2012 Fiscal Year Research-status Report
生体膜の揺らぎによるポリペプチドの拡散と膜透過の動的多核NMR解析
Project/Area Number |
24550035
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Himeji Dokkyo University |
Principal Investigator |
岡村 恵美子 姫路獨協大学, 薬学部, 教授 (00160705)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
武知 佑樹 姫路獨協大学, 薬学部, 助教 (30634604)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 生物物理 / 界面・表面物性 / 超精密解析 / NMR / 膜透過 |
Research Abstract |
平成24年度は、ペプチドの拡散や膜透過の場となる“生体膜”の「熱的な揺らぎ」に焦点を当てた。特に、実際の細胞膜に近いモデルとして期待される直径10~20マイクロメートルの巨大ベシクルを対象として、膜中のリン脂質のダイナミクスを高分解能溶液NMRで初めて捉えた。その結果、細胞サイズのベシクルでは、膜のモデルとして汎用されるナノサイズのベシクル (直径100~800ナノメートル)と動的な構造が著しく異なることを見出した。 細胞サイズベシクル中の脂質分子の環境や局所的な運動状態は、曲率の大きなナノサイズのベシクル中とほぼ同じであった。しかし、リン脂質分子全体の回転運動は、細胞サイズベシクル中で遅くなることが分かった。回転運動に起因する分子回転相関時間は、細胞サイズベシクル中でサブ秒~秒と計算され、報告されている従来のナノサイズベシクル中の相関時間(ピコ秒~ナノ秒)よりも著しく大きかった。また、リン脂質の頭部親水基と膜内部の疎水基間の相互作用を示す相関が、スペクトル上で観測された。NOE enhancement factorと相関時間から親水基・疎水基間の距離を求めると、約0.4 nmとなり、膜の親水部と疎水部がかなり接近することが分かった。この結果は、細胞サイズベシクルのような曲率が小さい膜中においても、リン脂質が膜面の垂直方向に大きく揺らいでいることを示すものである。 今回得られた知見は、膜の揺らぎと物質の透過の相関など、生体機能を理解する上で重要であると考えられる。これらの成果は、Chem. Phys. Lett.誌に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ペプチドの拡散や膜透過を引き起こす駆動力となる“生体膜の熱的な揺らぎ”について、ナノサイズから直径10~20マイクロメートルという細胞サイズのモデル膜までを研究対象として、NMRで相違点を明らかにすることができた。ペプチドの拡散・膜透過機構を理解するための新しい手掛かりが得られたと考えられる。 今回の成果が学術誌に掲載された点からも、当該研究に対する一定の評価が得られたものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
「機能性ペプチド・オクタアルギニンの膜への分配と膜透過」について、平成24年度に明らかにした“脂質二分子膜の熱的な揺らぎ”との相関に着目したNMR解析を行う予定である。モデル膜として、親水部に正味電荷をもたないホスファチジルコリンと親水部が負に帯電したホスファチジルグリセロールを構成成分とする二分子膜を用いて、膜の表面電荷を制御する。 さらに、膜中のスフィンゴミエリンやコレステロールの含量を変化させて、二分子膜の揺らぎを制御する。膜の揺らぎが変化したときに、オクタアルギニンの膜透過がどのような影響を受けるかを考察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
以下の消耗品を購入する。 i) ペプチド、特にフッ素原子で標識したアミノ酸を含むペプチドの合成に必要な試薬とガラス器具、ii) リン脂質(重水素化物を含む)、iii) NMR計測用試料管、iv) 重水素化溶媒。 その他、成果発表、情報収集のための旅費、研究成果投稿料を計上する。
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Research Products
(16 results)