2012 Fiscal Year Research-status Report
電極上液膜や吸着膜のナノからマクロに及ぶ動きのその場分光電気化学追跡
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24550158
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
相樂 隆正 長崎大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20192594)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 分光電気化学 / 液膜 / 吸着膜 / 動的電位駆動 / ファラデー相転移 / 単結晶電極 / 蛍光顕微測定 / 金属ナノ粒子 |
Research Abstract |
1. Au(111)電極表面上のヘキサデカン(HD)の極薄液膜が、電位の関数として示す動的挙動(電位をネガティブにすると50マイクロメートル以下の直径で液滴化する可逆応答)を、ペリレンを蛍光プローブとした蛍光顕微動画によって精査した。その結果、分子層数換算で数千層分のHDであっても、ほぼ同じ直径の液滴群としての立ち上がることが初めてわかった。更に、電気二重層が直接作用する距離を凌駕した液滴上端の動きも確認された。立ち上がりの高さを定量するため、Au表面から色素までの距離に依存した蛍光消光の割合を、LB膜系を用いてエリプソメトリーの併用によりおおよそ検量することに成功した。この際、基板が半導体Siのとき、消光の距離依存性が2段階になることもわかった。 2. 高配向グラファイト(HOPG)電極上におけるジベンジルビオロゲン(dBV)のファラデー相転移(一次)において、対アニオンをClからBrに代えると、転移が二段階に分岐する新現象を見出した。電位ステップ過渡電流波形から、二段階とも一次転移であることが確認できた。一段目の紫外・可視反射スペクトルは、新しい電子状態の相が生成したことを示唆した。一方、ジフェニルビオロゲン(DPhV)では、HOPG電極上で一次相転移を示さない、酸化体の強吸着が起こり水によるリンスでは脱着しない、ボルタモグラムが強いヒステリシスを示すなどの特異性が明らかになった。 3. Au(111)電極表面上のdBVとDPhVは、Clが対アニオンのとき、いずれも2つの異なった相転移挙動を示した。酸化体のみが存在する状態から電位をネガティブにしたとき、還元に伴う相転移の前に、ビオロゲンとイオンの同時吸脱着を含むオーダー・ディスオーダー転移が全面で起こることを突き止めた。 4. ナノ粒子ペアを作製するための方法の充実を図り、ジアミン架橋が有効であることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. Au単結晶上での液膜の動的挙動を追跡する検討においては、様々な条件下での超薄液膜の動きが明らかになってきただけでなく、蛍光強度または蛍光寿命の測定によって波線方向の動きの大きさを定量できる可能性が高くなってきた。液膜についての検討に関しては当初計画からシフトした視点もあるが、強い手応えを感じており、進捗度は総合的に順調である。位置特異的に導入する色素プローブの検討にも着手できている。 2. 二次元相転移の検討においては、相転移フロントの動きをHOPG表面上でin situに追跡ができる分光法の開発は挑戦的であり、更に手法のブレークスルーが必要であることを指摘できる。一方で、フェニル基やベンジル基を持つビオロゲンの相転移について計画以上に深い洞察が得られ、25年度中にはその主な成果をまとめた数報の論文を投稿できる見込みである。2年目には、これらの結果を踏まえ、相転移フロントを追う標的に関して、確実な見通しのもとで測定手法に集中した議論ができると想定でき、進捗度はトータルでは順調である。相転移過程の電気化学的解析に絞れば、期待以上の豊富なデータが得られている。 3. 金属ナノ粒子ペアを通過ゲートとして用いる物質層通過の分光モニタリングについての検討では、信号を捕らえる手法の目途が立った。ただし、現時点で最も有効だとの結果を得ているジアミン架橋であっても、ダイマーのみを優先的に生成する方法として確立するには、格段の改良が必要かもしれない。 以上を総合して当初計画に照らすと、おおむね順調な進展であると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
Au単結晶上での液膜の動的挙動を追跡する検討においては、位置特異的に油水界面で発光する色素を確実に選定し、顕微測定における倍率も高める。これによって、より精度の高い動画データの定量解析を行なう。常温でレドックス液体となるフェニレンジアミン(PDA)誘導体を用い、液滴制御と酸化還元とのカップリングの可能性を探る。更には、三相界面特異反応の検討を開始する。二次元相転移の検討においては、ビオロゲン以外の分子についても精査し、ビオロゲンの特異性を明示することを狙う。更に、機構や伝搬速度のレドックス種依存性を記述することを目標とする。 電位で形状を精密かつ自在に制御した定量的な油滴をテンプレートとし、Auナノクラスターを素材として集合体を形成し、更にドーム型アーキテクチャー化するテーマに着手する。知る限り、前例のない挑戦であるが十分、成算はある。高次構造体の創製のため、クラスターの相互付着と凝集によって構造転写をする過程が鍵となる。パターンニングを理想化し、空洞のAuドームの作製、更にはドームの規則配列を達成し、光電気化学特性を測定する。Auドーム作製においては、油滴(アルカン液滴)以外に、イオン液体滴なども電気化学的制御下で用いることができないか試験する。 Au電極表面から色素分子までの距離と蛍光寿命の関係を更に精密化する。まずはモデル系として、電極表面上に積層したLB膜中の蛍光色素についてin situ測定する手法を洗練するが、そのための測定キットをどのように自作するか、課題として浮上している。なお、この研究に十分のレーザーダイオードが、共同利用機器として導入されたため、検討を加速できると期待できる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額(B-A)が生じたのは、人件費・謝金と機器使用料を本研究から支出する必要がなくなり、その分の一部は物品費に回したが、物品費はほぼ当初計画の金額に収まったためである。この分は、平成25年度中に必要となると予見される分光測定のための機材を当初計画よりも高度化するために充てる予定である。 平成25年度には、研究期間前半の成果を国際学会で発表することを計画しており、当初よりそのための旅費を計上している。また、物品費の小計を上記により約107万円まで上方シフトして支出することにより、研究の加速が期待できる。
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