2012 Fiscal Year Research-status Report
ゼスレン骨格の効率合成を指向した1、8-ナフタル酸無水物の活性化研究
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24550066
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
岩澤 哲郎 龍谷大学, 理工学部, 准教授 (80452655)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ゼスレン / 1,8-ナフタル酸無水物 / 二価アニオン / 二量化 / 有機半導体 / ビススルホン / アルキン形成 |
Research Abstract |
ゼスレン骨格の大量合成法の開発を目指して、入手容易な市販品1,8-ナフタル酸無水物を用いた合成手法の開拓を行った。戦略として大きく二手に分けて行った。ひとつは1,8-ナフタル酸無水物誘導体の分子内に求核性炭素と求電子性炭素を発生させて分子間で二量化を目指す方法である。これはHauser反応に類似した方法論である。もうひとつは、1,8-ナフタル酸無水物を二つの求核炭素を有するジアニオン誘導体と二つの求電子性炭素を有する誘導体とに作り分け、互いを分子間で反応させる方法である。一つ目の方法は1,8-ナフタル酸無水物をラクトン体へ還元し、このラクトン体のベンジル位に炭素アニオン種を発生させるよう種々検討を行ったが、アニオン種の発生自体が定量的に進行しなかった。二つ目の方法においては、ジアニオン誘導体はビスホスホネート体およびビススルホン体からエノラートを発生させる手法で調製した。また、二つの求電子性炭素を有する誘導体はビスエステル化体およびビスブロモ化体として調製した。いずれの化合物も20グラム以上のスケールで調製することができた。これら前駆体の合成において、カラム精製操作は必要なく、再結晶操作等による精製操作のみで純品にすることができた。これら求電子性の誘導体と求核性の誘導体とを反応させた結果、ビススルホン体から誘導したエノラートとビスブロモ体との組み合わせによるカップリング反応はある程度進行することが見出された。得られた化合物は多くの不純物との混合物であったため、目的物と思われる化合物を純品で単離することが困難であったが、確度高く二量化したと推察されるNMRデータを取得することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画として候補にあげていた二つの合成経路のうち、片方が機能することが見出された。二つの合成経路はホモカップリングを期待する経路であり、もうひとつはヘテロカップリングを期待する経路である。ホモカップリングを期待した根拠はHauser反応を改良可能と考えたからである。しかしながら、1,8-ナフタル酸無水物から誘導されるラクトン体は6員環のためか、ベンジル位にカルボアニオン自体が定量的に発生しにくいことが分かった。そこで、ヘテロカップリングを期待する合成経路に移り、1,8-bis(phenylsulfonylmethyl)naphthaleneのビスエノラート体(二価アニオン種)を1,8-bis(bromomethyl)naphthaleneと反応させることにした。1,8-bis(phenylsulfonylmethyl)naphthaleneはTHF溶媒中室温下n-BuLiを用い、その後に重水を添加したところ、定量的に重水素が二つのα炭素に一つずつ結合した化合物が得られた。このことから、望みとするビスエノラート体が確実に発生することを見出した。このビスエノラートに対して重水素の代わりに1,8-bis(bromomethyl)naphthaleneを反応させたところ、粗結晶として不純物が多く混じった混合物が得られた。これをできる限り精製して目的物と思しきサンプルを分けたところ、純品を得ることはできなかったが、NMRスペクトルから二量化したことが強く示唆される化合物(Helv. Chim. Acta 1987, 70, 480.に記載のスペクトルを参考にした)を得ることができた。これら一連の実験結果から、ビススルホン化体から誘導されるビスエノラートと、sp3炭素を有する電子受容性誘導体との組み合わせによる二量化反応の開拓に焦点を絞ればよいことが見出された。
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Strategy for Future Research Activity |
有機溶媒に溶ける1、8ーナフタル酸無水物の誘導体を開発する。すなわち、1、8ーナフタル酸無水物の3位と6位にtert-ブチル基を取り付けた分子を合成する。この分子を1級アルコールに還元後臭素化し、スルフィン酸ナトリウムを作用させてビススルホン体を誘導する。この分子は有機溶媒に対する溶解度が大きく向上しているので、均一な二価アニオン(ビスエノラート)の発生が期待でき、反応速度の向上による円滑で効率の良い反応の進行を起こすと予測できる。また、反応性が期待通りに上がらない場合は、配位子等を添加することによってある程度望み通りに反応性を制御することが可能になる。このビスエノラートの電子を受容する分子はナフタル酸無水物の1位と8位にホルミル基を有し、3位と6位にtert-ブチル基を持つ分子である。この分子も二つのtert-ブチル基を持つ効果によって、有機溶媒に対する溶解度が向上しており、円滑に電子供与性分子(ビスエノラート)と反応することが期待される。この反応が進行した結果生じるビスアルコール体に無水酢酸を作用させてビスアシル化し、このビスアシル化体にtert-BuOKを加える。その結果、二重の脱離反応によって、ナフタレン環の1位と8位がもう一分子のナフタレン環の1位と8位と二つのアルキンによって架橋されたビスアルキン体(Tetra-tert-Butyl tetradehydrodinaphtho[10]annulene)が生じると考える(JACS, 1984, 106, 3670. & Chem. Eur. J. 1999, 1355)。このビスアルキン体にヨウ素を付加させれば、有機溶媒に問題なく溶けるゼスレン骨格およびその誘導体を多彩かつ多様に構築することができる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該助成金が生じたのは、出発原料である1,8-ナフタル酸無水物の3位と6位にtert-ブチル基を付けた化合物の合成を行うという実験状況が生じたためである。当初計画では、ナフタレン骨格の1位と8位に付けた置換基の存在のみで充分に有機溶媒に対する溶解性を保つことができると考えていた。しかしながら実際は、1,8-ナフタル酸の電子受容性誘導体は、室温下、THFのような極性溶媒中でも、トルエンのような非極性溶媒中でも不均一になってしまった。一方、1,8-ナフタル酸の電子供与性誘導体は、THFのような極性溶媒中では溶けたが、トルエンのような非極性溶媒中には非常に溶けにくい。有機リチウム試薬やその他強塩基を用いて二価アニオンの状態にしても不均一のままの状態を保つ。THF中では溶けたが、その後の二量化反応が思うように進行しなかった。そのため、反応効率の観点から均一系反応に持ち込むことが必須であると考え検討を開始した。そこで、ナフタレン骨格の分子間距離を離して溶解性を上げることを考え、ナフタレン骨格の3位と6位にtert-ブチル基を導入することを考えた。合成方法として、ナフタレン骨格を有するできるだけ安価なある誘導体に対して、安価なtert-ブチルクロライドを触媒量のトリクロロアルミニウムの存在下作用させる手法を用いる。現在、当該助成金をこの原料合成とその手法開発のための費用に充当しており、鋭意この方法を用いた大量合成を展開している。この大量合成の完了後に、ナフタレン骨格の1位と8位に化学変換を施し、電子供与性誘導体としてビスホスホン酸体およびビススルホン体を調製し、電子受容性誘導体としてビスホルミル体を調製する。
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