2013 Fiscal Year Research-status Report
金属・酸化物複合クラスターの気相生成および小分子との反応の組成依存性
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24550010
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宮島 謙 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (20365456)
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Keywords | 酸素脱離 / セリウム / マンガン / 酸化物 / クラスター / 気相 |
Research Abstract |
本研究の目的は金属クラスターと酸化物クラスターの複合体を気相生成しCOやNO等の小分子との反応性を組成毎に調べ比較することで、白金代替触媒などの実用触媒を設計する際の指針となる知見を提供することである。本年度は、クラスターの生成条件の長時間に亘る安定性など技術的課題を解決することで、銅酸化物、マンガン酸化物、セリウム酸化物などについて、クラスター生成後の加熱による組成変化を再現性よく連続測定できるようにした。 銅酸化物クラスターについては、特に活性なクラスター(例えばCu8O5+)の表面に水分子が付着したものが共存し、質量スペクトル上で重なり合って簡単には分離できない問題があった。水が付いたクラスターも付いていないクラスターも全て同位体分布を考慮し、実測スペクトルに合うようにフィッティングすることで、各クラスターの生成量を分離することに成功した。 また、多種の酸化物が知られているマンガンやバナジウムについて、加熱温度と組成の変化を詳細に得ることができた。マンガン酸化物はバルクでは加熱によりMnO2→Mn2O3→Mn3O4→MnOとなることが知られているが、気相クラスターのMnxOy+でも730℃に加熱することによって酸素が脱離しx:y=3:4組成に変化することがわかった。バナジウム酸化物クラスターVxOy+ではx<15ではV2O5が、それ以降ではVO2(高温ではx>20でV2O3)が構成ユニットとなっていることがわかった。 Ce-Pr, Ce-Yの複合酸化物について質量スペクトルの分析を行った。同位体分布の重複が著しいため、異原子の置換の程度が多くなると帰属が難しいが、生成させることが確認できた。Ce5O10+のCO反応性はCe原子をPr原子で1個置換することで消失することが見出された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の結果を踏まえ、探索範囲を広げるために今年度は実験の効率化と測定精度の改善が必要であった。そこで今年度はクラスター生成条件の安定化と測定の自動化を進めることによって、疑似的な昇温・降温脱離スペクトルを気相酸化物クラスターについて再現性よく測定できるようになった。さらに同位体分布の重なりを分離し副生する水付着クラスター等の寄与を見積もることで、今までより詳細に各組成のクラスター生成強度の温度による変化を議論できるようになった。したがって研究の前半の目標はおおむね達成できた。 酸化物クラスターを生成させる際、混合槽を用いてキャリアガスのヘリウムに酸素を0.1~数%で混合させるが、ヘリウムを流し続けると酸素濃度が徐々に低下してゆくことによって酸化物クラスターの組成が偏ってしまう。そこで約30分毎にガスを再調製していたが、クラスター生成条件の再現性に問題があった。今回マフフローコントローラーを導入し、十数時間に亘ってクラスター生成条件を安定に維持できるようになった。また、ヘリウムガスパルス内で生成させたクラスターを真空槽内に放出する前に、温度制御した銅パイプに通して熱平衡に到達させるが、昨年度までは設定温度と得られる質量スペクトルの再現性に課題があった。まず、銅パイプをセラミックス部品によって断熱し、また直接極細シース熱電対をパイプ内に入れ、ヒーターをプログラム温度調整計によって制御することにより、再現性良く毎分5~7℃の温度勾配で室温→1000 K→室温の測定が行えるようになった。これらの改善によって酸化物クラスターの酸素分子脱離の様子を疑似的な昇温・降温脱離スペクトルとして得ることができるようになった。 複合酸化物クラスターについては単一組成の酸化物クラスターについて昨年度の結果などの再測定を行うことを優先したため、当初の予定に比べて実験が進んでいない。
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Strategy for Future Research Activity |
研究対象とするクラスターの種類および装置の改良について、最終年度のH26年度は次のような方針で進める。(1)貴金属のクラスターに異種元素を混ぜるアプローチによって、それと似た性質をもった多元素金属クラスターを探索する。(2)担体物質としての酸化物クラスターとその酸化状態による反応性の違いを網羅的に調べる。(3)複合酸化物クラスターについて、加熱による安定組成の変遷および反応性の組成依存性との関係について実験を進める。(4)貴金属-酸化物複合クラスターについて、貴金属原子が付着することで酸素脱離温度がどのように変化するか調べ、バルクで知られている脱離開始温度の低温側へのシフトが分子スケールにおいても見られるかどうか確かめる。(5)これらの結果を総合的にまとめて触媒モデルとして最適な組み合わせについて、反応速度を求め反応メカニズムについて定量的な議論を行う。(6)クラスターの加熱部分の課題は断熱の工夫によって改善されたが、現在の銅パイプに室温の乾燥窒素を流す冷却方法では放冷に4時間以上を要する問題が生じている。そこで測定可能な温度範囲と強制冷却が可能なシステムに改良する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
クラスター加熱部の改修は自ら旋盤加工することで達成でき、また真空ポンプと小型分光器を近隣の研究室より譲り受けることができた。そのため、当初の予定より小規模の支出となった。 最終年度のH26年度は、触媒-担体クラスター複合体の反応性実験およびその中で有望な組成のクラスター複合体に対する詳細な測定を行う。生成されたクラスターのシグナル強度が加熱によって低下し、さらに速度分布の広がりに由来する質量分解能の低下が課題となっている。そこで加熱機構の次に冷却機構を追加導入し、複合クラスターの解析に要求される良い質量スペクトルを得られるようにする。昨年度使用を予定していた助成金は貴金属試料および酸化物焼結試料の購入、冷却機構導入のための製作費、継手の購入に充てる。
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