2012 Fiscal Year Research-status Report
高分子の結晶化と分子認識:普遍性と個性に基づいた第一原理材料設計
Project/Area Number |
24550257
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
山本 隆 山口大学, 理工学研究科, 教授 (00127797)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 高分子結晶化の標準モデル / らせん高分子の結晶化 / 結晶化における分子認識 / 流動場での結晶化と繊維形成 / 高分子結晶の大変形の分子機構 / 高分子のトポロジーと結晶化機構 |
Research Abstract |
高分の結晶化を分子レベルで理解し制御することは、高分子材料設計の基礎である。高分子結晶化には、美しい「標準モデル」で表わされる極めて普遍的な性質と螺旋高分子の特異的な「分子認識」で代表されるような個性的な性質がある。しかし、これらの分子レベルでの起源の解明は現在でも非常に困難な問題である。 本研究では、実験的閉塞状態を打破するために、高分子結晶化の標準モデルの確立、螺旋高分子の結晶化と特異な分子認識メカニズムの解明、流動場における結晶化、分子トポロジーおよび様々な“場”の効果、など、高分子の結晶化が大きな役割を果たすな重要課題に、分子シミュレーションを用いて挑戦を行っている。以下に、2012年度における研究の進捗状況の要約を項目別に記す。詳細は、次の“現在までの達成度”を参照。 ①高分子結晶化の標準モデルの確立に関しては、研究は着実に進行している。現在、論文を執筆しており、既にその最終段階に有る。 ②流動場における結晶化に関しても鋭意研究を進め、結晶化の微視的過程や生成され繊維構造の力学的性質に関して論文を作成し、既に掲載が決まっている。 ③螺旋高分子の特異的な分子認識のメカニズムの解明に関しては、興味深い計算結果を確認しており、現在、論文作成の準備を行っている。④更に、“分子トポロジーおよび結晶“場”の効果“についても、探索的な計算を行い、新たなモデルの検討と本格的な計算の準備を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究プロジェクトでは、次の四つの大きなテーマを設定した:大規模計算による高分子結晶化の標準模型の確立、らせん高分子の結晶化と分子認識機構の解明、流動場での結晶化と分子配向秩序形成のメカニズム解明、グラフト鎖結晶化のメカニズム解明と共役系高分子への挑戦。 ①大規模計算による高分子結晶化の標準模型の確立:十数万原子からなるモデル高分子系(理想化ポリエチレン)に対してマイクロ秒に及ぶ分子動力学を実行中である。通常の融点近傍での結晶化、および大きな過冷却状態でのガラスからの結晶化の微視的過程が明らかになりつつあり、現在の到達範囲で、データ解析と論文執筆を進めている。 ②らせん高分子の結晶化と分子認識機構の解明:配向状態からの結晶化を直接観測することに成功している。データ解析と論文の構想を練っている。 ③流動場での結晶化と分子配向秩序形成のメカニズム解明:モデル高分子に対して、流動場で高度に配向した液体を作成し、そこからの結晶化過程を観測することに成功した。分子鎖が規則正しく結晶化し、秩序的な積層ラメラ構造の発現過程を観測した。生成された繊維構造の力学的大変形過程の詳細な解明も行っている。研究経過の一部は2013年1月に論文を執筆し、掲載が確定している。 ④グラフト高分子の結晶化メカニズム解明と共役系高分子への挑戦:線状高分子の結晶化の計算科学的研究は既に一般的になりつつある。しかし、実験的には様々な特異なトポロジー構造を有する高分子の研究が盛んに行われており、その結晶化機構は非常に重要な技術(高分子エレクトロニクス)の基礎となりつつある。本プロジェクトでも、計算科学的なアプーチによる挑戦を目指している。2012年度においては、単純な枝分かれ構造を有するモデル高分子の秩序化過程に関する予備的なシミュレーションを行った。モデルの改良と本格的な計算の実行を予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究は概ね順調に進んでいるが、課題毎に状況は異なる。研究成果が出始めている課題(“高分子結晶化の標準模型”、“流動結晶化”)に関しては、出来る限り早期に論文発表を完成させる。未だ十分な時間が確保出来ていないテーマ、特に“らせん高分子の結晶化と分子認識”は、新たな知見が得られつつある。今年の夏休みを目安に研究発表を急ぐ。 新たな高速計算機の導入と大規模プログラムの開発は、メモリー共有型のマルチCPUを用いた並列計算だけが順調に進んでいる。GPGPUの早期立ち上げとプログラム開発を急ぎたい。また、“グラフト高分子の結晶化と共役系高分子への挑戦“は、モデルの確定を急ぎ、本格的な計算を始める。高分子結晶化にけるメソスケール手法の探索には、じっくりと時間をかけて新たな戦略を練りたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度には購入できなかった高速計算システム(マルチCPUを載せたメモリ共有型PC、およびGPGPUマシン)を導入し、早期に運転立ち上げを目指す。 備品購入以外は、多く旅費に使われる。 (1)2013年度は幾つかの国際会議(バルセロナ、京都、など)に参加し、本研究の成果を世界に発信する。 (2)恒例の高分子学会、高分子討論会に加え、京大物理研究クループによる高分子物理学研究会も予定されている。 (3)2013年度には、幾つかの高分子材料に関する書籍の出版が予定されている。“高分子ナノテク“に関する書籍の原稿は既に投稿し、出版を待ちである。また、我々が所属する高分子計算科学調査WG”も独自の書籍出版を決めており、その執筆と編集活動にも携わる。
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Research Products
(8 results)