2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24550019
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山口 毅 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80345917)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | イオン液体 / 伝導度 / 粘度 / 緩和 / 輸送物性 |
Research Abstract |
小容量サンプルでのMHz領域における交流電気伝導度測定を目的として、SMAコネクタを用いた誘電測定セルを作成し、イオン液体の測定に用いた。必要液量を0.3mlまで減少させることができ、25℃におけるイオン液体[bmim][PF6]の測定結果は、Buchnerらによる既報の結果と700MHz以下の周波数領域で良好に一致した。しかし25℃から10℃以上外れた温度での測定結果は100MHz領域で既報のものと大きく外れていたため、別途、市販の高温用誘電プローブを用いた液容量1.5mlの測定セルを作成した。この測定セルによる測定結果は、S/Nが先述のセルより劣るものの、10℃~70℃の範囲で既報のものと一致した。 SMAコネクタ型のセルを用いて、アルキル鎖長が異なるイオン液体[Cnmim][PF6](n=4-8、nはアルキル鎖長)の交流電気伝導度測定を行った。山口らによる既報の粘性緩和スペクトルと比較したところ、全ての試料で伝導度緩和は粘性緩和より数倍速く、両者のデカップリングの程度はアルキル鎖長に依存しなかった。また、伝導度緩和の緩和周波数は直流当量伝導度に概ね比例し、アルキル鎖長の増大に伴う当量伝導度の減少は、緩和時間の増大に起因していること、および、鎖長の増大に伴うワルデン積の減少は、高周波極限ずり弾性率の減少が原因であることが明らかとなった。さらに、[C8mim][PF6]について、山室らにより中性子準弾性散乱によって決定された構造緩和と比較したところ、伝導度緩和は分子スケールでの構造緩和とよく対応し、イオン伝導は分子スケールの構造緩和に支配されていることが分かった。 これらの研究に加えて、イオン液体との比較を目的として、無極性液体における分子構造と粘性緩和スペクトルの関係、および、ポリマーゲル電解液における粘性緩和と伝導度緩和の対応関係についての研究も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度に予定していた測定装置の構築に関しては、概ね予定通り進んでいるが、市販誘電プローブを装着したセルによる測定は、低誘電率試料でS/Nが不十分であり、測定法、解析法に次年度以降の改良が必要である。また、直流伝導度測定セルの製作は完了していないが、交流伝導度測定結果の解析より、1MHz近傍の伝導度の平坦部を直流伝導度とみなせる事が分かったので、研究への支障とはなっていない。 平成25年度に予定していたカチオンのアルキル鎖長の効果の検討、および、中性子準弾性散乱との比較について、平成24年度に研究に入っており、一部成果も挙げている。また、当初計画に無かった無極性液体、ポリマーゲル電解液との比較についても、一定の成果が上がっている。 以上の理由により、研究は概ね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
測定装置に関しては、温度可変交流伝導度測定のS/N向上に取り組む。その手法としては、校正方法の改良を検討する。 研究対象については、まず、アニオン、カチオンそれぞれの分子構造が異なる多種のイオン液体の交流伝導度と粘性緩和スペクトルを25℃で系統的に測定する。分子構造とそれぞれの緩和周波数の関係、および、伝導度と粘度の緩和のデカップリングの程度が分子構造にどの程度依存するかを明らかとし、そのイオン液体のワルデン積とデカップリングの大きさの関係を検討する。分子構造と緩和スペクトルの関係に関しては、平成24年度の研究で無極性液体について得られた知見との比較・検討も行う。 また、数種のイオン液体について、両緩和スペクトルの温度依存性を測定し、デカップリングの大きさの温度依存性を検討する。温度依存性の研究に際しては、構造緩和との関係が重要となるため、山室らによって構造緩和の温度依存性が報告されているイオン液体の測定を優先して行う。 拡散運動と粘性の緩和時間のデカップリングは過冷却液体の分野でも重要な問題であり、分子シミュレーションによって、これまで数多くの研究が行われている。本研究でも代表的なモデルイオン液体について、伝導度緩和と粘性緩和のデカップリングの起源を明らかにするために、シミュレーションや統計力学理論による検討を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、多種のイオン液体の緩和スペクトルの測定を予定しているため、測定試料であるイオン液体の購入に主に研究費を用いる。また、中間成果を7月に行われる国際溶液化学会議、10月に行われる溶液化学シンポジウム、および、12月に行われるイオン液体討論会で発表する予定であり、その参加費、旅費にも本研究費を充てる。
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