2012 Fiscal Year Research-status Report
生体セラミックスの電子デバイスへの応用:アパタイト薄膜の原子レベル成長制御
Project/Area Number |
24560019
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
西川 博昭 近畿大学, 生物理工学部, 准教授 (50309267)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 結晶工学 / 電子・電気材料 / MBE、エピタキシャル / ハイドロキシアパタイト |
Research Abstract |
本研究の目的は骨組織の主成分Ca10(PO4)6(OH)2(ハイドロキシアパタイト、HA)に実用レベルの圧電性を発現させ、HAを表面弾性波フィルタなどの圧電デバイスに応用するための基礎を確立することである。これを実現するためには単結晶ライクなエピタキシャルHA薄膜を作製し、圧電性の起源である電気双極子モーメントを担うOH-基の配向を制御する必要がある。平成24年度は、主として単結晶ライクなエピタキシャルHA薄膜を作製することに注力した。 Al2O3(001)面とHA(001)面は高次エピタキシーにおいて格子不整合0.95%と良好な整合性を示すため、基板温度・雰囲気ガスの種類と圧力・成膜速度を最適化することでエピタキシャルHA薄膜が得られると期待した。これらの成膜条件を系統的に変化させ、エピタキシャル成長が実現できたかどうか、現有のX線回折装置によって調べることを行なった。その結果、エピタキシャルHA薄膜を得るために最も重要な成膜条件は基板温度であり、これが800℃以下ではエピタキシャル成長しないことがわかった。さらに、810℃以上では成膜速度に依存し、10 nm/min以上の高速成膜ではエピタキシャルHA薄膜が得られないが、おおよそ5 nm/min以下で比較的ゆっくりと成膜した場合にはエピタキシャル成長しやすいことがわかった。この場合、雰囲気ガス圧を0.1 Paから50 Paの範囲で変化させたが影響はなく、エピタキシャルHA薄膜の作製には雰囲気ガス圧は重要ではないことも明らかにした。 このほか、まだ予備的なデータしか得られていないが注目すべき結果として、基板表面の平坦性がエピタキシャル成長の可否に影響を及ぼす可能性が示唆されている。基板温度810℃以上でも、原子レベルで平坦な基板を用いない限りエピタキシャルHA薄膜は得られていない。次年度以降、詳細に調べたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、エピタキシャルHA薄膜を作製現可能な成膜条件を探索することが最大の研究目的であった。この目的に対し、【研究実績の概要】に述べた通り、平成24年度の研究によってAl2O3(001)基板がエピタキシャルHA薄膜の作製に有効であること、エピタキシャルHA薄膜を得るために重要な成膜条件として基板温度と成膜速度があり、これらについて実際にエピタキシャルHA薄膜が得られる条件を提示することができる実験データを蓄積することができた。このほか、エピタキシャルHA薄膜を得るための条件としてAl2O3(001)基板の表面平坦性という新たな条件の可能性を見いだし、薄膜成長における結晶工学の興味深い新トピックを提供できる可能性も示唆される結果を得た。面内の配向性についての評価が不十分であるが、おおむね順調であると考えられる。 また、平成25年度以降、本格的に着手する予定である電場印加によるOH-基の配向制御に関しても、平成24年度中に成膜装置の拡張とそれを用いた予備実験に着手する計画であった。この点についても当初申請していた通り、平成24年度の研究費にて「電場印加型赤外線加熱試料ホルダA9551-K01(制御機構込)」を導入し、その動作を確認済である。成膜装置の拡張が実施できたため、電場印加に伴うOH-基の配向制御に関する予備的な実験を開始し、平成25年度からは電場をパラメタとしてHA薄膜の結晶構造を詳細に調べる研究を開始できる準備が十分に整った。 以上のことから、おおむね計画通り順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、OH-基の配向を平行に制御するためのデータ収集を行ない、また得られた試料の圧電性評価にも着手する。まず、パルスレーザ堆積(PLD)法によるHA薄膜作製において、電場を印加してOH-基の電気双極子を平行に配向させることを試みる。もちろんこの際、電場の印加に伴うOH-基への影響だけでなく、他の原子・イオンへの影響も調べておく必要がある。すなわち、PLD法による成膜ではターゲットから多数のイオンや電子も放出されており、これらが薄膜成長に及ぼす影響は電場によって変化するためである。飛来したイオンが電場によって基板から反発して化学組成が変化する可能性もあり、それらの影響は現有のエネルギー分散型X線分析装置を用いて評価する。得られた試料の化学組成が化学量論比からずれていれば、ターゲットの化学組成を変化させて不足元素を補う。またOH-基の含有量が化学量論比と一致しているかどうか、現有のフーリエ変換型赤外分光装置を用いて調べておく。OH-基が不足する傾向があれば、「エピタキシャルHA薄膜の作製」に戻り、最適な雰囲気ガスとその圧力を探索する。 得られた試料の圧電性評価として、現有のマイクロインデンテーション装置を用い、指定した荷重で微小な探針を試料表面に押し付けた際に発生する電気分極を、誘電特性測定システム(現有)によって測定する。これによってエピタキシャルHA薄膜の圧電性を測定・評価することが可能である。基板として絶縁体であるAl2O3を用いているため、膜面内での圧電性(電気分極)測定を行なう予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
PLD法による成膜においては、エキシマレーザのエネルギーを再現性よく制御しなければ、得られる薄膜の品質を再現性よく保つことができないため、レーザのエネルギー測定は毎回の実験において重要な準備のひとつである。しかしながら、現在使用しているエキシマレーザ用のエネルギーセンサーの動作が不安定になってきたため、新たに設備備品として購入したい。このほか、消耗品(Al2O3基板、HAターゲット)を中心に研究費を執行する予定である。 また、特に電子・電気材料の研究に関する最新の情報を収集する目的で、国際会議に参加するための外国旅費を執行したい。
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