2013 Fiscal Year Research-status Report
面間トンネルスペクトロスコピーによる高温超伝導銅酸化物の擬ギャップ相の研究
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24560017
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
北野 晴久 青山学院大学, 理工学部, 准教授 (00313164)
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Keywords | 強相関電子系 / 超伝導材料・素子 / 物性実験 / トンネルスペクトロスコピー / 擬ギャップ |
Research Abstract |
集束イオンビーム加工により、固有ジョセフソン接合の接合部を約1μm四方に微細加工し、接合数を10接合にまで削減した微小接合素子の作製方法と短パルス法による電流電圧特性評価を報告する研究論文を執筆した(投稿中)。次に、接合数が約20の微小接合素子のスイッチング電流確率分布測定を高次スイッチング事象領域まで拡大して行った。絶対温度10K以下で観測される巨視的量子トンネル現象的挙動を位相再補足効果を取り入れた新しい解析モデルで検証し、有限電圧状態における散逸効果が、自己発熱効果よりも位相再補足事象の増大に寄与することを見出した。さらに、マイクロ波照射実験から高次スイッチング事象における共鳴スイッチング現象を初めて観測した。これらの研究成果は、固有ジョセフソン接合系の高次スイッチング事象においても、低温で巨視的量子トンネル現象が発現していることを強く示唆するものと考えられる。 次に、CaサイトをYで20%置換したBi2Sr2Ca0.8Y0.2Cu2Oy単結晶を作製し、Y置換量10%の単結晶と特性を比較した結果、超伝導転移温度の変化は系統的であるものの、結晶部位によるY濃度の不均一性が予想以上に大きいことが判明した。また、短パルス法で得られた固有ジョセフソン接合素子の電流電圧特性から微分電気伝導度スペクトルを求め、超伝導ギャップを定量的に評価した結果、従来より小さい値となる傾向が判明し、短パルス法による自己発熱効果の低減が未だ不十分との結論を得た。このため、マイクロ波伝送用の同軸ケーブルを搭載した短パルス測定用のインサートプローブを開発した。最後に、固有ジョセフソン接合素子の接合数制御に用いる新技術として、アルゴンイオン照射による微細加工に取り組んだが、イオン照射時の発熱の影響が著しく、イオン加速電圧の増大などの改良が必要なことが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前年度の研究成果の一部を投稿論文にまとめることができた点、および当初予定していなかった固有ジョセフソン接合系における高次スイッチング事象の位相ダイナミクス解明に関して大きな進展が得られた点については、順調な進展状況と判断できる。しかしながら、前年度の研究で一定の目途がついたと判断していたキャリアドープ量を変えた単結晶の育成や面間トンネルスペクトロスコピーの測定手法に新たな問題点が見つかった。すでに、問題点の克服に向けた対策を検討し、一部は実施中であるが、本研究計画の根幹部分に関わる部分であるため、全体としての達成度はやや遅れている状況と判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度、研究が大きく進展した固有ジョセフソン接合系の高次スイッチング事象については、巨視的量子トンネル現象発現の確証を得るため、マイクロ波照射に伴う共鳴スイッチング現象の起源解明を中心に実験を続ける。また、固有ジョセフソン接合素子による面間トンネルスペクトロスコピーについては、(1)前年度完成させた短パルス測定専用のインサートプローブを用い、素子形状とパルス波形の伝送特性との相関を検証するほか、超高速応答測定に向けた測定回路系の最適化に取り組む。(2)自己発熱効果の低減に本質的に重要と考えられる固有ジョセフソン接合素子の接合数制御に関しては、従来の集束イオンビーム加工による接合数制御技術の確立を目指し、精度向上と再現性向上に取り組む。以上の2点により、自己発熱効果に影響されない面間トンネルスペクトロスコピーの測定技術確立を目指す。最後に、単結晶育成に関しては、原料試薬の混合方法に注意しながらY濃度の均一性向上に取り組むほか、まだ作製していない反強磁性秩序組成のY置換Bi2212の単結晶育成にも取り組み、当初の目的である微分電気伝導度スペクトルに現れる擬ギャップ的構造の起源解明を目指す。当初の研究計画にあった過剰ドープ組成における超伝導相と擬ギャップ相との共存関係の解明に関しては、現状の測定技術では解明は困難と判断し、本研究計画の最終年度に当たる今年度は、不足ドープ組成と反強磁性秩序組成における面間トンネルスペクトロスコピーに注力する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
年度末に購入しようと考えていた電子部品や金属材料などの消耗品購入を一時見合わせたため。 今年度の研究に必要な電子部品や金属材料などの消耗品購入に用いる。
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Research Products
(7 results)