2012 Fiscal Year Research-status Report
ヘテロエピタキシャル成長における歪みの原子ミキシングへの影響
Project/Area Number |
24560031
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
重田 諭吉 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科, 教授 (70106293)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
戸坂 亜希 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科, 助教 (20436166)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 薄膜成長 / インターミキシング / 歪み半導体 / インターミキシング / 角度分解光電子分光 / 表面伝導バンド |
Research Abstract |
機能性材料の創成に重要な薄膜成長において、歪みの影響、特に、‘ヘテロエピタキシャル成長における原子の混合(Intermixing)に与える歪みの影響’について焦点を絞り明らかにすることを目的とした。 平成24年度は、Intermixing が起こると薄膜成長、特に、ナノスケールの薄膜形状に大きな変化が予想されることから、Ge(111)表面上に形成するSiエピタキシャル層の成長について詳細に観察した。実験は既存の薄膜成長装置として3連の電子ビーム蒸発源が組込まれた超高真空走査トンネル顕微鏡(STM)装置を用いて行った。そして、同じ成長条件でSi層の厚みを変えた試料をKEK-PFのBL-18Aの光電子分光装置において作製し、内核励起による表面敏感光電子スペクトルから、表面におけるSiとGeの組成変化を測定し、Intermixingの量的変化を測定した。また、厚さを変えたSi層の上にAgを吸着させ、√3×√3-Ag(√3-Ag)表面を形成し角度分解光電子分光(AR-PES)により表面バンドの測定を行い、スペクトルのΓ点の位置から格子定数、表面バンドの分散から有効質量を見積もった。 その結果、Ge(111)面上のSi薄膜は、Si層の厚みが2層を超えるとGe基板からSi層にGe原子がIntermixingを起こす事が明らかと成った。この成果は、国際会議で発表され、英文誌Journal of Applied Physicsに投稿、 2013年2月に掲載させることが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
膜成長における「歪みによるIntermixing」を明らかにし、その成果を国際会議で発表したのみではなく、英文誌Journal of Applied Physicsに年度内に掲載させることが出来たことは、計画以上に進展したと言える。 当初、KEK-PFのBL-18Aの光電子分光装置が共同利用であり膜厚の異なる試料をビームラインで薄膜成長させAR-PES測定を行うには順調にいっても時間がかかることが予想された。したがって、マシーンタイムの制限から平成24年度だけでは、膜厚による変化を系統的に調べることは難しいと考えていた。しかし、年度前半で非常に順調に測定が進んだため、系統的なデータが測定できた。そして、その結果をまとめると、膜厚の増加に対して格子定数は増加するが、有効質量はSi層の膜厚が2層以上になると減少し、これまでの結果と矛盾した。この矛盾は、膜厚の増加に伴い内部歪みが増加し、2層以上でIntermixingにより緩和されることで説明出来た。実際、表面敏感光電子スペクトルの測定から2層以上で基板のGe原子が表面にまで湧いてきていることが分かり、格子定数が大きくなってもIntermixingにより延伸歪みを緩和していることが電子状態の変化を調べることで明らかに成った。 この成果は、2012年9月に開催された表面に関するヨーロッパのジョイント国際会議(第24回ヨーロッパ凝縮系会議(CMD-24)、第29回表面科学ヨーロッパ会議(ECOSS-29)、第11回表面構造と機能(ECSCD-11))で発表されたばかりでなく、2013年2月にJournal of Applied Physics誌にタイトル“Strain induced intermixing of Ge atoms in Si epitaxial layer on Ge(111)”として掲載することが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の研究成果として、薄膜成長における歪みのIntermixingへの影響をある程度定量的に解明することが出来た。そこで、より定量的な測定をするために、予め、表面電子バンドの有効質量と歪み量との関係を詳細に計測しておく必要がある。 その手法としては、SiとGeの組成を変化させ格子定数を制御したGeSi(111)バッファー層を利用する場合と、Si(111)表面上にGeをヘテロエピタキシーさせてGe層の厚みの変化により、Ge(111)の格子定数が変化することを利用するヘテロエピタキシ・バッファー層を基板として利用する2種類がある。この格子定数を制御したバッファー層に、Si層を1層成長させ、その上にAgを吸着させ形成するSi(111)√3×√3-Agの表面バンドの状態を測定することで、有効質量の延伸歪みに対する依存性を詳細に測定する。しかし、SiとGeのヘテロエピタキシー成長のモードは、Stranski-Krastonov成長となるためSi層を1層としており、基板の組成が異なった場合、組成比の違いが表面バンドに影響を与える可能性がある。そこで、我々はGeのヘテロエピタキシ・バッファー層を基板として利用する。 このGeのヘテロエピタキシ・バッファー層の予備的な研究を行っているが、Si(111)面上にGeを30層成長させた表面では、圧縮歪みにより、Ge(111)7x7構造を形成するが、70層を超えると歪みが緩和されGe(111) √3×√3構造を形成することが分ってきた。この歪みに対する表面構造の変化も非常に興味深く、研究を発展させる予定である。 また、圧縮歪みに対しては、組成比の影響は考えられるが、現時点ではSiC(111)バッファー層を基板に用いることが最善であり、Si(111)表面にC2H2ガスを吸着させ加熱処理をすることでSiC(111)を形成する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今後の研究費としては、SiやGeの材料費などの消耗品費および高エネルギー加速器研究機構の共同利用施設を利用して実験を行うための旅費、そして、成果報告を行うための出張旅費が主な経費と成る。備品としては、SiCの成膜を行うときの加熱用に大電流の出力が可能なズーム電源が必要になるため、電源を購入する。 また、この課題で得られる成果は、新機能材料の設計や創成に重要な情報と考えられるので、成果報告を日本物理学会や応用物理学会および国際会議(真空国際会議(IVC))に発表する予定である。これに加え、論文の投稿・掲載も計画しており、世界に向けて成果発表を行うための費用とする。
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