2012 Fiscal Year Research-status Report
再生可能な天然由来水素源と水素の常温常圧水中での相互変換
Project/Area Number |
24550077
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
末延 知義 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90271030)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 触媒・化学プロセス / 水素 / 二酸化炭素排出削減 / 再生可能エネルギー / 光物性 |
Research Abstract |
分散型電力供給網の燃料電池の燃料に用いられる高純度水素の貯蔵・供給源として、1つの触媒で可逆的に水素の貯蔵と発生を行うことが可能な有機金属錯体触媒系の開発を行った。水素貯蔵媒体としては、再生可能な天然由来の水素源を用い、その酸化体と還元体との可逆的変換に伴う水素化・脱水素化反応により、常温常圧水中で水素の貯蔵と発生を可能にすることを目的とした。触媒系は、水素化・脱水素化を担う遷移金属錯体と、光エネルギーにより電子伝達を促進する光増感剤、水素発生を担う金属錯体や金属ナノ微粒子などで構築した。 常温常圧水中で、水素分子と反応することで金属ヒドリド種や低原子価金属種が生成可能な有機金属錯体の合成を行った。シクロペンタジエニル配位子を有する有機金属ハロゲン化物の水中脱ハロゲン化によりトリアクア錯体へと変換し、これと、別途合成した配位子(L)を水中で反応させて、各種有機金属単核アクア錯体を得た。Lとしては、ギ酸と水素の相互変換反応の触媒として機能した5員環―6員環直結[C,N]シクロメタル化配位子を用いた。 常温で水素分子により金属中心が還元される錯体を見い出した。ギ酸と水素の相互変換反応では、pHに応じて中間体ヒドリド種がプロトンと反応すると水素が発生し、二酸化炭素(重炭酸イオン)と反応した場合にはギ酸が生成することから、活性中間体の金属中心の還元状態とpHが反応性の鍵を握ることがわかった。 合成した各種アクア錯体と再生可能な天然由来の各種水素源(脂肪族アルコール類)との反応を行い、ヒドリド錯体や低原子価金属錯体の生成条件について検討した。 得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
常温で水素分子により二酸化炭素分子を還元し、再生可能な天然由来水素源であるギ酸として、触媒的に二酸化炭素固定を行い、逆にギ酸を分解して水素を取り出すことが可能となる金属錯体触媒系を構築し、本研究の主目的の1つを既に達成して Energy & Environmental Science (2012), 5, 7360 (Impact Factor 9.61) に報告できた。また、他の再生可能な天然由来の水素源と水素との相互変換については、天然由来の脂肪族アルコールを水素源として有機金属アクア錯体を還元してヒドリド錯体に変換できることを見出し、pHを変化させるだけで温和な条件で水素を取り出せることを見出して Journal of the American Chemical Society (2012), 134, 9417 (Impact Factor 9.91) に報告した。これらの成果が国際的にも認知され、招待を受けて Dalton Transactions (2013), 42(1), 18 (査読有) にReviewとして発表した。本研究を推進する途上で、光電荷分離分子をメソポーラスシリカに固定化することで長寿命電子移動状態が実現し、有機基質の選択的光酸素化触媒反応が可能となることを初めて見出し、PNAS (2012), 109, 15572 (Impact Factor 9.68) に発表すると同時に新聞報道もされて研究成果を社会へも発信できた。この研究は、今後、本研究の触媒系を固定化して持続的に利用する際の指針となり、特筆すべき成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
再生可能な天然由来水素源であるアルコール類から水素を触媒的に取り出す反応系を探索し、メタノールの6電子酸化による常温常圧水中での水素発生を目指して研究を行う。脂肪族アルコール類以外の天然由来の各種水素源、例えば糖類や補酵素類についても、水素との相互変換に用いることができる効率の良い触媒系の探索を続ける。一方で、天然由来水素源から取り出した電子でプロトンを還元して水素として取り出すだけではなく、この電子を使って酸素を選択的に還元することができれば、過酸化水素という形態でのエネルギー貯蔵が可能となる。過酸化水素は液体で取り扱いが容易で、比較的安全なエネルギー媒体であるため、将来、燃料電池の燃料としての利用が期待されている。再生可能な天然由来水素源と過酸化水素の相互変換も視野に入れ、これを実現できる金属錯体触媒系の構築を目指して研究を推進する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究を推進する上で、化学合成では有機試薬や金属試薬、反応観測においては冷媒、高圧ガス、各種ガラス器具などは必須であり、その購入費として研究費を利用する。また、触媒反応生成物の分析には、各種分析機器の使用が必要なので、それら装置使用にかかる使用料や消耗部品の経費として支出する。触媒反応機構の探索には、各種高速分光装置を用いるので、それらの装置の維持管理費用(主として光源ランプ類、ガラスフィルター、レンズ・ミラー類)としても研究費を用いる。研究成果は2013年度の秋に主として国内で行われる学会、討論会、シンポジウムなどで発表し、専門家の評価を受けたいと考えており、その出席のための旅費、参加登録費として研究費を使用する。
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Research Products
(14 results)