2012 Fiscal Year Research-status Report
ビタミンB12誘導体とヒト血清アルブミンによる可視光利用人工酵素の開発
Project/Area Number |
24550191
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
増子 隆博 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), その他 (40457445)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ビタミンB12 / 触媒反応 / 金属酵素 / バイオインスパイアード / 光増感剤 |
Research Abstract |
土壌や地下水には、農薬や洗浄用溶剤などとして過去に使用された難分解性の有機ハロゲン化合物が残っており、環境問題となっている。一方で天然に存在するビタミンB12依存性酵素のリダクティブデハロゲナーゼは、テトラクロロエチレンの脱塩素化反応を行なうことが分かっている。本研究では、このような有機ハロゲン化合物の分解反応を水系で穏やかに触媒的に進ませる人工酵素の構築に成功した。過去に活性中心であるビタミンB12の側鎖をアミド結合からエステル結合に変換することで、有機溶媒中でも取り扱いが容易な疎水性ビタミンB12が合成されている。また、ヒト血清アルブミン(HSA)は血液中に存在し、α-へリックスによるループ構造を多く有しており、有機合成された鉄ポルフィリンを疎水的な相互作用により結合させた報告例がある。そこで、HSAの疎水的な場に、疎水性ビタミンB12を人工の補酵素として取り込ませることにより、新たな機能を持つ人工酵素を構築した。さらに、この人工酵素に光増感剤ルテニウム錯体を組み合わせ、可視光を照射することで、ビタミンB12を超求核性のCo(I)種へ変換し、毒性の高い有機ハロゲン化物DDTから脱塩素反応を触媒的に進行させることに成功した。このHSA-B12-ルテニウム人工酵素系において脱塩素化反応の条件を変え、その効率を比較検討した。この反応では、中心金属であるCo(I)種が活性種となるため、溶媒などによる失活が起こると効率が落ちるが、HSAに取り込まれたビタミンB12は溶媒から隔離された状態にあるため、失活のおそれが少ない。さらに、低濃度の有機ハロゲン化合物を水系で反応させた場合、HSAの疎水的な場に水に溶けにくい有機ハロゲン化合物が自然に濃縮されるため、HSA疎水場にとどまっているCo(I)種と優先的に反応しやすくなることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
HSA-B12-ルテニウム人工酵素系の構築に成功し、水系で進行させることに成功した。HSAは生体内で、その疎水的な場にビリルビンやポルフィリンなどのテトラピロールも取り込むことが知られている。ビタミンB12も同様の骨格を持つため、疎水的に化学修飾したビタミンB12誘導体をHSAに取り込ませ水層での反応を行なえるようになった。また、疎水性ビタミンB12は、側鎖のアルキル長を変化させることなどで疎水性の度合いを調整することが可能であるため、HSAの疎水場に最適な構造を調製・比較検討した。その結果、疎水性ビタミンB12のエステル鎖が、エチル基の場合にはHSAから溶媒中へ解離してしまうが、プロピル基にすることでHSAと強く相互作用し、溶媒中への解離が抑えられることが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
ルテニウム錯体-B12誘導体連結型酵素を構築し、光増感サイトからの電子移動の効率をさらに向上させることを計画している。具体的には、ビタミンB12の側鎖に、エステル結合、またはアミド結合によってルテニウム錯体を連結させることで、互いの距離を近づけ電子移動を容易にさせる。同時に、B12に対して過剰量使用しているルテニウム錯体の比率を減らすことを予定している。また、ローズベンガルを光増感剤として使用しても超求核性を有するCo(I)種が生成するという報告があるため、高価な金属を用いない光増感剤を利用することも検討している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ビタミンB12誘導体である金属錯体とHSAおよび、ルテニウム錯体の組み合わせによる人工酵素を構築し、その物性・反応特性・触媒機能について検討している。この反応では可視紫外吸収スペクトルで反応中間体(超求核性を有するCo(I)種など)を検出し、反応機構を解明することが必要不可欠である。そこで25年度に可視紫外分光光度計(170万円)の購入を計画した。 研究機関を通じて、常により効率的で有用な触媒の合成を続けていく必要がある。各年度において約100万円ずつの消耗品(試薬・溶媒・ガラス器具等)が必要である。さらに学会で発表し成果を公表するため、各年度20万円の旅費が必要である。また、論文投稿などを必要経費として計上した。
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Research Products
(7 results)