2012 Fiscal Year Research-status Report
X線自由電子レーザー(XFEL)により拓かれる新しい科学に関する理論的研究
Project/Area Number |
24550034
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
今村 穣 早稲田大学, 理工学術院, 講師 (60454063)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | X線自由電子レーザー / 内殻イオン化 / 内殻励起 / 多光子過程 |
Research Abstract |
X線自由電子レーザー(XFEL)は、高強度のX線フェムト秒パルスが生成可能ため、X線損傷が起こる前に回折データを取得できる可能性がある。このことは、難結晶性タンパク質・タンパク質単粒子の構造が解析出来ることを意味し、薬剤標的膜タンパク質等の研究で大きな発展が期待される。上述の実験スキームを実用化するためには、XFELの時間幅をフェムト秒オーダーで精密にモニターし、XFEL発生条件を最適化することが求められる。しかし光学領域で使用されているパルス幅測定手法は、X線領域での非線形感受率が極めて小さいため適用が困難である。そこで、我々は内殻イオン化が同一分子に逐次的に起こることに注目したパルス幅計測手法を理論計算から提案した。具体的には、アニリン分子の2価イオン化(N1s-2)状態において、価電子励起吸収帯が可視光帯まで大幅に長波長シフトすることを利用した実験スキームである。 さらに、実現可能な実験条件において目的とする光学応答が測定可能かどうか、反応速度論の観点から定量的検討も行った。レート方程式から得られたアニリン分子の中性状態、N1s-1状態およびN1s-2状態の存在確率を検討した。照射した光は、10**12フォトンを有する20 fsに中心を持つガウス型パルスである。光が照射されると、N1s-1がまず生成され、その後N1s-2状態が生成されることがわかった。光の強度が弱くなると、オージェ過程で速やかに存在確率が減っていくことがわかる。基本的に照射されている間のみN1s-2状態の存在確率のピークがあらわれるため、N1s-2状態の存在確率とXFELレーザーのパルス幅が対応することがわかる。このことから、これまで困難であったXFELパルス幅が、N1s-2状態による可視光吸収を測定することで見積もれることを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までXFELのパルス幅の測定手法に関して理論的研究を行なった。これは、本研究の主なトピックである、(A)化学反応の追跡、(B)単分子構造解析、(C)新奇物性の発現、の中で直接(B)に関する研究である。蛋白質分子のクーロン爆発を防ぐために必要不可欠なパルス幅の測定手法を提案し、大きな進展があった。(A)、(C)に関する研究を遂行する上でも実験実現性という意味で非常に重要な知見が得られた。
|
Strategy for Future Research Activity |
XFELにより拓かれる新しい科学の根幹となる3つのテーマ、(A)化学反応の追跡、(B)単分子構造解析、(C)新奇物性の発現、に関して今後も研究を行う。これまで(B)に関して主に研究を遂行してきたが、今後(A)、(C)のトピックに関して研究を開始していきたい。引き続き、理化学研究所の初井宇記博士に協力を仰ぎながら研究を遂行する予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
これまで得られた成果の発表のための学会出張および実験研究者との打ち合わせを頻繁に行う予定である。現在、実験・理論の両面から国内外でXFELに関する研究が行われており、XFELの研究状況がめまぐるしく変化している。そのため、学会・研究打ち合わせでの情報交換・議論は必要不可欠である。具体的には、平成25年度中に、初井宇記博士と複数回の打ち合わせおよび理論科学討論会・分子科学討論会での情報収集および成果発表を行う。
|