2012 Fiscal Year Research-status Report
温度可変単一分子蛍光分光による励起状態反応素過程に対する構造揺らぎ効果の解明
Project/Area Number |
24550018
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
三井 正明 静岡大学, 理学部, 准教授 (90333038)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 単一分子分光 / 電子移動 / 蛍光 / 水素原子移動 |
Research Abstract |
本研究では,励起状態の反応過程として重要な電子移動と水素原子移動に着目し,申請者らが開発した温度可変単一分子蛍光分光装置を用いて,励起分子1個1個の速度論的情報(反応速度の不均一性)と構造情報(距離・配向揺らぎ)を取得し,それらに対する温度効果などを調べる。これにより従来の集団平均測定では捉えることが困難であった構造・環境揺らぎが反応速度に及ぼす影響を明確に捉え,それらの相関を定量的に評価することを目的としている。このような目的の実現に向け,本年度は以下の(1)、(2)の研究を行い成果を得た。 (1)γシクロデキストリン薄膜中におけるペリレンジイミド誘導体の光誘起水素原子移動(HAT)反応について重点的に研究を推進した。蛍光ブリンキングを引き起こすHAT反応に対する温度効果を明らかにするため、γCD薄膜基板の温度を制御して単一分子のブリンキング挙動の観測を行った。その結果,高励起三重項状態から起るHAT正反応には温度依存性が観測されなかったが、HAT逆反応に関しては温度依存性が確認され,包接錯体内HAT反応に対する活性化エネルギーの評価に成功した。また,1分子毎の反応速度をブリンキングの解析から評価し、その統計分布を明らかにした。その結果,反応速度の揺らぎが大きいほど,反応が速く進行するという相関を見出した。 (2)高発光性アントラセン誘導体およびそれをゲストとして包接したホウ酸結合超分子カプセルを高分子薄膜中に分散させ,その単一分子分光を行った。その結果,カプセル化による保護によってゲスト分子の項間交差過程(項間交差量子収率と励起三重項状態の寿命)の不均一性が抑制され,さらに光退色量子収率が1/10程度まで低下することが明らかとなった。これにより,この超分子カプセル保護アントラセン誘導体が1分子レベルで長時間計測が可能な超安定蛍光プローブ材料であることを定量的に示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究のターゲットとしている光誘起界面電子移動と光誘起水素原子移動のうち、後者の反応については、現在までにシクロデキストリン包接錯体の系を対象として、反応速度に対する温度効果を単一分子レベルで調べ、本研究の目的である反応速度と構造・環境揺らぎの間の相関を明らかにすることに成功した。この成果の国際学術論文誌への投稿は次年度に持ち越すこととなってしまったが、本研究の目的の半分程度を本年度中に達成することができた。また、研究申請の段階では予定していなかった高発光性アントラセン誘導体を包接したホウ酸エステル結合超分子カプセルの単一分子分光を行う事に成功した。このような超分子カプセルの光安定性や光物理過程を単一分子レベルで解明したのは本研究が初であるので、当初の計画以上に研究が進展していると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、半導体界面における吸着色素の光誘起電子移動を中心として単一分子分光による研究を推進する。具体的には以下の研究を推進する予定である。 ・酸化物半導体-電解質界面における単一増感色素の酸化・還元過程の解明 色素増感太陽電池や光触媒材料で重要な半導体材料である酸化チタンなどを中心として、その表面に吸着させた増感有機色素の単一分子蛍光分光に取り組む。一般に吸着色素から半導体への光誘起電子移動速度には何桁にもおよぶ大きな不均一性が観測されているが,単一分子レベルで界面電子移動を評価することにより,その不均一性を直接評価することが可能となる。本研究では,増感色素には光吸収特性と光安定性に優れた蛍光色素を用い,電解質にはヨウ素レドックスを含むイオン液体などを使用して,界面で起こる電子注入(酸化)と電荷再結合(還元)過程の速度定数やその揺らぎの定量的評価を,単一分子の蛍光寿命や蛍光自己相関関数を求めることにより行っていく。また励起レーザー光の偏光状態を制御することや単一分子の蛍光偏光度測定をあわせて行うことにより,界面吸着色素の配向やその揺らぎに関する情報を取得する。以上のような実験的アプローチにより,半導体界面における増感色素の酸化・還元過程を,反応速度と吸着構造の不均一性・揺らぎといった観点から明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費の使用を予定しているものは,以下に記すような試料作製・測定に関わる消耗品の購入や研究成果発表に関わる諸経費である。初年度に本研究を推進する上で必要な設備備品の購入は既に終えているので、次年度は設備備品の購入は行わない予定である。 [各種消耗品]:色素試薬、溶媒、雰囲気ガス(窒素、アルゴン)、液体窒素、ITO付きカバーガラス、チタニアコロイド溶液、電解質溶液・規格瓶、マイクロピペッタ用チップ、カバーガラス、油浸対物レンズ用オイル、脱気用注射針、超純水製造機用フィルターセット また,学会への出張旅費(光化学討論会2013(愛媛)、分子科学討論会2013(京都))や論文原稿の英語校閲料金、論文別釣り料金、学内分析センター設備機器の利用料金への使用などを予定している。
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Research Products
(8 results)