2013 Fiscal Year Research-status Report
生体セラミックスの電子デバイスへの応用:アパタイト薄膜の原子レベル成長制御
Project/Area Number |
24560019
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
西川 博昭 近畿大学, 生物理工学部, 准教授 (50309267)
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Keywords | 結晶工学 / 電子・電気材料 / MBE、エピタキシャル / ハイドロキシアパタイト |
Research Abstract |
本研究の目的は骨組織の主成分Ca10(PO4)6(OH)2(ハイドロキシアパタイト、HA)に実用レベルの圧電性を発現させ、HAを表面弾性波フィルタなどの圧電デバイスに応用するための基礎を確立することである。これを実現するためには単結晶ライクなエピタキシャルHA薄膜を作製し、圧電性の起源である電気双極子モーメントを担うOH-基の配向を制御する必要がある。平成25年度は、主として単結晶ライクなエピタキシャルHA薄膜の作製において、成膜中に電場を印加することでOH-基の配向制御を試みた。 パルスレーザ堆積(PLD)法のターゲットとAl2O3(001)基板の間に+100 Vから-100 Vまでの電圧を印加しながらHA成膜を試みた。なお、電圧の符号はターゲットに対して基板の方が高電位の場合を正とする。エネルギー分散型X線分析装置によってHA薄膜の化学組成を調べたところ、現在までに電圧の絶対値の大小による変化はあまり見られていないが、正電圧を印加した場合にはHA薄膜のCa/P比が小さくなる、すなわちCa欠損が増える/P欠損が減る、という傾向が見られるようである。また、負電圧を印加した場合にはエピタキシャル成長自体が見られない場合が多く、負電圧の印加がHAの結晶成長を阻害している可能性が示唆される。ただし正電圧、負電圧いずれの場合にも異なる傾向を示す試料が作製される場合もあり、電圧以外の結晶成長条件を制御しきれていない可能性が考えられる。 正電圧を印加した場合に得られたエピタキシャルHA薄膜の結晶性をX線回折(XRD)法で調べたところ、電圧の絶対値が大きいほど回折ピークがブロードになり、結晶性が低下していることが分かる。また、OH-基の配向については現在のところ評価できていない。平成26年度の課題として取り組みたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は、電場を印加してエピタキシャルHA薄膜を作製し、印加した電圧と得られた試料の化学組成や結晶性などの品質との関係を調べ、OH-基の配向制御についての知見を得ることが最大の研究目的であった。この目的に対し、【研究実績の概要】に述べた通り、平成24年度に導入した「電場印加型赤外線加熱試料ホルダA9551-K01(制御機構込)」が順調に動作しており、実際に平成25年度の研究によってPLD法のターゲットとAl2O3(001)基板の間に+100 Vから-100 Vまでの電圧を印加しながらHA成膜を試みることができた。負電圧の場合にはHAのエピタキシャル成長が阻害される可能性を見いだしたこと、正電圧の場合には電圧が大きくなるとHAの結晶性が低下すること、などが分かったが、XRD法によるOH-基の配向制御については評価に至っていない。OH-基の配向はプロトンの位置を調べる必要があるが、XRD法では軽元素になるほど検出が難しいためと考えられる。薄膜結晶全体でOH-基が配向すれば、通常のHA構造では禁制反射であるHA(00l)反射(lは奇整数)が現れることが期待できるので、平成26年度はこのピークが現れる試料を作製する成膜条件を探索する。 また、平成26年度は誘電特性・圧電特性の評価に本格的に着手する予定である。この点については当初の予定通り、現有のマイクロインデンテーション装置を用い、指定した荷重で微小な探針を試料表面に押し付けた際に発生する電気分極を、誘電特性測定システム(現有)によって測定することができる。設備備品は整っているので、平成26年度は作製した試料の測定を予定通り進める。 以上のことから、おおむね計画通り順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、まず通常のHA構造では禁制反射であるHA(00l)反射(lは奇整数)が現れる試料を作製する成膜条件を探索する。これにより、OH-基の配向制御実現を調べることが当面の目標となる。またこれと並行してOH-基の含有量が化学量論比と一致しているかどうか、現有のフーリエ変換型赤外分光装置を用いて調べておく。OH-基が不足する傾向があれば、「エピタキシャルHA薄膜の作製」に戻り、最適な成膜条件を探索する。具体的には、まずOH-基導入の起源であるO2+H2Oガスの圧力およびPLD法におけるレーザエネルギー密度など、成膜レートに関するパラメタを最適化する。O2+H2Oガスの圧力を変化させることで、作製する薄膜に含まれるOH-基の量が変化すると期待できる。また、PLD法の成膜レートを変化させることで、ガスとして導入しているOH-基の原料であるH2Oと、PLD法にてターゲットから供給しているその他のCaやPなどのHA構成要素の供給比を変化させることができるため、得られる薄膜に含まれるOH-基の量を制御できると考えている。 得られた試料の圧電性評価として、現有のマイクロインデンテーション装置を用い、指定した荷重で微小な探針を試料表面に押し付けた際に発生する電気分極を、誘電特性測定システム(現有)によって測定する。これによってエピタキシャルHA薄膜の圧電性を測定・評価することが可能である。基板として絶縁体であるAl2O3を用いているため、膜面内での圧電性(電気分極)測定を行なう予定である。
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