2012 Fiscal Year Research-status Report
外部刺激に連動してプロトン移動-酸化還元を発現するクロミック錯体の創出
Project/Area Number |
24550076
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
中島 清彦 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (50198082)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 金属錯体 / 外部刺激 / プロトン付加・解離 / 酸化還元 / 配位様式 / クロミック現象 |
Research Abstract |
ヒドラゾン化合物は,一般に窒素原子上のプロトンの酸性度が極めて低く,プロトンの解離は容易に起こらない。しかし,金属への配位によって酸性度が高くなり,酸や塩基の添加による可逆なプロトンの付加と解離が溶液中で容易に発現する。本研究では,このようなヒドラゾン化合物を配位子とする多様な金属錯体の新たな機能の開発と,外部刺激に対する応答性の発現に大きな興味を持っている。本研究では,主にプロトン移動や酸化還元と連動してクロミック現象を発現する新たな金属錯体の創出を目指した。 本年度は,まず多座キレート配位が可能なヒドラゾン化合物を用いて,多様な配位様式が可能なPd(II)およびPt(II)錯体を合成し,これらの錯体の配位様式が,プロトン濃度変化や加熱,光照射により溶液中で変換されることを見出した。また,ヒドラゾン配位子上へのプロトンの付加・解離にともない配位様式変換のメカニズムが異なること,さらに固体状態でも配位様式が変換されるトリボクロミズムやベイポクロミズム,サーモクロミズム現象を明らかにした。従来から,溶液中のプロトン濃度変化(酸性度の変化)に応じてプロトンが付加解離して色変化する現象は,主に有機化合物を中心として様々な報告例があるが,プロトンの付加・解離と連動して固相中でも金属錯体の配位様式が色変化をともなって変換すること,また,溶液中における配位様式変換のメカニズムが,プロトンの付加・解離に連動して光あるいは熱で進行することを見出したことは極めて興味深い。 次に,プロトンの付加・解離に連動した異性化とともに発光がON-OFFするPd(II)錯体を合成することに成功した。既にそれぞれの異性体の構造を明らかにし,現在は発光メカニズムの検討を行っている。 本研究では当初の研究目的に沿った意義のある研究成果を得て,論文の執筆を進めるとともに,国内外の学会で研究成果の報告を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度当初の研究目的として,1)外部刺激に応答する金属錯体の合成・単離と構造決定 2)可逆なプロトンの付加・解離にともなうクロミック現象の発現の確認 3)トリボクロミズム,ベイポクロミズム,サーモクロミズム,フォトクロミズムなど,多様なクロミック現象の検討 4)プロトン酸性度の異なる錯体間でのプロトン移動にともなうクロミック挙動の発現 を計画した。まず1)については,Pd(II), Pt(II)錯体を中心として多くの金属錯体を合成することに成功し,各種分光測定とともに単結晶X線結晶構造解析により構造の帰属を行うことができた。2)では,Pd(II), Pt(II)錯体に配位したヒドラゾン化合物の窒素原子上プロトンの酸性度が極めて高くなることを明らかにし,プロトンの付加・解離と連動した可逆な色変化が発現することを見出すことができた。3)では,ヒドラゾン-Pd(II), Pt(II)錯体におけるプロトンの付加型錯体と解離型錯体で,配位様式の変換が溶液中で熱または光照射による異なるメカニズムで進行することを明らかにし,さらに固相(結晶)中でもおこることを見出した。また,プロトンの付加・解離と連動したトリボクロミズム,ベイポクロミズムが発現する極めて興味深い現象を確認し,結晶構造を明らかにしてその原因を考察することができた。4)は,プロトン移動と連動して錯体間で酸化還元反応が進行し,その結果としてクロミック挙動が発現することを期待した目標設定である。現在,可逆な酸化還元が期待できる Fe(II)(III), Co(II)(III), Cu(I)(II), Ru(II)(III) 等の錯体の合成を行っており,錯体の単離に成功している。また,配位ヒドラゾン化合物のプロトン酸性度の異なる錯体間でプロトン移動(交換)が発現することを見出した。現在,酸化還元(電子移動)の発現を目指している。
|
Strategy for Future Research Activity |
概ね順調に進展している本年度の研究成果をふまえて,まずPd(II), Pt(II)錯体については,配位子のデザインを検討してより外部刺激に対する応答性の高い錯体の開発を目指したいと考えている。また,類似した構造を有しながらプロトンの付加・解離挙動が異なると予想されるAg(I), Au(III)錯体の合成についても検討する予定である。これらの錯体には発光性の発現とそのON-OFFスイッチング機能も期待できる。次に,当初の研究目的のひとつである「プロトン酸性度の異なる錯体間でのプロトン移動にともなうクロミック挙動の発現」を展開するために,可逆な酸化還元が可能なFe(II)(III), Co(II)(III), Cu(I)(II), Ru(II)(III) 等の錯体の合成を進め,電気化学測定を行って有効な酸化還元電位を有する金属錯体の組み合わせを見出して研究の進展を図りたいと考えている。 上述の研究方策に加えて,新たに 発光性Eu(III), Tb(III)錯体の合成を検討したいと考えている。従来からf-f遷移に由来するEu(III)の赤色発光,Tb(III)錯体の緑色発光は多く研究されてきた。本研究では,配位子上のプロトンの付加・解離と連動した発光のON-OFFスイッチングを発現させたいと考えている。また,LC発光性を有する配位子用いてEu(III), Tb(III)錯体を合成できれば,異なる環境下における二色発光が可能になると大いに期待できる。配位数が大きいEu(III), Tb(III)錯体では,4座あるいは5座配位が可能な配位子をデザインする必要がある。可逆なプロトンの付加・解離が可能な配位子として,ヒドラゾン化合物の他にイミダゾールから誘導したシッフ塩基化合物を検討する予定である。 外部刺激に連動してより多彩なクロミック現象を発現する金属錯体の創出を展開したい。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究計画では,連携研究者との議論や実験を主に電子メールの有効利用とサンプルの郵送で相互に行い,国内外の学会における研究成果の発表も積極的に行うが最低限必要な旅費も別途賄うこととして,真に必要な消耗品物品費のみを申請した。本年度は,主に金属錯体の合成と単離に関わる研究作業が中心であった。研究申請をする前の予備実験の段階で購入して所有していた試薬を有効に利用し,また構造の帰属と同定のためには合成スケールを小さくして実験を行う節約が可能であったため,幾分かの次年度繰り越しが生じた。 次年度以降は,研究テーマの進展に沿って分光測定等を行うために,今年度より多量の金属錯体を合成・単離する必要が生じる。また,今後の研究の推進方策の欄に記載したように,今年度よりも多様な金属試薬(Fe(II)(III), Co(II)(III), Cu(I)(II), Ru(II)(III), Pd(II), Pt(II), Ag(I), Au(III), Eu(III), Tb(III) 等)を購入する必要がある。さらに,Eu(III), Tb(III)錯体では,新たに4座あるいは5座配位が可能な配位子をデザインして合成する必要があり,そのための試薬の購入が必要となる。次年度への繰越額を合わせてこれらの試薬類と必要な器具類の購入費用に使用する予定である。なお,次年度についても,連携研究者との連絡は,メールと郵送を有効に利用し,旅費についても必要最低限に止める予定である。
|
Research Products
(17 results)