2013 Fiscal Year Research-status Report
α-シリル-σ-アリル金属錯体形成を鍵とする触媒的炭素結合構築法の開発
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24550115
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
堀野 良和 富山大学, 大学院理工学研究部(工学), 准教授 (30447651)
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Keywords | パラジウム / パラジウムカルベノイド / パラダシクロブテン / シクロプロパン化 / 二量化反応 / ホモアリルアルコール / アルケニルホウ素 / アリルホウ素 |
Research Abstract |
昨年度までに開発したパラジウムカルベノイドの新規発生法を利用して,有機色素材料の合成を検討した。触媒量のパラジウム錯体とフッ化セシウム存在下,3-トリメチルシリル-1,2-ジアーリルアリルアセテート誘導体の二量化反応を行うと,1,2,5,6-テトラアリール-1,3,5-ヘキサトリエン誘導体が中程度の収率で得られた。ここで得られた生成物は,溶液状態では蛍光発光特性を有しないが固体状態で蛍光発光する色素分子であった。例えば,1,2,5,6-テトラフェニル-1,3,5-ヘキサトリエンの蛍光スペクトルの極大波長は440nmであり量子収率は0.58であった。一方,触媒量のパラジウム錯体とフッ化セシウム存在下,3-ピナコラトボリル-1-アリールアリルベンゾエート誘導体とノルボルナジエンとの反応では,シクロプロパン化生成物がジアステレオマーの混合物として得られることを見出していた。今回,反応系に18-crown-6を添加したところ,シクロプロパン化生成物が高い立体選択性で得られる知見を得た。このことから,添加剤であるフッ化セシウムが塩基として作用するとパラジウムカルベノイドとパラダシクロブテン両方の中間体が生成し,フッ素アニオンとしてホウ素の活性化に作用するとパラダシクロブテン中間体を生成することが明らかとなった。さらに,3-ピナコラトボリル-1-アリールアリルアセテートとパラジウム触媒との反応からアリルホウ素が生成する点に着目し,アルデヒドとトリアルキルホウ素との反応を検討したところ,アンチ選択的なZ体のホモアリルアルコール誘導体の合成にも展開することができた。アンチ選択的なホモアリルアルコール誘導体の合成はいくつか知られているが,本反応では,ホモアリルアルコールのオレフィンの立体化学も完全にZ体に制御できている点で合成化学的に有用な反応である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度以降の研究計画では,1)パラジウムカルベノイドによる触媒的sp2C-H 結合挿入反応の開発,2)パラダシクロブテン中間体とルイス酸触媒の共同効果による触媒的分子変換反応の開発を目的とした。研究計画1では,これまでの研究成果から困難であることがわかった。これは,パラジウムカルベノイドが他のロジウムやルテニウムカルベノイドよりも不安定なため,カルベンの二量化が容易に進行することが大きな原因である。そこで,次年度では,触媒をパラジウムからロジウムやルテニウムに変え,同様の触媒的sp2C-H 結合挿入反応の開発を引き続き実施する。一方,3-ピナコラトボリル-1-アリールアリルベンゾエートを用いたオレフィンのシクロプロパン化反応では,パラジウムカルベノイドとパラダシクロブテン両方の中間体が生成し,シクロプロパン化反応の立体選択性が低下する新たな知見を得ることができた。18-crown-6とフッ化セシウムを添加することで求核性の高いフッ素アニオンを発生させ,これによりパラダシクロブテン中間体経由に反応経路が偏り立体選択的なオレフィンのシクロプロパン化反応が進行したと考えられる。これは研究計画段階では予期しなかった新たな発見である。さらに,ここで得られた成果から,パラジウム触媒による3-ピナコラトボリル-1-アリールアリルアセテート,アルデヒド,トリアルキルホウ素の三成分連結反応を新規に開発することにも成功した。本反応は,ジアステレオ選択性とオレフィンの立体化学の制御を一挙に行うことができる新しいホモアリルアルコール誘導体の合成法である。さらに,パラジウムカルベノイドを利用した二量化反応では,凝集誘起蛍光分子の合成に成功した。以上のように,研究計画段階では予期しなかった非常に有用な方法論を見出すことができたことらも明らかなように,概ね順調に研究が進行していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
パラジウム触媒による3-ピナコラトボリル-1-アリールアリルアセテート,アルデヒド,トリアルキルホウ素の三成分連結反応による新しいホモアリルアルコール誘導体の合成法を確立させる。この反応は,アンチ選択的なホモアリルアルコール誘導体の合成法であるが,予備的実験からシン選択的なホモアリルアルコール誘導体の合成法の合成法も見出している。今後は,シン体とアンチ体の作り分けが可能な反応へ展開して行く。さらに,アルデヒドの代わりにアルドイミンを用いたホモアリルアミン誘導体の合成法も展開していく。 一方, 2,3-ジアリール-3-トリメチルシリル-1-アリールアリルアセテートのようなアリール基で多置換された基質を用いたパラジウムカルベノイドの二量化反応では,凝集誘起発光分子の創製に成功している。今後は,芳香族状の置換基にドナー置換基とアクセプター置換基を組み合わせた基質を用いて,さまざまな波長を有する蛍光色素分子の合成を目指していく。
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