2012 Fiscal Year Research-status Report
炭素及びシリコンからなるコアシェル構造を有したリチウムイオン電池負極材料の合成
Project/Area Number |
24550238
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Aichi Institute of Technology |
Principal Investigator |
大澤 善美 愛知工業大学, 工学部, 教授 (80278225)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | リチウムイオン電池 / 炭素 / シリコン / CVD |
Research Abstract |
本年度は、800~1000℃の低温で炭素化を行ったセルロース粉末へパルスCVI法を用いて基質炭素上へ熱分解炭素コーティングを行い、炭素化温度の違い、及び熱分解炭素コーティングによる影響について、構造解析と電気化学的特性評価を行い考察した。 用いた炭素化セルロース粉末のSEM画像とTEM画像を解析した結果、SEMよりセルロース粉末は大きさにバラつきがあり、熱分解炭素コーティングを行っても凝集していないこと、またTEMより膜厚は10-20μm程度で、熱分解炭素は層状に析出していることを明らかにした。次に、各温度で炭素化したセルロース粉末についてパルスCVI処理前後の試料のXRDパターンを測定し、未処理のものは炭素化温度に関係なく一般的な難黒鉛化性炭素と見られる回折ピークが観測され非常にブロードな002と01のピークが現れること、そして熱分解炭素を析出させることで、002ピークが高角度側へシフトしd002値が減少することを見出した。これは、基質の炭素化セルロースよりも結晶性の高い熱分解炭素が析出したためだと推定した。電気化学的特性評価として、1000℃で炭素化したセルロース粉末の熱分解炭素コーティング前後での初期充放電曲線を解析し、熱分解炭素を析出させることにより、不可逆容量が減少することを明らかにした。これは、熱分解炭素を析出させることで活性なエッジ面や表面あるいは末端の官能基と電解液との接触を妨げ、不可逆容量の原因となる電解液の分解等を抑制したためだと推察している。また、コーティングにより、不可逆容量の低減に加え、可逆容量の増加がみられた。これは、表面でのLiの導入・脱離速度が向上したためだと考察した。また800~900℃で得られた試料においても、不可逆容量の低減がみられ、処理温度の低下とともに可逆容量が増加することを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の計画では,【1】コア用材料の検討として、「高容量低結晶性炭素の合成条件の解明」、および【2】シェル材料の検討として、「熱分解炭素ならびにシリコンコーティング条件と表面構造および電気化学的特性との関係の解明」について検討する予定であった。 【1】については、本年度は、研究代表者がこれまでに研究の対象としたセルロース系高分子について、より詳細、系統的に炭素化条件を吟味し、黒鉛を超える容量(372 mAh/g)以上が得られる条件について検討した。その結果、粉末濾紙を解離したセルロース短繊維を、700から1000℃で、アルゴン雰囲気中、4時間炭素化することで、372 mAh/g以上の容量を得られることを見出した。特に800℃で炭素化したセルロース繊維は、524 mAh/gと大きな容量が得られた。このように、黒鉛を超える高容量炭素の合成条件を見出すことができ、充分な研究の進展が得られたと考えられる。 【2】について、熱分解炭素コーティングに関しては、基質の炭素化セルロースよりも結晶性が高く、緻密で比表面積が小さな熱分解炭素が析出していることを構造解析より明らかにした。また、電気化学的特性の評価より、熱分解炭素を析出させることにより、大きく不可逆容量が減少することを明らかにした。これは、コア炭素の活性なエッジ面や表面あるいは末端の官能基と電解液との接触を妨げ、不可逆容量の原因となる電解液の分解等を抑制したためで、表面構造と電気化学的特性との関係について、重要な解明を行うことができたと思われる。しかし、シリコンコーティングについては、本年度は析出が確認でき、シリコンの容量を評価した段階までであった。
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Strategy for Future Research Activity |
1.コア用材料の検討 「高容量低結晶性炭素の合成条件の解明」:本年度は、前年度検討したセルロース繊維に引き続き、木質材料、ならびに合成高分子であるフェノール系、およびメラミン系を検討する。前年度同様、構造解析と電気化学的特性評価を行い、得られた知見を元に、容量等に強く影響する構造因子を見出し、各材料系からの高容量低結晶性炭素の合成条件を明らかにする。なお、得られたコア炭素は、表面積が大きく後述のシリコンコーティングの基礎実験には不向きな可能性がある。そのため、既存の負極用炭素である黒鉛粒子についても候補として検討する。 2.シェル材料の検討 「コーティング条件と表面構造および電気化学的特性との関係の解明」:熱分解炭素コーティングについては、本年度は、前年度に引き続き、プロパンガス系からのコーティングを検討するとともに、アセチレン、及びベンゼンガス系からのコーティングを検討する。ベンゼン系からは結晶子の配向が発達した層状組織の熱分解炭素が析出しやすく、アセチレン系からは結晶子のサイズが数nm以下で配向がランダムな熱分解炭素が析出しやすいとされており、異なったナノ構造の薄膜をコーティングできると期待され、さらにCVD条件を吟味することで構造を制御し、構造と電気化学的特性との関係を詳細に検討する。シリコンコーティング条件と構造および電気化学的特性との関係の解明に関しては、シリコンは、ミクロンサイズの粒子や膜では、充放電サイクルでの構造破壊があり単独では使用できないとされているため、本研究、本年度では、四塩化ケイ素ガス系を用い、CVD法で、コア炭素の表面にナノメーターサイズで膜状もしくは粒子上のシリコンを析出させる条件を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度の研究では、シェル材料の検討として、熱分解炭素コーティングに加え、シリコンコーティングの検討に関しても、構造と電気化学的特性との関係を詳細に検討する予定であったが、実際は、シリコンの析出の確認と、得られたシリコンコーティング試料の充放電挙動の評価までの検討で終わり、詳細な電気化学的特性の評価と構造との関連性の解明は未着手であった。そのため、その他の電気化学的特性評価用に予定していた電解液などの使用量が、予定よりやや少量となり、次年度使用予定の研究費が発生した。しかし、その額は8万円以下であり、全予算に対する比率は小さい。 次年度の研究費の使用計画は以下を予定している。コア炭素の原料費の購入を行い、その合成のための装置(炭素化炉)の消耗部品を購入する。また、シェル用炭素やシリコンのコーティングのための原料(ガス類)の購入、コーティング用CVD装置の消耗品、例えば石英製反応炉の製作、修理、真空ポンプオイルなどを購入する。試料の構造解析としては、元素分析(ESCA)による表面C,O組成、X線回折法、ラマン分光法、TEMなどによる結晶性やナノ構造解析、窒素吸着法による表面ポア解析などを予定しており、そのためのガラスセルや冷媒などの必要品を購入する。さらに、電気化学的特性として、容量、クーロン効率、サイクル特性、レート特性を評価する。そのため、ガラス製電池セル、電極用リチウム、電解液などの消耗品を購入する。
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