2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24550012
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
中田 宗隆 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (40143367)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ルミネッセンス分光法 / 高分子劣化 |
Research Abstract |
これまでは微弱なために強度しか分析あるいは研究に利用されていなかったルミネッセンスを,最近,開発した「フーリエ変換型微弱発光分光分析装置」を使って,紫外可視吸収スペクトル,蛍光・りん光スペクトル,赤外吸収スペクトルと同じようにスペクトルとして観測し,各発光種の発光バンドの分離ならびに発光バンドの帰属を試みる.すなわち,電子分光法,赤外分光法,ラマン分光法などと同様のルミネッセンス分光法を確立し,新たな分光学の構築を試みる.実際には,アミノ酸,ジペプチド,ポリペプチド,ナイロン,ポリプロピレン,ゴムなどの熱ルミネッセンスを測定し,複数の発光種のバンド分離法の検討,熱発光種の同定,発光機構の解明などを行う.さらに,ルミネッセンス分光法の確立および新たな分光学の構築のために,発光するための条件を検証する.とくに,発ルミネッセンススペクトルの加熱時間依存性,加熱温度依存性,試料雰囲気依存性(酸素および窒素)などを詳しく調べ,スペクトル変化を解析する.その結果,熱ルミネッセンスの原因の一つとして,アミノ基やアミド基の孤立電子対と酸素(あるいは酸素二量体)との相互作用の可能性を検討する.また,これまでに高分子の酸化劣化機構として知られているラッセル機構の理論に基づいて,高分子からの水素脱離によるラジカル生成,酸素付加による過酸化ラジカル生成,ラジカルから生成する励起カルボニルや一重項酸素からの熱ルミネッセンスの可能性を検討し,高分子の酸化劣化の機構を分子レベルで解明する.さらに,高分子に放射線を照射したときの劣化に伴う熱ルミネッセンススペクトルの変化を観測して,放射線の影響,劣化の機構,発光の機構などを解明する.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は,ゴムおよびポリプロピレンの熱ルミネッセンススペクトルの変化と,それらに放射線を照射したときの変化を中心に研究を推進した.具体的にはフーリエ変換型微弱発光分光分析装置を用いて,窒素中ならびに空気中で天然ゴム,クロロプレンゴム,エチレンプロピレンジエンゴムなどの熱ルミネッセンススペクトルを,室温から180℃の温度で観測した.また,窒素中ならびに空気中でそれぞれのゴムに様々な線量の放射線を照射したときに,熱ルミネッセンススペクトルがどのように変化するかを検討した.天然ゴムでは,窒素中で放射線を照射しても熱ルミネッセンスは観測されなかったが,空気中で照射すると631 nmに強いルミネッセンスが観測された.クロロプレンゴムでは放射線を照射しなくても,加熱するだけで塩素が脱離し,ルミネッセンススペクトルが659 nm付近に観測された.また,エチレンプロピレンジエンゴムでは,空気中で放射線を照射した試料を,空気中で加熱したときのみに熱ルミネッセンスが観測された.スペクトルは678と523 nmの発光バンドに分離することができ,それぞれを過酸化化合物と励起カルボニルに帰属した.以上の研究成果を学術雑誌Polymer J.に投稿した. また,殺菌,殺虫のために放射線を照射する食品の出荷用包装材であるポリプロピレンの熱ルミネッセンススペクトルを測定した.スペクトルの変化から,数十Gyというかなり低い線量の放射線照射でも,その履歴を検知することができた.さらに10ヶ月経った試料についても測定を行い,検知できることを確認した.フーリエ変換型微弱発光分光分析装置による熱ルミネッセンススペクトルの測定が,感度の高い放射線照射のスクリーニング法として有用であることを確認した.以上の研究成果をアイソトープ協会の学会誌であるRADIOISOTOPESに投稿した.
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度では,フーリエ変換型微弱発光分光分析装置によって測定された熱ルミネッセンススペクトルの変化を解析することによって,他の分光法と同様に,高分子の熱劣化,酸化劣化,放射線劣化などを解明できることを示した.平成25年度では,以下のテーマで研究を推進する.1)融点以下(150℃)でのポリプロピレンの酸化劣化機構の解明:ポリプロピレンの放射線劣化の研究で,ポリプロピレンは数時間加熱すると,放射線を照射しなくても,150℃という低温でも熱ルミネッセンスを示すことがわかった.そこで,平成25年度には低温でのポリプロピレンの熱ルミネッセンス,バンド分離による個々の発光種のスペクトル変化の観測,加熱反射赤外スペクトルの測定による発光種の同定,電子スピン共鳴スペクトルの温度変化によるラジカル種の確認,熱酸化劣化機構の解明などを行う.2)ナイロンの熱ルミネッセンススペクトルの測定と解析:以前に解析したポリリシンと同様の主鎖をもち,側鎖にアミノ基をもたないナイロン6について,窒素中,空気中で熱ルミネッセンススペクトルの測定を行う.スペクトルのバンド分離から励起カルボニルの発光と一重項酸素の発光のそれぞれの挙動を観測する.また,主鎖の長さの異なるナイロン11についても同様の実験を行い,熱ルミネッセンススペクトルが主鎖の長さに依存するかどうかを調べる.3)自然界の植物の葉の蛍光スペクトルの測定と解析:フーリエ変換型微弱発光分光分析装置の感度の高さを検証するために,太陽光のもとで光合成を行っている植物の葉をそのまま装置に入れ,光合成に由来するごく微弱な蛍光スペクトルを観測する.また,光化学系Iと光化学系IIの蛍光に分離し,それぞれの波長や寿命などを決定し,新しいルミネッセンス分光法が他の分光法と同様に,重要な知見が得られることを具体的に示す.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(6 results)