2012 Fiscal Year Research-status Report
電界成長を用いた自己組織化による高輝度ナノカーボン電子源の作製と評価
Project/Area Number |
24560024
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
中原 仁 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20293649)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 電界放出電子源 / 電子顕微鏡 / 電界成長 |
Research Abstract |
本研究課題の目的は、これまでに電子顕微鏡用に研究されている高輝度電子源である単原子電子源やカーボンナノチューブ(CNT)電子源の問題点である軸調整の困難さを解決できる新規な高輝度電子源を実現することである。このため、電界成長を用いてナノ電子源を自己組織的に作製すること、ナノ電子源の輝度や安定性などの基本性能を評価すること、市販走査電子顕微鏡(SEM)の実機に搭載して像観察や寿命評価等の実用試験を行うことを具体的な目標としている。初年度に行った研究内容は以下の通りである。 1) 定電流で高電界を印可できる電界成長システムを構築し、再現性良くナノ電子源の成長が行えるようにした。 2) メタンガス導入装置を電界成長装置に導入し、残留ガスに替えてメタンを同圧力で導入すると成長速度が倍増することが明らかとなった。 3) 作製した電子源を市販(無改造)のSEM電子銃に搭載し、以下の実機試験を行った。電子線の軸調整:当初の目論見通り、電界成長で作製した8本全てが、特別な調整機構なしに軸出し可能であった。エミッション電流安定度の評価:エミッション電流の安定度は従来型の単結晶タングステン電子源とほぼ同程度(電流変動率3%)であった。この値はCNT電子源(電流変動率1%)には及ばないものの実用範囲内である。SEM像観察:分解能評価用の標準試料を用いてSEM像評価を行い、CNT電子源と同等の空間分解能を達成できること、CNT電子源の5倍のビーム電流が得られるために像コントラストが大幅に改善すること、CNT電子源よりも機械振動に強いことを実証した。 以上の結果から、電界成長を用いたナノ電子源が電子顕微鏡用電子源として極めて有望であり、輝度、寿命や大気暴露性能といった実用化に求められる性能評価を進める価値があることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画では、初年度に行う研究内容として、メタンおよびエタンガス導入可能な電界成長システムを構築してガス種が与える成長への影響の解明、作製したナノ電子源の輝度評価、ナノ電子源の組成・構造解析を行うこととしていた。また、平成25年度には走査電子顕微鏡の実機に搭載して実用試験を行う予定であった。しかし、今後の研究の方向性を見定めるためには、ナノ電子源が実用に堪え得るかどうか検証するほうが輝度評価や構造解析よりも優先順位が高いと判断し、平成25年度に想定していた実機評価を前倒しして実施し、逆に輝度・構造解析は平成25年度に繰り越すこととした。また、ガス導入試験に関しては当初計画通りガス導入機構を装備し、メタンを用いた基礎実験までは行うことができた。 順序を入れ替えて研究を進めたため当初計画どおりではないが、研究計画全体から見ると概ね妥当な進捗状況であると判断される。特に、本手法で作製したナノ電子源が実用に堪えるものであることを早期に実証できたことは、今後の研究を進めるにあたっても、非常に大きな成果であった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度の実施計画は以下の通りである。 1) ナノ電子源の構造・組成の解明 [H25/4~9]:透過電子顕微鏡(TEM)および透過電子回折(TED)を用いて作製したナノ電子源の構造や組成を解析する。TEM/TEDによる評価は、連携研究者(齋藤弥八:名大教授)の協力の下に進める予定である。 2) ナノ電子源の輝度評価 [H25.6~12]:電子源の輝度は電子放出角度、エミッション電流値、エミッション領域の面積から求められる。このうち電子放出角度とエミッション電流値は電界成長装置(電界放出顕微鏡)で直接測定可能であるが、エミッション領域の面積は直接測定できないため、電流-電圧特性のFowler-Nordheim解析によって求める。 3) 成長プロセスの解明 [H25.5~H26.3]:成長中の電界放出パターンを時系列で解析し、また電界分布のシミュレーション計算を併用することで、電界成長プロセスを解明する。 最終年度(H26)は、以下の通りである。成長プロセスの最適化:成長プロセス解析の結果を受けて、電子顕微鏡応用に最適な形状のナノ電子源を作製するための成長条件を探る。対環境性能の評価:作製したナノ電子源を大気暴露や大気保管して、性能に与える影響を調べる。寿命の評価:電子源としての寿命試験を行う。また、寿命を迎えた電子源の再生可能性についても実験を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、電界成長の速度や導入ガス依存性を定量的に解析するために、電界放出顕微鏡像や電流・電圧特性を動的に取得するための計測システムを構築する。このため、主な物品費として、動画撮影可能なデジタルカメラシステム(10万円)および、電流電圧特性を高速・高精度に測定できるデータ計測・解析システム(30万円)への支出を予定している。データ計測に用いるコンピュータは、電界シミュレーションの計算にも用いる予定である。 また、ここまでの成果の中間報告として、国内会議(主に応用物理学会)に加えて、米国で開催予定の国際会議(9th International Symposium on Atomic Level Characterizations for New Materials and Devices; 2013年12月開催)への出席を予定している。 なお、初年度に導入した定電流高電圧電源が当初予定よりも安価であったため、13万円程度の次年度使用額を生じた。この研究費はデータ計測・解析システムを充実させるために使用する。
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