2012 Fiscal Year Research-status Report
窒化インジウムアルミニウム混晶表面・界面におけるフェルミ準位ピンニングの制御
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24560022
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
赤澤 正道 北海道大学, 量子集積エレクトロニクス研究センター, 准教授 (30212400)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 窒化インジウムアルミニウム / 窒化物混晶 / 表面 / 界面 / フェルミ準位ピンニング / MIS構造 / 表面不活性化 / 界面制御 |
Research Abstract |
大気にさらしたInAlN上に形成される自然酸化膜について、その成分と除去方法を明らかにした。すなわち、その成分はAlとInの水酸化物を多く含み、AlとInの比はおおよそInAlNの組成比に近い。これを除去するには弗化水素酸または緩衝弗化水素酸溶液が有効であり、除去した後には、少なくとも、1時間大気中に放置しても再酸化が進行することはないことが分かった。一般に良く用いられる塩酸では完全に除去できず、また、アンモニア溶液では進行は非常に遅いがエッチングされてしまうこともわかった。しかし、表面フェルミ準位のピンニング位置は、これらの処理により変化することはなく、自然酸化膜除去後にALDにより Al2O3膜堆積した場合に、はじめてシフトが観測された。この結果から、Al2O3により表面を不活性化することで、フェルミ準位ピンニング除去を図れる可能性を見出した。 そこで実際にMOS構造を作製し評価したところ、適切なプロセスにより界面を形成した場合には界面準位が低減することがわかった。すなわち、ALD Al2O3膜堆積前に行うオーミック電極合金化のための高温熱処理の際、InAlN表面を保護した場合には良好な界面特性が得られたが、表面を保護せずに熱処理した場合には、耐圧が低く、また界面準位密度も十分に低減していない劣悪な特性となった。このことから、耐熱性・耐薬品性に優れたInAlNにおいても、その表面に絶縁体-半導体界面を形成する際には注意を要し、適切なプロセスにより行われなければフェルミ準位のピンニング除去が実現しないことがわかった。 以上の結果から、InAlN表面・界面において、表面での化学結合の未結合手、あるいは界面での結合手の乱れに起因して表面・界面準位が発生し、フェルミ準位をピンニングするという機構が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
表面のフェルミ準位ピンニングの除去機構が明らかにされたので、初年度における当初の目標は達成できた。しかも、その結果は、以降に計画された研究内容に大きな手掛かりとなるものであった。しかしながら、自由表面のフェルミ準位のピンニングについては、工学的な観点から機構解明し、制御方法あるいは除去方法がみつかったものの、ピンニング現象あるいは表面準位の発生自体を物理学的に完全な形でモデル化するには至っていない。例えば、具体的にどのような化学結合が、どのような準位を作り出すかといった点については未解明である。この点は反省点であるが、本研究は工学的制御のための知見を見出すものであるため、物理学的な解釈については範囲を超えていると判断する。見出した制御方法も、生産ラインには導入しにくい特殊な方法でよるものではなく、試作されたMOS構造においてはピンニングの除去がきちんと達成されている。さらには、この知見はHEMTのゲート部にも、電極間(アクセス)領域の表面不活性化にも、受光・発光デバイスの表面不活性化にも応用できる。したがって、工学的知見としては十分に有用なものが得られている。 以上のことから、本研究は概ね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
現在界面形成プロセスをさらに最適化しているが、現時点ですでに、2年目の検討課題である、熱処理温度を堆積ごとに変えた2段階のAl2O3膜形成プロセスにより、さらに界面準位を低減できる可能性を見出している。すなわち、まず極薄Al2O3膜をALDにより堆積後、これを高温で熱処理し、さらにその上に厚くAl2O3膜を再度堆積することで、高温熱処理による多結晶化の進行により生じる粒界の影響を抑制しリーク電流を低減したうえで、界面における化学結合構造の改善とそれによる界面準位の低減が図れる可能性を見出した。 上記の方法が良好な界面形成方法として実現すれば、フェルミ準位ピンニングが完全に除去されたMOS構造が実現できる。この目標に向かって、今後は、極薄Al2O3膜層の原材料となるガスの種類、厚さ、熱処理温度を変えて試料を作製し、最適化する。 これらは当初計画したシナリオの通りに進んでおり、2年目さらには3年目の研究にも見通しがついたことになる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度における物品費の残額は、主にエピタキシャル基板の価格の変動により生じたもので、かつ、次年度以降における同様の価格変動を見越して、エピタキシャル基板の購入の足しにすることが適切との判断により、基金内に保留し繰り越したものである。
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