2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24550016
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
鈴木 孝臣 信州大学, 工学部, 准教授 (20196835)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 結晶成長 |
Research Abstract |
これまでに研究の対象としてきた無機酸化物単結晶はアパタイト、ルビー、水晶等である。いずれについても、水、フォルムアミド等の液滴を結晶面上に滴下し、デジタルカメラで撮影することで液滴と結晶面との接触角を測定した。液滴の接触角から、Fowkes近似およびWuの調和平均式より、表面自由エネルギー密度を算出した。また結晶中心から結晶面までの距離を測定し結晶面の成長距離とした。算出した表面自由エネルギー密度と結晶面の成長距離を比較した結果、ルビー単結晶では比例関係が見られた。これは一見、結晶成長分野の理論でよく知られたWulffの関係を満たしているかのように見える。しかし、Wulffの関係は理想的な平衡形の結晶においてのみ有効な関係であり、実験で得られるような非平衡な成長形の結晶では本来成立しない関係である。ここで当研究者が求めた表面自由エネルギー密度が理想的な平面の表面自由エネルギー密度ではなく、ステップ自由エネルギーをも含むものと仮定することで実験結果を評価することが可能であると結論付けられた。 実測の表面自由エネルギー密度に含まれるステップ自由エネルギーを評価する目的で、ルビー単結晶表面の光学顕微鏡観察を行った。光学顕微鏡で目視できる表面の段差の長さを測定し、マクロスコピックなステップ長とした。このマクロスコピックなステップ長と表面自由エネルギー密度と比較し、ほぼ一次の関係であることを確認した。光学顕微鏡で識別できる表面の凹凸はμmレベルであり、原子・分子サイズのミクロスコピックなステップと比べると数千倍のサイズであるが、マクロスなステップ長がミクロなステップ長を反映するものと見なすことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平衡状態である結晶は、その表面自由エネルギー密度が結晶面の成長した長さに比例することがよく知られている。これはウルフの関係式として100年以上前に理論的に導出された関係である。しかし、結晶成長分野において実験的にこの表面自由エネルギー密度を求めることは困難であると考えられ、その試みはほとんど行われてこなかった。一方、コロイド界面化学分野において固体の表面自由エネルギー密度を液体接触角から求めることは広く行われている。特に、有機物ポリマーの表面自由エネルギー密度に関しては古くから研究が行われ、接着、表面濡れ性の議論がされている。そこで当研究者はこれまでにコロイド界面化学分野での表面自由エネルギー密度測定の手法を初めて結晶表面に応用し、結晶モルフォロジーとの関係について結晶成長分野の専門家との議論を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
表面自由エネルギー密度と結晶表面でのステップ長との関係より、観測される表面自由エネルギー密度は理想的な平面、すなわちテラス面の表面自由エネルギー密度にステップ自由エネルギーを加えたものであるとの仮定は、ほぼ間違いないものであると結論付けられる。しかしより定量的な議論をするために、ミクロなステップ長を正確に見積もる必要がある。さらにステップ自由エネルギーと線張力との関係を考察していくために、アルミニウムなどの金属片の引張り試験を行い、塑性変形に伴う表面自由エネルギー密度の変化を見積もる必要がある。今後、引張り試験を行ったアルミニウム片の表面を微分干渉顕微鏡で観察する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ルビー、水晶など天然結晶の表面自由エネルギー密度の測定を目的に天然結晶の購入を予定していたが、24年度はこれまでに合成した人工ルビー、人工水晶を中心に研究を行った。そのため、237,730円を次年度に使用する。次年度には新たに天然結晶を購入する。さらにこれまでの成果を発表するために学会等に参加する旅費として使用することを計画している。
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