2012 Fiscal Year Research-status Report
動的速度論分割を基盤とするキラルなオキサヘテロヘリセンの触媒的不斉合成
Project/Area Number |
24550059
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
入江 亮 熊本大学, 自然科学研究科, 教授 (70243889)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ヘテロヘリセン / ラセン不斉 / 複素芳香族化合物 / π共役系化合物 / 環化芳香族化 / パラジウム触媒 / 酸素酸化 / 環化異性化 |
Research Abstract |
本研究では、室温下でラセミ化し、かつヘリセン骨格の内側にブロモ基を有するオキサへテロヘリセンを基質として、このブロモ基の交換反応における動的立体化学制御法を確立し、これにより立体化学的に安定なキラルな機能性ヘテロヘリセンの構築を目指している。平成24年度には、下記に示す研究成果が得られている。 1) 基質のブロモヘリセンを効率良く合成するための鍵反応である、パラジウム触媒を用いるo<-フェニレンジイン架橋ビスアレノール誘導体の酸素酸化的タンデム環化反応を最適化することができた。特に、ヘテロヘリセンの収率向上に寄与する水、塩基、およびモレキュラーシーブの特異な添加効果を見出したことは大きな成果である(論文投稿準備中)。 2) パラジウム触媒を用いるブロモヘリセンの各種カップリング反応を検討した結果、目的の置換ヘテロヘリセンはほとんど得られなかったものの、分子内C-Hアリレーションが進行して新規デヒドロヘリセン誘導体が生成することを見出した。 3) 本研究の過程で、o-フェニレンジイン架橋ビスアレノールを塩基と反応させると、新規環化異性化反応が進行することを見出した。反応条件を最適化することにより、これまでに合成例の少ないインデノ[1,2-c]クロメン誘導体(擬アズレン類)の高効率的合成法を開発することができた(論文投稿準備中)。 4) 上記の環化異性化反応において、従来の有機合成反応にほとんど活用されてこなかった反応活性種の関与を示唆する結果を得た。この知見を基に、共役エンイン骨格のアルキン末端にナフトールを、アルケン末端にベンゾフランを有する基質を新たにデザインし、これが同様に環化異性化反応を起こして、スピロ炭素を含む特異な三環性ヘテロ環化合物が高収率で生成することを明らかにした(論文投稿準備中)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の推進に不可欠である、基質のブロモヘテロヘリセンの効率的合成法の確立に向けて大きな進展が見られた。収率や触媒効率になお改善の余地が残されているが、本年度に見出した各種の添加剤の効果は、ブロモヘリセン合成の鍵反応である触媒的タンデム環化反応のさらなる改良に向けて極めて有用な知見である。また、最大の課題の一つである、ブロモヘテロヘリセンの効率的な官能基変換反応の確立には未だ至っていないが、いくつかの問題点を洗い出すことができた。 一方、本研究の過程で、これまでに例のない触媒的環化異性化反応を発見した。当初の研究目的には入っておらず、研究の達成度を直接評価することはできないが、本反応は新たなアズレン様構造を有する拡張π共役系ヘテロ環化合物の合成に道を拓くものと期待される。その他にも、デヒドロヘリセンやスピロ炭素を含む特異な三環性ヘテロ環化合物の新規法合成法を開発することができた。確かに、本研究の当初の目的に照らし合わせると、これらの化合物の生成は不本意な結果ではある。しかし、広い目で見ると、新規触媒的不斉合成反応の開発ならびに有用なキラル触媒や材料の創製という本研究の動機に通ずる非常に重要な知見である。 以上の結果を学会にて公表し、概ね高い評価が得られたと考えている。このように、必ずしも当初の計画通りに研究が進んでいないが、予想外の大きな成果も得られており、本研究の達成度は総じて良好であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に得られた知見を基に、平成25年度は下記の通り研究を進める計画である。 1) 酸化的タンデム環化反応の改良をさらに行う。触媒をパラジウムに限定せず、その他の遷移金属を広く検討する。また、酸化剤も、酸素以外の入手容易な各種の酸化剤を試す。これにより、ブロモテヘロヘリセンの実用的な合成法を確立する。 2) ブロモテヘロヘリセンの官能基変換反応の開発を引き続き行う。問題となっている分子内C-Hアリール化反応を抑制するように立体あるいは電子的に保護されたブロモヘリセンを新たに合成し、これに対してパラジウム触媒を用いる各種カップリング反応を再検討する。また、ハロゲン-リチウム交換反応など、ブロモ基と各種の典型金属との交換反応を基盤とするカップリング反応も精査する。所望の結果が得られれば、キラル配位子を用いる不斉カップリング反応(動的速度論分割)の開発を行う。 3) 内部官能基を有する立体化学的に安定なヘリセンの合成法として、所望の官能基を予め導入したキラルな環化前駆体の環化芳香族化反応を新たに検討する。この戦略の要となるキラルな環化前駆体の合成は、前年度に見出した環化異性化反応の活性種を活用して行う。より具体的には、キラルな塩基触媒を用いる不斉環化異性化反応によって軸不斉ビアリール化合物を合成し、これを環化芳香族化によってヘリセンに変換する際に、軸不斉から螺旋不斉への不斉転写を行う。 以上のいずれの方法でも、目的の立体化学的に安定なヘテロヘリセンを構築することが困難な場合、ヘテロヘリセン末端のベンゼン環を遷移金属に配位させることにより、立体化学的安定化を図る。すなわち、ヘテロヘリセンをπ-アレーン配位子とするキラルな遷移金属錯体を合成する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(10 results)