2012 Fiscal Year Research-status Report
新奇な圧力誘起水素-炭素間相互作用の制御とその機構解明
Project/Area Number |
24550150
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
中山 敦子 新潟大学, 研究推進機構超域学術院, 准教授 (50399383)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山田 裕 新潟大学, 自然科学系, 教授 (10242835)
藤久 裕司 独立行政法人産業技術総合研究所, 計測フロンティア研究部門, 主任研究員 (90357913)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 高圧物性 / 炭素π電子系 / 水素 / 圧力誘起構造変化 / 水素貯蔵 / グラフェン / グラファイト |
Research Abstract |
これまでの研究では、高密度水素ガスとグラファイト構造をもつ炭素材料の同時加圧とX線回折、ラマン分光法によるその場観察から、室温で水素ー炭素間相互作用の生成を示唆する現象を発見した。本研究では、この新規な圧力誘起水素ー炭素間相互作用をグラフェン1枚からグラファイトに至るまでのグラファイト構造をもつ物質全般で理解することを目的とした。グラファイト構造をもつ炭素材料のうち、より単純な系”グラフェン”に注目し、精密な圧力制御技術のもとに、「グラフェンの積層数」が炭素ー水素間相互作用に与える影響を探索するため、平成24年度は次の研究項目を実施した。 1.常圧から1メガパスカルまでの圧力下で、グラフェンからグラファイトに至る水素ー炭素間相互作用の観察をおこなうための圧力制御と、ラマンスペクトルのその場観察が可能なシステムを構築した。 2.炭素ナノ構造体であるメソカーボンマイクロビーズ(MCMBs)と高密度水素ガスが共存する系で観察された圧力誘起構造変化の結果を用いて、MCMBsのもつグラファイト構造における水素分子の位置や配向、層間にかかる圧力について理論的予測をおこなった。 3.グラフェンの積層数が無限大である状態、つまりグラファイト単結晶についても、圧力下で水素が与える影響をX線回折やラマン分光法によるその場観察を介して調べようとした。水素ガス共存のもと圧力下でグラファイトの単結晶X線回折をおこなうための専用圧力セルの設計とその作成をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.新奇水素ー炭素間相互作用に誘起された構造異常は、ダイヤモンドアンビルセルで加圧可能な最小圧力:100メガパスカル(MPa)の圧力で既に発生する。水素ー炭素間相互作用の発現機構を明らかにするには、常圧から100 MPa までの範囲で構造のその場観察が必要である。本研究では、ファーストステップとして1 MPa 以下での圧力制御とラマンスペクトルのその場観察が可能なシステムを作成した。既存の流体用圧力セルを応用したガス圧制御セルを用い、試料の昇圧を水素ガスでおこなうために、デジタル圧力計、圧力ハンドポンプを導入し、顕微ラマン分光測定装置内に配管した。これにより、常圧から1 MPa までの精密圧力制御と同時ラマン測定が可能になった。 2.これまでの研究で得たMCMBs-水素について、密度汎関数理論計算による静的な構造最適化をおこない、X線回折で得た格子定数の圧力変化の再現を試みた。 計算結果は実験結果と異なり、圧力下では面間距離が広がり、面内構造の伸びを再現しないことを示した。 次に、グラファイトの層間にある割合で水素分子を挟んだモデルを作成した。層間距離を常圧で観察されるグラファイトの値に固定し、層間にかかる実効的な圧力を計算した。水素が層間に挟まることで、7GPa程度の圧力が層間に働くことがわかった。これらの結果は、理論計算が新奇な圧力誘起炭素ー水素間相互作用をうまく再現していないこと、ひいては現状のモデルで再現できない力が新奇相互作用であることを示唆する。 3.グラフェンの積層数が無限大である状態、つまりグラファイト単結晶についても、圧力下で水素が与える影響をX線回折によるその場観察を介して調べようとした。散乱角度が80度まで測定可能な小型で軽量な単結晶X線回折用圧力セルを新たに設計した。平成25年度にセルの組み立て、加圧チェックを経て、試料の単結晶X線回折を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
水素ーπ電子系炭素間に生じる新奇な圧力誘起相互作用を理解するため、平成25年度以降は、次の研究項目を実施予定である。 1.グラフェンのダイヤモンドアンビルへの転と積層数の制御:剥離したグラフェンのダイヤモンド基盤へのスクラッチによる転写と素積層数の評価は可能であることは、前年度に確認した。平成25年度以降は、ダイヤモンドアンビルに1~5層のグラフェンの転写をおこなう。ここでは、ダイヤモンドアンビルセルを用い、圧力発生機構と同じ技術を用いて、加圧転写を試みる。グラフェンの積層数の評価は、ラマンス分光法により、グラフェンの2Dバンドの測定によりおこなう。 2.グラフェン、グラファイトを用いた水素ー炭素間相互作用の観察:平成25年度以降は、ダイヤモンドアンビルに転写した1~5層のグラフェンを、各圧力セル(メガパスカル領域用、ギガパスカル領域)を用いて水素と共に常温で加圧する。各圧力下でのラマンスペクトルのその場観察により、水素ー炭素間相互作用を抽出し、水素分子の位置や配向に関する指針を得る。水素ー炭素間相互作用の本質を理解するため、対照実験としてヘリウム、アルゴンと共に加圧したグラフェン、グラファイトのラマンスペクトルも測定し、振動状態の違いを評価する。平成26年度は、グラファイトを水素中で加圧し単結晶X線回折、ラマンスペクトルのその場観察からバルクなグラファイトにおける炭素ー水素間相互作用も明らかにする。 3.高圧下でグラフェンと相互作用する水素分子の位置および配向の理論的予測:平成25年度以降は、密度汎関数理論計算により、グラフェンー水素の構造の最適化、分子動力学計算による水素分子、配向の予測により、水素ー炭素間相互作用、電荷移動相互作用等を導く。グラフェン積層数と水素ー炭素π電子間相互作用の質や大きさの関係を導く。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.グラフェンー水素の圧力発生と用途に適したキュレット径、高さ、質(タイプIa、もしくはタイプIIa、タイプIIaはダイヤモンドからの蛍光が少ないタイプ)を有するダイアモンドアンビル、モアッサナイトアンビルを購入予定である。また、昨年度、設計した単結晶X線回折用ダイヤモンドアンビルセルの組み立てに必要な部品、各圧力発生に適した弾性をもつ金属ガスケット(銀ろう、SUSなど)を購入する。 2.ラマンスペクトル測定には、グラフェンの2Dバンドの測定に適する赤色レーザー(光源波長:630ナノメートル)、および、専用エッジフィルター(光源波長:630ナノメートル)を購入する。 3.DACへのガス充填はNIMSでおこなう。このため、実験とその打合せのための旅費が必要である。 4.得られた研究成果の発表、最近の高圧、グラフェン研究の動向の調査、ディスカッションをおこなうため、研究成果発表のための旅費、研究成果発表費用が必要である。
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Research Products
(5 results)