2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24550012
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
中田 宗隆 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (40143367)
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Keywords | ルミネッセンス分光法 / 高分子劣化 |
Research Abstract |
本研究の目的は,これまでは微弱なために強度しか分析あるいは研究に利用されていなかったルミネッセンス(発光)を,電子吸収分光法や蛍光・りん光分光法,赤外分光法,電子スピン共鳴法などと同様にスペクトルとして観測し,様々な現象を分子レベルで解明する新しい「ルミネッセンス分光法」の構築を試みることである.これまでに,微弱な発光でも,検出する積算時間を延ばすことによってスペクトルとして観測できる「フーリエ変換型微弱発光分光分析装置」を用いて,アミノ酸,ジペプチド,ポリペプチド,ナイロン,ポリプロピレン,ゴムなどの熱ルミネッセンススペクトルを測定し,スペクトルの形状が加熱時間とともに複雑に変化することを見出した.この変化は複数の発光種のそれぞれの強度の時間変化が異なるために起こる現象であると考えられる.そこで,もしも,他の分光法と同様に,観測したルミネッセンススペクトルをそれぞれの発光種のスペクトルに分離して,それぞれの発光種の発光強度の時間変化などを解析することができれば,これまで複雑で解釈することが難しかった発光機構などを分子レベルで解明できる可能性がある.その目的のために,観測したスペクトルを複数の発光種の発光スペクトルに分離する様々な数学的な解析法を試みた.その結果,各発光種の発光スペクトルがガウス関数で近似できると仮定して,最小二乗法によって各発光種の発光スペクトルの中心波長,半値幅,強度を求めるバンド分離法が最も適した解析方法であることを見出した.また,加熱による酸化に伴う発光だけではなく,高分子にガンマ線を照射したときに起こる劣化の現象を,新たに構築したルミネッセンス分光法を用いて研究した.具体的には,ポリプロピレンの発光機構と放射線劣化機構を解明して論文に発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成25年度には,150℃(固体)あるいは180℃(液体)の一定温度で測定したポリプロピレンの熱ルミネッセンススペクトルの解析を進めた.観測したそれぞれのルミネッセンススペクトルをガウス関数でバンド分離をした結果,すべてのスペクトルは加熱温度および加熱時間に関わらず,3種類の発光種のスペクトルで再現できることがわかった.それらの中心波長はそれぞれ490 nm,660 nm,740 nmであった.490 nmの発光はポリプロピレンが熱酸化したときにできる励起カルボニルからのエネルギー移動によって発光したものであると仮定した.この発光種は,加熱時間とともにまわりの領域の酸化が進む影響を受けて,中心ピークの波長は長波長側にシフトすることがわかった.一方,660 nmと740 nmの発光スペクトルのピーク波長は加熱時間に依存しなかった.また,これらの発光のエネルギー差が一重項酸素の二量体からの2種類の発光のエネルギー差に近いことから,ポリプロピレンのペレットの表面または内部に吸着した酸素からの発光の可能性があることを示唆した.また,ポリプロピレンのペレットに空気中で放射線を照射すると,加熱直後に490 nmの発光種が強く発光し,その後に強度は減少した.これは放射線照射によって炭化水素ラジカルが生成し,さらに,空気中の酸素と反応して過酸化ラジカルが生成し,その過酸化ラジカルが加熱直後に発光したためであると推定した.以上の研究成果をPolymer Degrad. and Stab.とChem. Phys. Lett.に投稿して受理され,印刷された.また,ポリプロピレン製の食品包装材に照射した放射線の検出に応用できることがわかり,その研究成果をRADIOISOTOPESに投稿して受理され,印刷された.よって,当初の研究計画以上に進展していると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度では,フーリエ変換型微弱発光分光分析装置によってアミノ酸,ジペプチド,ポリペプチド,ナイロン,ポリプロピレン,ゴムなど,様々な物質の微弱な熱ルミネッセンススペクトルを測定した.平成25年度には,測定した熱ルミネッセンススペクトルの時間変化を解析するために,様々な数学的方法を試み,ガウス関数を仮定することによって,観測したスペクトルを複数の発光種のスペクトルに分離する解析法が最も適していることを見出した.このようにして構築したルミネッセンス分光法を,これまで複雑なために十分に解明できていなかった高分子の熱酸化劣化および放射線劣化の機構の解明に応用した.平成26年度では,構築した新しいミネッセンス分光法がどこまで応用できるのかを確認するために,ナイロンの熱酸化劣化機構の解明を中心に研究に取り組む予定である.具体的には,1)ナイロンのパウダーを180℃の温度一定に加熱して,ルミネッセンススペクトルを測定する,2)測定したスペクトルの全体の強度の時間変化を求める,3)最小二乗法によってスペクトルを複数の発光種のスペクトルにバンド分離する,4)それぞれの発光種のスペクトルの中心波長,強度の加熱時間変化を求め,比較する,5)ナイロン6とナイロン66で同様の実験と解析を行い,ルミネッセンススペクトルの時間変化の違いを分子レベルで議論する,6)研究成果を学会で発表し,また,論文にまとめて投稿する.高分子の熱酸化劣化の機構は,以前にはラッセル機構が信じられ,最近ではCIEEL(Chemically initiated electron exchange luminescence)機構が提案されている.今回の新たに構築したルミネッセンス分光法を応用することによって,高分子の熱酸化劣化の機構を分子レベルで解明し,新たな知見を提案する予定である.
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Research Products
(8 results)