2013 Fiscal Year Research-status Report
金属錯体のスピン転移と格子欠陥:固体高分解能NMRによるキャラクタリゼーション
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24550003
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
丸田 悟朗 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (00333592)
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Keywords | 固体高分解能NMR / 電荷移動相転移 / スピンクロスオーバー錯体 / 原子価互変異性 |
Research Abstract |
プルシアンブルー類似体AxMn[Fe(CN)6]y・zH2O (A=Rb,Cs)は、大きなヒステリシスを伴う電荷移動相転移を示す、不定比化合物である。A=Rbのルビジウム塩については、x=1,y=1,z=0およびx=1,y=1,z=1の量論組成の化合物の合成方法が知られている。本研究では、セシウム塩のx=1,y=1,z=1の組成に近い化合物の合成法を見出した。合成された化合物の物性測定を行い、結晶水の有無やアルカリ金属イオンの違いが、電荷移動相転移にどのような影響をもたらすかを明らかにし、そのメカニズムについて検討した。 オルトベンゾキノンとコバルトからなる金属錯体には、結晶状態で原子価互変異性(幾何構造が同じで電子状態が異なる互変異性)を示すものが多数報告されている。本研究では、そのうちの一つ、Co(DBBQ)2(py)2・npy (DBBQ=3,5-ジtertブチルオルトベンゾキノン, py=ピリジン)の原子価互変異性が結晶溶媒の含有量によってどのように変化するかを調べた。これまでに報告のない、n=2の結晶を新たに見出し、その結晶構造を明らかにした。選択的重水素置換した試料の固体高分解能NMR測定により、n=2.0の結晶中の分子ダイナミクスが、既報のn=0.5の結晶中におけるそれと大きく異なることを見出した。 セレノシアン酸イオンNCSeを配位子として持つ鉄(II)錯体には、スピンクロスオーバー(SCO)現象を示すものがいくつか知られている。本研究では、固体高分解能 Se-77 NMR測定により、高スピン(HS)錯体に囲まれた低スピン(LS)錯体とLS錯体に囲まれたLS錯体とを判別できるか(キャラクタライズできるか)を検討した。現時点では、異なる環境にある錯体のキャラクタリゼーションまでには至っていないが、HS錯体とLS錯体のNMRシグナルが、比較的短時間の測定で判別できることを明らかにし、SCOダイナミクスについて議論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、本年度は(1a)電荷移動錯体、(2a)SCO錯体、および(3a)原子価互変異性錯体の、NMR測定による格子欠陥のキャラクタリゼーションに加えて、(1b)新しい組成の化合物の合成、(3b)前年度に新たに見出した、結晶溶媒の含有量が異なるCo(DBBQ)2(py)2結晶の構造決定および物性測定、を実施予定であった。 (1a)については本年度は進展はないが、そのかわり(1b)については目的を達成した。 (2a)については、前年度に危惧していた通り、前年度に対象としていた物質の良質の単結晶を得ることは困難であることがわかった。そこで予定通り、別のSCO錯体について検討したところ、固体高分解能Se-77 NMR測定により、NCSe錯体の状態分析が可能であることを見出した。 (3b)については大きな進展があった。また、それにより(3a)に関する理解も進んだ。 以上の(1)~(3)を総合すると、本研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通り、(1)電荷移動錯体、(2)SCO錯体、および(3)原子価互変異性錯体の、NMR測定による格子欠陥のキャラクタリゼーションを実施する。 (1) については、1H-, 2H-, 87Rb-, 133Cs- NMR スペクトル測定により、相転移が起こる条件と不純物の関係を調べる。 (2) については、77Se-NMR測定を他のSCO錯体にも応用し、状態分析法を確立する。 (3) については、研究題目からは若干それるが、本年度の研究遂行中に見出した ある現象を応用して、新規原子価互変異性錯体の合成も試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1) 申請時に予定していた高額な同位体試薬を用いる実験について、前年度の研究結果を踏まえて検討し、費用対効果を考えると遂行しない方がよいと判断したため。 (2) 予想外のNMR装置トラブルのため、本年度に予定していたいくつかの実験を行っていないため。 (3) NMR装置トラブルに対応するためにオシロスコープの購入を考えて、経費を節約していたところ、業者のキャンペーンのおかげで安価に購入できたため。 申請時の使用計画を、少し変更しなければならない。研究遂行のために必要な装置が不調なので、経費の一部を装置の修理費用に充てる。設備備品に充てる計画はなかったが、本研究で使用しているiMac(2007年度設置)が研究遂行に支障をきたすようになってきたので、これを置換える。 その他の変更はない。主に消耗品(実験器具、実験機器、薬品、回路部品)を購入する。旅費については、外国旅費はなく、すべて学会発表のための国内旅費である。
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