2012 Fiscal Year Research-status Report
α-シリル-σ-アリル金属錯体形成を鍵とする触媒的炭素結合構築法の開発
Project/Area Number |
24550115
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
堀野 良和 富山大学, 大学院理工学研究部(工学), 准教授 (30447651)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | パラジウム / パラジウムカルベノイド / パラダシクロブテン / シクロプロパン化反応 / 二量化反応 |
Research Abstract |
触媒量のパラジウム錯体とフッ化セシウム存在下,3-トリメチルシリル-1-アリルアセテート誘導体1とノルボルナジエンとの反応では,シクロプロパン化反応が立体選択的に進行することを見出していた。本反応の反応活性種は,パラジウムカルベノイドとパラダシクロブテンが考えられる。そこで,基質のシリル基をピナコラトボリル基に代えて検討を行ったところ,シクロプロパン化生成物がジアステレオマーの混合物(5.6:1)として得られた。一方,スチリルジアゾ化合物とパラジウムから生成するパラジウムカルベノイドとノルボルナジエンとの反応では,シクロプロパン化生成物が2:1のジアステレオマーの混合物として得られた。このことから,α-ボリル-σ-アリルパラジウム錯体からはパラジウムカルベノイドとパラダシクロブテンの両方が生成していることが明らかとなった。このことから,シリル基を有する基質では,パラジウムカルベノイドではなく,稀な反応活性種であるパラダシクロブテンが真の活性種であると分かった。また,ケイ素と同族のゲルミル基を有する基質でも,ノルボルナジエンとのシクロプロパン化反応が立体選択的に進行する知見を得た。 一方,パラジウム錯体,2,2’-ビピリジン配位子,フッ化セシウム存在下,基質1の反応を極性溶媒中60℃で行ったところ,1,6-ジアリール-1,3,5-ヘキサトリエン誘導体2が良好な収率で得られることも見出した。本反応は,α-トリメチルシリル-σ-アリルパラジウム錯体形成後にシリル基がα脱離することによってパラジウムカルベノイドを生成し,パラジウムカルベノイドの不均化反応が進行することで得られたと考えられる。また,基質のシリル基をジアミノナフチル基で保護されたボリル基に代えると,40℃程度の温和な条件で生成物2が良好な収率で得られことも新たに見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究計画では,1)パラダシクロブテン中間体の効率的な発生法を開発すること,2)パラダシクロブテン中間体の性質解明について知見を得ることを目的とした。 研究計画1)のパラダシクロブテン中間体の発生法については,α-シリル-σ-アリルパラジウム錯体以外にも,α-ボリル-σ-アリルパラジウム錯体やα-ゲルミル-σ-アリルパラジウム錯体からも発生させる方法を新たに見出すことができた。これらは直接的に観測できないため,オフィンのシクロプロパン化反応の立体選択性から判断した。現段階では,α位にメタロイドを有するσ-アリルパラジウム錯体すべてからパラダシクロブテン中間体を発生させることが可能と考えており,研究計画以上の展開が進んでいる。一方,研究計画2)のパラダシクロブテン中間体の性質解明については,安定なパラダシクロブテン錯体を合成することが困難なため,パラダシクロブテン錯体の単離とX線構造解析が進んでいない状況である。現在,パラジウム周辺を立体的に嵩高い置換基で保護し,安定なパラダシクロブテン錯体の単離を目指している。また,NMRによる測定も鋭意検討中である。以上の進行状況から判断して,概ね順調に研究が進行していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
α-ボリル-σ-アリルパラジウム錯体を用いたシクロプロパン化反応では,パラジウムカルベノイド中間体とパラダシクロブテン中間体の生成を反映した生成物が得られてきたので,それら中間体が別々に生成しているのか,パラダシクロブテン中間体の異性化によりパラジウムカルベノイド中間体を生成しているのか解明する。パラダシクロブテン中間体の解明について検討を行う一方,パラジウムカルベノイド中間体の性質を利用した触媒反応の開発を展開する。現在,3位にアリール基を1つ有する基質で検討しているが,3,3-ジアリール-3-トリメチルシリル-1-アリルアセテートや2,3-ジアリール-3-トリメチルシリル-1-アリルアセテートのようなアリール基で多置換された基質からパラジウムカルベノイドを効率的に発生させ,多置換アリールを有する1,3,5-ヘキサトリエン誘導体の効率的な合成法を目指す。このような多置換アリールを有する1,3,5-ヘキサトリエン誘導体は,蛍光発光を示すことが知られているので,凝集誘起発光分子のような機能性材料開発へ展開する予定でいる。また,パラジウムカルベノイドを用いたC-H結合挿入反応についても開発していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
蛍光発光を示すことが知られている多置換アリールを有する1,3,5-ヘキサトリエン誘導体の効率的な合成法の確立と凝集有機系蛍光色素のライブラリー合成を行うため,試薬代購入に予算の40%程度を見込んでいる。また,単結晶X線測定のための単結晶作成と凝集有機系蛍光色素のライブラリー合成に必要なマグネチックスターラー付低温恒温水槽(予算の30%程度)の購入を予定している。ガラス器具購入,機器測定使用料金,学会等への出張経費がそれぞれ予算の10%程度見込まれる。 次年度に使用する予定の研究費があるが,これは,本年度の研究で単結晶作成の際に使用する予定であったマグネチックスターラー付低温恒温水槽(上記記載)の購入費用である。本年度の研究では,単結晶作成に至らず,研究計画が翌年度へ持ち越しとなったため購入時期も翌年度になった。
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