2013 Fiscal Year Research-status Report
蛋白質表面相互作用が可能な光増感金属錯体の開発と多段階電子・エネルギー移動反応
Project/Area Number |
24550078
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
高島 弘 奈良女子大学, 自然科学系, 准教授 (80335471)
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Keywords | 光 / 電子移動 / ルテニウム / キモトリプシン |
Research Abstract |
本研究では酵素とその活性中心近傍や疎水性空間へ特異的に結合する小分子リガンドの作用機序に着目して、光増感剤を基体とした酵素-リガンド複合体の構築と、その多段階的な光誘起電子・エネルギー移動反応システムの開発とその詳細な機構解明を目的とする。具体的には、構造・機能が良く知られている加水分解酵素キモトリプシン(CHT)を選択し、その活性中心への化学修飾ならびに表面での多点相互作用によって酵素複合体を構築する。さらに電子アクセプターの添加によって、光エネルギーを利用した生体分子の多段階光電子・エネルギー移動反応システムについて詳細に議論し、新規機能化を試みる。本研究では、光増感作用をを示す、5, 10, 15, 20-テトラフェニルポルフィリン亜鉛錯体(ZnTPP)、あるいはトリス(2, 2’-ビピリジン)ルテニウム錯体(Ru(bpy)3)に着目した。すなわち、CHTの活性中心のセリン残基に”不可逆に”導入し得る、ベンゼンスルホニルフルオリド基を有するZnTPP型錯体、Ru(bpy)3型錯体を開発することを試みた。さらに強発光性のRu(bpy)3型錯体の開発も試みた。 今年度の成果として、ZnTPP型錯体、種々のRu(bpy)3型錯体の合成については、順調に成功した。ただし、ZnTPP型錯体については、修飾可能なベンゼンスルホニルフルオリド基が4つ導入されていることから、次年度において修飾箇所を1カ所に限定した誘導体の合成をさらに進める予定である。また、Ru(bpy)3型錯体ではCHTへの不可逆的な結合が確認された。その結果、Ru(bpy)3型錯体の水中における発光特性は、CHTへの導入前と比較して約1.4倍に向上し長寿命化も見られたことから、活性中心への導入効果を示すことができた。これらの結果については、学会発表および学術論文で公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
CHTの活性中心のセリン残基に”不可逆に”導入し得る、ベンゼンスルホニルフルオリド基を有するZnTPP型錯体、Ru(bpy)3型錯体の合成については何れも今年度内に成功した。当初は、上手く行かない場合の対応として複数の合成経路を想定していたが、順調に合成が進んだ結果である。さらに強発光性のRu(bpy)3型錯体の合成も成功した。u(bpy)3型錯体のCHTへの不可逆的な結合については、各種分光測定ならびに質量分析測定により確認した。また、セリンプロテアーゼであるCHTの触媒活性評価を、既存のN-スクシンニル-L-フェニルアラニン-p-ニトロアニリドの加水分解反応実験により行い、修飾酵素では完全にその触媒活性が消失していることを確認した。現在、さらに質量分析により修飾位置の確定を行っているところである。さらにRu(bpy)3型錯体の水中における発光特性は、CHTへの導入前と比較して向上し、長寿命化も見られたことから、活性中心への導入効果を示すことができた。これらの結果については、学会発表で公表出来た。 以上の結果から、研究はおおむね順調に進展している状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方針として、Ru(bpy)3型錯体については、CHT複合体にメチルビオロゲン(MV2+)のような酸化的犠牲試薬(電子アクセプター)を共存させ、多段階光誘起電子移動反応系を構築する。ルテニウム錯体の光励起とMV2+への電子移動により生成する酸化種Ru(III)錯体は、CHT活性中心近傍の芳香族アミノ酸(例えばチロシンTyr)の電子引き抜き反応を行うと考えられる。その結果、蛋白質立体構造の変化と逆電子移動反応の抑制が起こり、長寿命の電荷分離状態を作り出すことが出来ると期待される。具体的な時間分解分光測定として、Ru(bpy)3錯体の選択的光励起に伴うピコ-ミリ秒の幅広い時間領域に渡って発光寿命測定や過渡吸収スペクトル測定を行い、電荷分離状態であるメチルビオローゲンラジカル種を検出する予定である。以上の結果に基づき、理論的および実験的に多段階光電子・エネルギー移動反応機構の詳細に明らかにする。 同様に、ZnTPP型錯体については、修飾可能なベンゼンスルホニルフルオリド基を1つに限定した誘導体の合成をさらに進め、CHTへの導入を行う予定である。 最後に、研究成果のまとめを行い、成果は国内外の学会発表、学術論文、ホームページ等で随時公開し情報発信する予定である。
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