2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24550019
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山口 毅 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80345917)
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Keywords | イオン液体 / 伝導度 / 粘度 / 緩和 / 輸送物性 |
Research Abstract |
カチオン・アニオンの化学種およびカチオンのアルキル鎖長を系統的に変化させたイオン液体について、粘性係数と電気伝導度の周波数依存性を測定し、両者の緩和時間の比較を行った。カチオンのアルキル鎖長が同程度の場合には、定常粘度と粘性緩和時間、直流モル伝導度の逆数と伝導度の緩和時間はそれぞれ比例関係にあることが示された。また、イオン種によるワルデン積の変化は、両緩和時間の比と概ね対応していることが分かった。 カチオンのアルキル鎖長依存性に関しては、既報の[Cnmim][PF6]イオン液体(nはアルキル鎖長)に加えて、[Cnmim][TFSA]イオン液体でも測定を行い、PF6系では4~8であった鎖長nの範囲を2~12と大幅に拡張した。PF6系とTFSA系でのアルキル鎖長依存性は定性的には一致していた。 低伝導度のイオン液体で交流電気伝導度測定を行うために、静電容量の大きな平行平板型の試料セルを作成し、測定下限を昨年度までの10 mS/mから0.1 mS/mと大幅に拡張することに成功した。 カチオン、アニオン共に点対称性を持つイオンからなるイオン液体tetraoctylphosphonium bromideで電気伝導度と粘度の周波数依存性を測定した。電気伝導度には、非対称イオンからなる一般的なイオン液体と同様の緩和が見られることから、イオン液体一般に見られる伝導度の緩和は、非対称イオンの回転緩和ではなく、イオンの並進運動の周波数依存性に起因していることが示された。 山室らが中性子準弾性散乱を報告している3種のイオン液体について、粘度と電気伝導度の周波数依存性を、温度を変えて測定した。粘性緩和はどのイオン液体でも構造緩和より遅かった。一方、伝導度緩和については、粘度が低い[PF6]塩、[TFSA]塩では構造緩和と一致しており、[Cl]塩でも40度以上の高温では両者の一致が見られたが、[Cl]塩の低温領域では伝導度緩和が構造緩和より遅くなる傾向が新たに見出された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
申請時の研究計画において予定していた測定は、粘度と電気伝導度の緩和時間の比較を、カチオン・アニオンの化学種、温度、カチオンのアルキル鎖長を変えて行うこと、および、中性子準弾性散乱で報告されている構造緩和との比較を行うことであった。そのうち、カチオン・アニオンの化学種およびカチオンのアルキル鎖長依存性の測定は終了しており、温度依存性の測定および構造緩和との比較も、実験データの質の向上の余地は残っているが、おおむね終了している。 以上の理由により、本研究課題は当初の計画以上に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画で残された課題である、構造緩和と粘度・伝導度緩和の比較に関しては、昨年度に作成した平行平板型の試料セルを用いて、Cl塩でS/Nの高い伝導度スペクトルを測定し、昨年度見出された構造緩和と伝導度緩和とのずれの詳細な解析を試みる。 本研究課題の発展として、新たなイオン液体のカテゴリーとして提案されている、溶媒和イオン液体とみなされる電解質溶液に関する研究を行う。渡邊らによって溶媒和イオン液体として提案されているリチウム塩+グライム溶媒混合系については、幅広い濃度範囲で緩和スペクトルを測定する。特に、予備的な測定および理論計算によって、溶媒和の強さに依存して低濃度域での伝導度緩和が大きく変化することが見出されたため、低濃度域での伝導度緩和に注目した測定を行う。 また、イオン液体との比較対象として、濃厚非水電解質溶液の典型である、リチウム塩のプロピレンカーボネート溶液についても研究を行う。これまでの予備的な研究によって、イオン液体では粘性緩和が伝導度緩和より遅いのに対し、濃厚電解質溶液では伝導度緩和の方が遅いという全く逆の傾向が見られている。その原因を明らかにするために、粘性緩和・伝導度緩和の系統的な測定に加えて、濃厚電解質溶液での中性子準弾性散乱法による構造緩和の測定を予定している。現在米国NISTの中性子施設に課題申請中である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
低伝導度用の平行平板型誘電セルを作成し、少量の試料での測定が可能となった結果、測定に必要なイオン液体の量が削減され、試料購入費が当初の見積より少なくなったため。 平成26年度は、中性子準弾性散乱測定を予定しており、それに必要な重水素化試料の購入に、平成25年度の残金を充てる予定である。
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