2012 Fiscal Year Research-status Report
蛋白質表面相互作用が可能な光増感金属錯体の開発と多段階電子・エネルギー移動反応
Project/Area Number |
24550078
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
高島 弘 奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (80335471)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 光 / 電子移動 / ルテニウム / ポルフィリン / キモトリプシン / カルボニックアンヒドラーゼ |
Research Abstract |
本研究では酵素とその活性中心近傍や疎水性空間へ特異的に結合する小分子リガンドの作用機序に着目して、光増感剤を基体とした酵素-リガンド複合体の構築と、その多段階的な光誘起電子移動反応システムの開発とその詳細な機構解明を目的とする。具体的には、構造・機能が良く知られている加水分解酵素キモトリプシン(CHT)およびカルボニックアンヒドラーゼ(CA)を選択し、その活性中心への結合、化学修飾ならびに表面での多点相互作用によって酵素複合体を構築する。さらに電子アクセプターの導入によって、光エネルギーを利用した生体分子の多段階光電子移動反応システムについて詳細に議論し、新規機能化を試みる。本研究では5, 10, 15, 20-テトラフェニルポルフィリン亜鉛錯体(ZnTPP)、あるいはトリス(2, 2’-ビピリジン)ルテニウム錯体(Ru(bpy)3)に着目した。すなわち、(1)CHTの活性中心近傍のカチオン性ドメインへ特異的に結合可能なポリカルボン酸を修飾したZnTPP型錯体、あるいは(2)活性中心のセリン残基に”不可逆に”導入し得る、ベンゼンスルホニルフルオリド基を有するRu(bpy)3型錯体、(3)CAの活性中心へ結合可能なベンゼンスルホンアミド部位を導入したRu(bpy)3型錯体を合成を試みた。 今年度の成果として、(1)~(3)の錯体については順調に合成に成功した。次いで、CHTまたはCA複合体の形成を行い、ZnTPP型錯体ではCHTカチオン性ドメインとの相互作用、Ru(bpy)3型錯体ではCHTへの不可逆的な結合が確認された。さらに(3)ではCAとの複合体形成と、Co(III)錯体を犠牲試薬として添加した場合の光誘起電子移動反応を検討した。その結果、光誘起電子移動反応により、酵素活性を光で制御出来ることを見出した。この結果については学会発表および学術論文で公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ポリカルボン酸修飾ZnTPP錯体、およびベンゼンスルホニルフルオリド基またはベンゼンスルホンアミド基を有するRu(bpy)3錯体の合成については、何れも今年度内に成功した。当初は、上手く行かない場合の対応として複数の合成経路を想定していたが、順調に合成が進んだ結果である。ZnTPP型錯体ではCHTカチオン性ドメインとの相互作用を、Ru(bpy)3型錯体ではCHTへの不可逆的な結合を各種分光測定ならびに質量分析測定により確認した。さらに、ベンゼンスルホンアミド部位を有するRu(bpy)3型錯体については、CA複合体に[Co(NH3)5Cl]Cl錯体のような酸化的犠牲試薬(電子アクセプター)を共存させ、多段階光誘起電子移動反応系を構築した。Ru(bpy)3錯体の光励起とCo錯体への電子移動により生成する酸化種Ru(III)錯体は、CA活性中心近傍の芳香族アミノ酸(例えばチロシンTyr8)の電子引き抜き反応を行う。その結果、蛋白質立体構造の変化と逆電子移動反応の抑制が起こり、長寿命の電荷分離状態を作り出すことが分かった。また、これによって標的とする酵素の活性を光で抑制出来ることが分かった。この結果については、学会発表ならびに学術論文として公表出来た。 以上の結果から、研究は順調に進展している状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方針として、これら金属錯体とCHTとの相互作用について、紫外可視吸収および発光の各種分光分析あるいはITCカロリメトリー測定等を行い、結合定数を算出し評価する。また、セリンプロテアーゼであるCHTの触媒活性阻害能を評価し、結合特性を明らかにする。すなわち、既存のN-スクシンニル-L-フェニルアラニン-p-ニトロアニリドの加水分解反応実験により行う。ZnTPP型およびRu(bpy)3型錯体存在下、触媒反応におけるMichaelis-Menten型反応パラメーター(kcat, Km, KI)を算出し、市販のCHT阻害剤数種類との比較を行うことで、それらの阻害特性を明らかにする。 次に、CHT複合体における、多段階光電子移動反応を高速時間分解分光測定により検証する。Ru(bpy)3型錯体-CHT複合系では、メチルビオローゲン等の電子受容体の複合体への導入により光電子移動反応を観測し、それらの詳細な反応機構を明らかにする。具体的な時間分解分光測定として、Ru(bpy)3錯体の選択的光励起に伴うナノ秒の時間領域での発光寿命測定や過渡吸収スペクトル測定を行い、電荷分離状態であるラジカル種を検出する予定である。以上の結果に基づき、理論的および実験的に多段階光電子移動反応機構の詳細に明らかにする。またCHTの触媒活性の光制御についても検証する。最後に研究成果のまとめを行い、成果は国内外の学会発表、学術論文、ホームページ等で随時公開し情報発信する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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