2013 Fiscal Year Research-status Report
分子光解離で生成した”もつれ”励起原子対からの蛍光放出促進機構の解明
Project/Area Number |
24550013
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
穂坂 綱一 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (00419855)
|
Keywords | 量子もつれ / 水素分子 / 光解離 |
Research Abstract |
水素分子に30eVの真空紫外光子を照射し光解離させると、磁気量子数のもつれた励起原子対が生成する。この励起原子対からの2光子放出過程において、その放出角度相関と検出時間相関に顕著な圧力効果が見られ注目を集めていた。それらの圧力効果が”もつれ”の喪失で説明できるであろうとの仮説のもと、両者の関係解明を目的に研究を開始した。 しかしH24年度に検出器と計数系の更新を進めた結果、この圧力効果が”もつれ”の喪失とは関係のない、宇宙線ミューオンの影響を受けていることが明らかになった。宇宙線ミューオンの同時計数実験への影響に関してはそれまで報告例が無かったが、影響を無視できる条件を見つけ再測定したところ、従来の圧力範囲では圧力効果が見られなかった。 H25年度は計測する圧力範囲を更に2桁高い100Paまで広げ、圧力効果の探索を行ったが有意な圧力効果は見られなかった。最高圧である100Paでは解離原子が蛍光を放出するまでの間に複数回、周囲の分子と衝突を繰り返すはずであり、光子の放出角度相関に全く衝突の効果が見られないことは興味深い。現在見られている放出角度分布が装置由来のアーティファクトでない事は、円偏光を用いた参照実験により確認している。 また、実測した光子対放出角度相関と理論予測の間には定量的な食い違いもみられ、その原因を究明するためにパラ水素、HD、重水素を用いた実験も行った。重水素を用いた原因は光解離時の非断熱遷移の影響を考慮するためである。実験の結果、水素でも重水素でも最初に生成する2電子励起状態は同じであることが分かった。最初に目的とした非断熱遷移の光子放出角相関に与える影響は分からなかったが、2電子励起状態研究においては新しい知見が得られた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H24年度に当初の研究目的から、”もつれ”変化反応の探索、及び、理論と実験の間にある定量的な不一致の原因検討へと方向転換し、H25年度はその方向で研究を遂行した。 ”もつれ”変化反応の探索に関しては、従来よりも水素ガス圧を2桁高い100Paまで上げて探索した。この圧力条件では励起水素原子と周囲の水素分子との衝突断面積の文献値より計算すると、光子が放出されるまでの間に複数回の衝突が起こりうる。衝突に伴う”もつれ”喪失反応の観測を目的に実験を行ったが、結果的には放出角度相関には影響は見られなかった。周囲の分子との衝突による”もつれ”の破壊が観測されなかった原因は検討中である。 上記の高圧化は、水素ガスセルの前後に空いていた光の通り道をアルミニウム薄膜で塞ぐことで達成した。30eVの光に対してはアルミニウムは一定の透過率を持つためである。更なる高圧化のためには、セルと検出器の接合部からのガスの流出を手当てする必要があり、装置改造の準備は完了している。 理論と実験の間にある定量的な不一致の原因検討に関しても、パラ水素、HD、重水素を用いた実験も行った。原因究明への決定的な手掛かりは得られていないが、実験的な証拠の蓄積により、徐々に捜索範囲の絞りこみは行われつつある。
|
Strategy for Future Research Activity |
H26年度は25年度に引き続き、更なる高圧実験と不一致の原因究明を行う。前者に関してはガスセルの気密をあげることで達成し、既に設計は完了している。秋の放射光ビームタイムに実験を行う予定である。 後者に関しては30eVの光子入射に伴い生成する電子、イオン、中性原子の影響を検討する。 H25年度の実験で光電子の存在が一光子放出過程に影響を与えることは明らかになった。光電子の運動エネルギーは基底状態の分子を2電子励起状態まで励起するほどには高くないので、直接の影響は考えがたいが、その電磁気力が分子のもつれに影響を与える可能性は排除できない。ガスセル方式をいったん止め、ノズル方式で生成した電子、イオン、中性原子が滞留しない条件での実験をおこない、その影響を検討する。ガスノズルの準備は既に完了している。 また、後者に関しては更にもつれの時間変化の影響を検討するため、ドイツの放射光施設Bessy IIでの実験を行う。Bessy IIでは放射光のパルスパターンの中に広い時間間隔が用意されており、光励起されてから光子対が放出されるまでの時間変化を時々刻々と追跡することができる。この実験用のビームタイムは夏にドイツの共同研究者が確保している。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費を効率的に利用したため未使用額が発生した。未使用額も次年度の計画の為に使用する。 本研究で重要な役割を持つ高感度の光子検出器はCsIが塗布されたMCPであり、その潮解性のため感度の劣化が早い。次年度にあおいても一対、2枚を更新する。 また、セルの改造とドイツ出張のためにも予算を使用する。
|