2013 Fiscal Year Research-status Report
外部刺激に連動してプロトン移動-酸化還元を発現するクロミック錯体の創出
Project/Area Number |
24550076
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
中島 清彦 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (50198082)
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Keywords | クロミック挙動 / 金属錯体 / ヒドラゾン / プロトン付加・解離 / 酸化還元 / 外部刺激 |
Research Abstract |
有機ヒドラゾン化合物のN原子上に付加しているプロトンの酸性度は一般に極めて低く,容易なプロトン解離が起こりにくいのに対し,金属イオンへの配位にともなって酸性度が高くなり,ヒドラゾン配位子に可逆なプロトンの付加と解離が発現する。このプロトンの付加と解離に連動して金属錯体の電子状態や配位構造を変化させ,色変化・発光色変化(クロミック挙動)を発現させようというのが本研究の狙いである。 昨年度,主にヒドラゾン配位子を有するPd(II), Pt(II)錯体を合成してその構造を決定し,溶液中で可逆なプロトンの付加・解離による色変化と発光のON-OFF,また,固相中でのすりつぶしや加熱による色変化の発現を確認した。この成果をもとに,今年度は溶液中および固相中におけるその反応メカニズムの解明を検討し,固相中でもプロトンの付加と解離が起こること,また,これに連動して配位構造の大きな変換が起こるという,興味深い固相反応を見出した。さらに,金属イオンの酸化還元が可能なCu(I)(II), Ru(II)(III)-ヒドラゾン錯体の合成を行い,ヒドラゾン配位子上のプロトンの付加・解離と連動した電子状態の変化を考察した。多様な配位様式が可能なヒドラゾン化合物を配位子とするRu(II)錯体については,反応条件と反応溶媒を調整して配位様式の異なる各種錯体を単離することに成功した。溶液中でこの配位様式の変換が起こること,また,ヒドラゾン配位子へのプロトンの付加と連動して,Ru(II)からRu(III)への酸化が進行することを明らかにした。Cu(I)-ヒドラゾン錯体については,多様な配位構造にもとづいて結晶状態で異なる色を呈する金属錯体を合成してその構造を決定した。これらの錯体のプロトンの付加・解離と,主に固相でのベイポクロミズムを検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題を推進するうえで,1)新規なヒドラゾン錯体の設計と合成,単離。2)構造の決定。3)プロトンの付加・解離とこれにともなうクロミック挙動の発現の確認。4)クロミック現象をもたらす反応メカニズムの解明。が必要な実験手順である。新規なヒドラゾン錯体の設計と合成については,昨年度のPd(II), Pt(II)錯体に加えて,新たに酸化還元が可能なRu(II)(III), Cu(I)(II)錯体の合成と単離に成功し,主要な多数の錯体についてX線結晶構造解による構造決定を行うことができた。また,いずれの錯体も,可逆なプロトンの付加・解離が可能であることを確認した。Pd(II), Pt(II)錯体については,今年度主に固相中のトリボクロミズム,ベイポクロミズムに注目し,興味ある固相中の配位構造変換のメカニズムを明らかにすることができた。Ru(II)(III)錯体では, 溶液中でプロトンの付加にともないRu(II)からRu(III)への酸化がおこることが見出された。また,Cu(I)(II)錯体では,溶液中だけでなく固相中でもCu(I)からCu(II)への酸化状態の変化をともなう色変化を確認することができた。 以上のように,昨年度の成果にもとづいて有効に研究を発展させることができている。特に,可逆な酸化還元が可能で,多様な配位構造をとり得るRu(II)(III), Cu(I)(II)錯体系に研究を展開できた意義は大きい。即ち,本研究課題で使用しているヒドラゾン化合物が特定の金属イオンのみに配位子として作用するのではなく,広く多様な金属イオンに対して高い配位能力を有していることが明らかになり,多様な金属を有する錯体系へと拡張して研究を展開することが可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究実施計画として,当初,発光性錯体を得たいという視点からAg(I), Au(I)(III)錯体の合成も検討していたが,プロトンの付加解離と酸化還元の連動に関連したRu(II)(III), Cu(I)(II)錯体について興味深い現象が観測され,そちらを優先して研究の進展を図ってきた。一定の研究成果が得られたので,今後の研究の方策として,発光性Ag(I), Au(I)(III)錯体の開発に着手したい。また,従来から発光性錯体が得やすいという点でPt(II)錯体に関する研究は多く行われている。しかし,応用も見据えたうえで元素戦略を巡らせば,より安価な金属を用いて研究を展開することには大いに意味があると考えられる。そこで,芳香環のC原子で配位した(シクロメタレート型)Pd(II)錯体の合成と発光性について検討を進めたいと考えている。同時に,昨年度からこれらの研究と並行して研究を継続している発光性ランタニド錯体についても,プロトンの付加・解離が可能な部位を導入して発光挙動を検討する予定である。 本年度までの研究により,プロトンの付加・解離と関わる様々なクロミック挙動が,溶液中あるいは固相中で発現することを見出してきた。プロトンの付加・解離により発光性のON-OFFが可能な系も得られた。そこで,非配位の状態でも発光性を有する有機化合物をヒドラゾン配位子の中に組み込んで錯体を合成すれば,環境変化に応じた二色(多色)発光が可能なクロミック錯体を得ることが可能ではないかと予想される。今後の研究の推進方策のひとつとして検討を予定している。
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Research Products
(13 results)