二次反応を経て過酸化水素が生成されたものと考えられる.また,プラズマ生成した場合に,気液界面においてどのような反応が期待されるかについて計算機シミュレーションによって検討したところ,プラズマと接する液面直下に空間電荷層が形成され,プラズマ側から供給される活性種が液中のイオン種に対して半選択的に作用することが示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
波長2.94μmのEr:YAGレーザによる虫歯治療においては,虫歯の再発が少ないことが経験則として知られており,滅菌作用が示唆されてきた.平成24年度までの研究により,Er:YAGレーザ照射によって虫歯菌(ミュータンス菌)が加熱を伴わずに不活化されていることを明かにした.この起源として,何らかの反応性活性種が寄与していることが示唆された.平成25年度では,このミュータンス菌の不活化のメカニズムの解明することを目的とした.水中プラズマによる滅菌等の応用分野では,OHラジカルが滅菌の直接,もしくは間接的な担い手であることが報告されている.そこで,OHラジカルが水中に生成された後に最終生成物として残留する過酸化水素の水中濃度に注目した.Er:YAGレーザ照射を5分間行った脱イオン水注には,有意な過酸化水素濃度の増加が認められた.過酸化水素濃度増加のメカニズムとしては,OHラジカルがEr:YAGレーザ照射によって気液界面近傍の気相で発生し,水中に溶け込んだ後に過酸化水素を生成したと考えられる.また,照射後の液体を8日間放置した後に,更なる過酸化水素濃度の増加が確認されたことから,Er:YAGレーザ照射直後には,過酸化水素を生成するOHラジカルなどの活性種の生成のみならず,こうした活性種を生成可能なナノバブルなども同時に生成され,長時間にわたって過酸化水素の濃度を徐々に増加させる可能性も示唆された.以上の結果は,Er:YAGレーザを水に照射した際の化学反応メカニズムの一部を明かにしたものであると言える.また,プラズマが生成されているとした場合に,プラズマと接する液面直下に空間電荷層が形成され,プラズマからの活性種が半選択的に液中イオンに作用するという新たな可能性も計算機シミュレーションによって見出された.以上の結果から,本年度の研究は,おおむね順調に進んだといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
1年度目では,Er:YAGレーザを照射した歯牙に含まれる虫歯菌(ミュータンス菌)が熱以外の作用によって不活化されていることを見出し,化学的な活性種の発生を示唆する結果を得た.2年度目では,この化学種の特定を行うためにEr:YAGレーザ照射後の水の分析を行い,Er:YAGレーザ照射による過酸化水素の発生を見出した.最終年度である3年度目では,この過酸化水素増加の起源を明かにするため,昨年度行った酵素を用いた4-アミノアンチピリン比色法による系統的な実験,スピントラップ法を適用することによるOHラジカル生成の確認を行う.これらの活性種発生の起源として,当初よりプラズマ発生の可能性を追求してきたが,その確認のための時間分解発光分光を,計測波長範囲を広げる等の工夫をしながら継続的に実施し,プラズマ発生の有無を確認する.また,2年度目の結果より,非プラズマの効果として,キャビテーションバブル発生とその崩壊時のOHラジカルの発生や,長時間にわたって残留するナノバブルの発生とその崩壊によるOHラジカルの発生が示唆された.キャビテーションバブル発生時のOHの生成については,スピントラップ法によって検出を試みる.また,長時間残留することが可能なナノバブルの存在については,動的散乱法などの手法を用いてその存在の有無を確認する.以上のような実験とともに,化学反応シミュレーションも併用し,得られた結果を半定量的に再現できるようなモデルを構築する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の研究では,計算機シミュレーションによる化学反応の解析と酵素を用いた4-アミノアンチピリン比色法による過酸化水素の濃度測定を行った.過酸化水素の濃度測定の実験によりEr:YAGレーザ照射した脱イオン水中の過酸化水素の濃度が増加することが見出されたが,本年度後半では,並行して実施してきた計算機シミュレーションによる化学反応の解析において興味ある結果が得られたため,過酸化水素濃度の計測については,一旦休止し,計算機シミュレーションを中心とした研究を実施した. 次年度では,過酸化水素濃度を測定するための薬剤等が更に必要になると考えられ,本年度末に生じた次年度使用額については,主として過酸化水素濃度測定用の薬剤や,新たな手法として適用するスピントラップ剤の購入に充てる.
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