2013 Fiscal Year Research-status Report
電子伝播関数を用いた分子の多価イオン状態の計算手法開発
Project/Area Number |
24550015
|
Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
井田 朋智 金沢大学, 物質化学系, 准教授 (30345607)
|
Keywords | 電子伝播関数 |
Research Abstract |
前年度構築した研究環境により、1-クロロ2-ブロモエタンの2価イオン状態における炭素間結合の解離過程の探索を行った。2価イオン状態として最も高い占有軌道(HOMO)から5つ下の軌道まで計10電子の中から二つの電子を失った状態を対象として、一重項2価イオン状態は15種類、三重項2価イオン状態を10種類選択し、それぞれC-C間距離またはC-Br間距離に対する全電子エネルギーポテンシャルを計算した。この中に、基底状態のC-Br解離エネルギー(約260 kJ/mol)より低い活性化エネルギー(約160 kJ/mol)によってC-C結合が解離する過程を発見した。この時のC-Br解離エネルギーは約190 kJ/molであることから、この解離過程を制御することでC-Br結合よりC-C結合を優先して解離させることが可能であることが示唆された。ただし、その他のほとんどの2価イオン状態におけるC-Br結合はC-C結合より弱く、実験で示されたようなC-C結合が優先解離する実験結果を得ることは困難だと推測される。この実験事実を解釈するためには分子内振動を含めた計算結果を解析することが必須だと考えられるが、未だ当該計算手法には幾つか問題があり、計算の効率化を進められないため、分子内振動を考慮した理論的解析には至っていない。 一方、前年度の報告書にも述べたように本研究の基礎部分が共通である「電子伝播関数法におけるスピンスケール補正」の研究は進展を見せ、この研究の進捗状況によっては、本研究の研究計画時には想定していない計算手法の発展が期待される。また、電子伝播関数による他の展開として、電子伝播関数の自己エネルギー部分に軌道緩和に対する補正項を加えることで計算精度が著しく上がることが判明し、この成果はすでに投稿論文として掲載された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究課題(1)に挙げる電子伝播関数計算プログラムの並列化について、前年度に構築した計算機によって並列化が可能であることが判明したので、本年度更なる効率化を図るためNVIDIA社製TITAN GPUを購入しプログラムの最適化を試みた。しかし、GPU内部の変更に伴うCUDAバージョンの変化より、以前のプログラムは効率的に動作しないことが判明した。これ伴い、研究課題(2)の密度汎関数法による多価イオン状態計算手法の開発の進捗も芳しくなく、実質的に課題(2)は頓挫している状態である。また、研究課題(3)の2価イオン状態の分子物性解析については、前年度に構築した研究環境によって進めていたが、実験事実として存在するべき2価イオン状態における炭素間結合の解離過程が、電子伝播関数計算によって再現できなかった。この詳細は秋季北陸地区化学会にて発表した。 一方、当初の研究計画では想定していなかった電子伝播関数に対する計算効率の改善方法として、スピンスケール補正近似や軌道緩和項への補正など、いくつの研究は進展しており、当該申請者は再度研究計画を再考し、本研究本来の目的を研究期間内に達成する見込みは十分あると確信している。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の進捗状況は芳しくなく、また当初予想されていた改善方法とは違った成果が幾つか上がっていることから、研究課題の絞り込みと研究方針の変更を次のように行う。 まず研究を遂行する上での工夫として挙げた、課題(1)および(3)より優先させると予定していた課題(2)つまり「密度汎関数法を用いた多電子伝播関数プログラムの開発」は一時凍結し、課題(1)の「電子伝播関数計算プログラムの並列化」およびスピンスケール補正等の近似の導入による効率化を最優先に図る。この課題克服により、課題(3)の「2価イオン状態の分子物性解析」が遂行可能と成るため、課題(2)の後退による研究規模の縮小は回避されると考えられる。 また、研究方針の変更として、既に国内学会にて報告した「電子伝播関数のスピンスケール補正」を推進し、少なくともこの成果を投稿論文としてまとめることで、本研究の成果の一環として、研究成果の公表が可能となる。 当初考えられた研究方針および計画とは異なるが、以上の方策を取ることで、電子伝播関数法を用いた新規電子状態計算プログラムの開発および物性解析手法の構築という点では十分研究を完成させることが可能である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度予定していた論作成費が、論文の査読期間との関係で余剰金として発生したため。 当該余剰金は予定通り次年度の論文作成費に充て、早々に研究成果とし公表する。
|
Research Products
(3 results)