2013 Fiscal Year Research-status Report
細胞で行われる核酸反応を解明するための新規モデル実験システムの構築と利用
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24550200
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
中野 修一 甲南大学, フロンティアサイエンス学部, 教授 (70340908)
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Keywords | DNA二重鎖 / 分子クラウディング / 脂肪酸結合タンパク質 / ゲル / ポリエチレングリコール / 融解温度 |
Research Abstract |
本研究は、分子クラウディング研究の一環として、細胞骨格フィラメントやナノ材料による核酸分子の閉じ込め(confinement)効果を調べるための新規モデル実験系の構築を目指している。平成26年度は、小さな網目サイズを有するポリアクリルアミドゲル実験系の構築を試みた。ポリアクリルアミドゲルはラジカル重合によって調製される化学ゲルであるため、重合反応後にDNA分子を閉じ込める必要がある。そこで、ゲルの作製、塩と不純物の除去、ゲルの乾燥、そしてDNA溶液による膨潤という手順を考案した。分光測定が可能な高品質ゲルを作製するために、それぞれの過程において実験条件(溶液組成や温度、操作時間など)を最適化し、DNA分子をポリアクリルアミドゲル内部に閉じ込めるための実験手順を構築した(日本化学会第94春季年会で発表)。そして、作製されたゲル材料を使ってヘアピンDNAの構造安定性を測定したところ、網目サイズがDNAの構造安定性に影響するというデータが得られた。また、高張液によってポリアクリルアミドゲルが脱水される現象を利用すると、低水分量の分子環境を作り出せることが見出された。一方、タンパク質を使った分子クラウディング実験系の構築に関しては、脂肪酸結合タンパク質(FABP)を大腸菌で発現・分離精製する過程で混入する脂肪酸を効率良く除去する方法を確立した。これにより精製度が高いタンパク質を取得できるようになり(第36回日本分子生物学会で発表)、分子クラウディング実験に高品質のFABPが使える目処がついた。また、市販のタンパク質であるウシ血清アルブミンやリゾチームを用いて、高濃度のタンパク質共存下でDNA構造安定性を測定する方法についても検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ポリアクリルアミドゲルにDNA分子を閉じ込める方法を確立させ、DNAの構造安定性を測定するという目標は達成された。このゲルを用いることにより、ゲルの網目サイズに依存したDNA分子の閉じ込め効果を評価できたことから、平成25年度の研究目的は達成できたものと考えている。その一方で、今年度に予定していたハイブリッド型実験システムの構築研究は進めることができなかった。これは脱水ゲルの構築を優先させたためである。脱水ゲル実験系を用いることで、従来の分子クラウディング研究で広く用いられているポリエチレングリコール(PEG)の効果を検証できると考えられるため、予定を変更して脱水ゲルの作製を急いだ。これは本研究で予定されていなかったものであり、当初の計画を超える展開となった。今年度は、高濃度のPEGが溶解した水溶液を用いた実験から、水の活量が分子クラウディング環境におけるDNA二重鎖と四重鎖構造の熱安定性に深く関係していることも報告した(J. Phys. Chem. BならびにCurr. Protoc. Nucleic Acid Chem.誌に報告)。このPEGを用いた実験から明らかになった水分子の重要性に関して、脱水ゲルを用いた実験系では直接的に調べることができると考えられる。このような新規実験系を用いる研究では、従来の中性溶質を使った実験データとの比較は不可欠である。今年度、既報の核酸の構造や機能に対する分子クラウディング効果をまとめ、Chem. Rev.誌に総説として公表した。この際に得られた知識はハイドロゲル実験系で得られた結果を考察するのに役立ち、さらには脱水ゲル作製の着想に至った。タンパク質を使ったモデル実験系に関しては、目的としていた高品質のFABPを得る方法を確立させ、分子クラウディング実験に使用できる目処がついた。以上のように、本研究の進捗状況は順調であると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に開発した方法で脱水ゲルを作製し、低水分量の分子環境下におけるヘアピンDNAの構造安定性を調べる。さらに、分子クラウディング環境において脱水効果が大きく影響すると報告されているDNA四重鎖構造に対しても同様の検討を行う。これらの実験から得られる結果を、PEGを使った場合に得られるデータと比較し、DNAの構造安定性に対する水分子の役割を明らかにする。また、今年度に実施できなかった、ゲルと中性溶質を組み合わせたハイブリッド型実験システムを構築し、繊維状構造体中に高濃度共存溶質が存在した分子環境の影響を調べるための実験も行う。タンパク質を使った分子クラウディング実験系に関しては、高濃度のFABP共存下におけるDNAの構造安定性を評価する。また、市販のタンパク質や人工合成ポリマーを用いた場合に得られるデータと比較することで、高濃度タンパク質がつくり出す分子環境の影響を化学的な視点から解き明かす。 本研究では、リボザイム(RNA酵素)を使った検討を行うことで、分子環境効果を生じさせる要因として誘電率の重要性も明らかになりつつある。そこで、様々なRNAやDNA構造体に対して誘電率が与える影響を詳細に調べ、核酸分子に対する誘電率効果の一般性を解明することを目指す。また、ゲルやタンパク質溶液の誘電率や水の活量にも着目し、その影響について考察を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度に予定していたハイブリッド型実験システムの構築研究を実施しなかったことで予算の消化が遅れたことが主な理由である。これは脱水ゲルの構築を優先させたためである。脱水ゲル実験系を用いると、これまで分子クラウディング研究で広く用いられてきたPEGによる水の活量変化の効果を直接検証できるため、予定を変更して脱水ゲルの作製を急いだ。新規ハイブリッド型実験システムの構築は次年度に実施する。 次年度は、脱水ゲルを使ったDNA構造の熱安定性の評価、タンパク質による分子クラウディング効果の検討、そしてハイブリッド型実験システムの構築を試みる。これらの実験を進めるために、DNAとRNAの委託合成、酵素・緩衝溶液・培地・蛍光試薬・各種実験キットなど試薬類の購入、ガラス・プラスチック製器具などの消耗品の購入に使用する。とくに、タンパク質試料の調製とハイブリッド型実験システムの構築実験には多くの試薬が必要となる。また、研究費の一部は学会発表や論文の校閲と掲載のための経費に充て、研究成果の公表に活用する予定である。
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