2013 Fiscal Year Research-status Report
新規ヘテロ芳香族化合物の合成を基盤とした高性能両極性有機発光トランジスタの開発
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24550151
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
林 直人 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 准教授 (90281104)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
樋口 弘行 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 教授 (00165094)
吉野 惇郎 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 助教 (70553353)
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Keywords | 有機発光トランジスタ / 両極性ヘテロ芳香族化合物 / フラン / キノン / テトラシアノキノジメタン |
Research Abstract |
高い発光特性と高度な制御機能を併せ持つ有機発光トランジスタ(Organic Light Emitting Transistor, OLET)の実現を、適切な分子設計とその合成を通じて達成することが、本研究の目的である。一般にOLETは、機能の複合化・集積化という点だけでなく、三端子を有することにより細かな動作制御が可能、原理的に長寿命、また励起子密度が大きいために発光効率が高いといった点で、既存のOLED(Organic Light Emitting Diodes)と比べて発光機能そのものも優れている。分子結晶性薄膜でOLET機能が発現するには、1)材料の発光量子収率が大きく、(2)電子とホールの両方について電極からのキャリアの注入が効率的に行われ、かつ移動度が大きい(両極性もしくはアンバイポーラー性)ことで重要である。 こうした目的を達成するために、本研究では当初フラン環とピラジン環が縮環した両極性縮合多環ヘテロ芳香族化合物を標的化合物として研究を開始したが、合成が予想外に困難であったことから、1年目の途中から電子受容性部位をキノン(Q)部位に置き換えた化合物を新たに標的化合物に設定し直して、研究を進めたところ、1年目にはアントラキノン(AQ)の両端に、2つのフラン部位が互いに逆向きで縮環した化合物1と、互いに同じ向きで縮環した2(1の構造異性体である)の合成に成功し、その基礎物性を測定した。 このことをふまえて2年目は、1と2のQ部位をそれぞれテトラシアノキノジメタン(TCNQ)部位で置換した誘導体3および4(テトラシアノアントラキノジメタン(TCAQ)にフラン部位が縮環した分子構造を有する)の合成を行うとともに、それらの基礎物性や結晶構造、また予備的なトランジスタ動作測定を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3と4は、1と2に四塩化チタンとピリジンの存在下、マロノニトリルを作用させることで、それぞれ高収率で合成することができた。得られた3と4は、NMR等で構造決定した後、サイクリックボルタンメトリー、UV/Visスペクトル、蛍光スペクトル、蛍光量子収率といった基礎物性を測定した。 TCAQ誘導体である3と4は、対応するAQ誘導体である1と2と比べて、吸収・発光スペクトルの吸収端が長波長シフトするとともに、第一還元電位も正電位側にシフトすることが観測された。このことは、3と4がn型半導体として1と2よりも望ましい性質を有していることを示唆している。また、それらの物性値は、1と2でほとんど変わらなかったことと同様に、3と4でも大きな違いは見られなかった。 結晶化挙動は3と4で異なり、3では3種類の結晶多形が観測された。またX線構造も3と4で大きく異なり、3(α形)では分子間でLUMOの2次元的な重なりが見られたのに対し、4では1次元的な重なりが観測された。 予想外のことであるが、3と4の蛍光量子収率は、溶液中ではほぼゼロであるのに対し、結晶状態では0.12~0.13と増大することがわかった。これは、凝集誘起発光(AIE)とよばれる現象である。3が結晶多形を示すため、結晶構造との関係は明らかではないが、溶液状態でおこる配座の変換が固体状態で抑制されることが原因と推測される。 3および4の電界効果トランジスタデバイスを作製し、その挙動を調べたが、残念ながらトランジスタ動作は観測されなかった。3および4は十分な電子受容性を有すると考えられるため、その原因は、結晶中でのパッキングまたは結晶粒界にあると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
3と4のデバイス作製を行い、トランジスタ動作および発光トランジスタ動作を目指す。予備的な研究では、両方ともトランジスタ動作が見られていないが、典型的な作製条件のみしか試みていないため、今後幅広い条件検討(膜作製条件、電極、表面処理など)を行うことでデバイスとして動作することが十分期待できる。あるいは、3の結晶多形現象が原因である可能性もあるため、薄膜の結晶構造解析についても、実施する予定である。 これに加えて、3と4では電子受容性に比べて電子供与性がやや小さい印象があるので、3と4に電子受容性部位、たとえばビチオフェン基などを導入した誘導体の合成を行い、そのデバイス動作についてもあわせて検討する。合成は、1~4の合成法に準じて行うことができるだろう。 研究目的に沿って実験を行う過程において、いくつかの興味深い現象も付随して見られたので、それらについても併せて検討したい。まずは、2かららせん形の外形の結晶が得られたことについてである。らせん形の構造的知見(積層間隔など)をX線回折法で調べるとともに、らせん形に特徴的な物性、たとえば吸収・発光スペクトルの円二色性なども検討したい。また、3と4に見出されたAIEについても、探求したい。3の結晶多形を作り分け、それぞれについてX線構造とAIEの関係を調べる。また現在のところ、AIEの機構を励起CT状態における分子のねじれ構造に起因すると考えているが、その妥当性を理論計算などを用いて明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1~4の研究を行う過程において、AIEなど興味深い現象が見られ、他研究者との競合のためにそちらの研究をすみやかに進める必要があったために、1~4のデバイス作製に十分な時間と費用をかけることができなかったことが、次年度使用額が生じた理由である。 本年度は、繰り越し金をデバイス作製条件検討のための経費に充てて、発光トランジスタの研究成功に向けて尽力したい。また前記のとおり、これまでの研究からは、1~4にビチオフェン基などの電子供与性部位を導入することがアンバイポーラー性確立のためには有効という感触を得ていることから、それら誘導体の合成にも上記繰越金を用いる予定である。
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Research Products
(7 results)