2012 Fiscal Year Research-status Report
生分解性高分子表界面に顕れる複雑系固有の物性の探索と制御法の開発
Project/Area Number |
24560033
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
高橋 功 関西学院大学, 理工学部, 教授 (10212010)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 生分解性高分子 / 薄膜 / 結晶化 / ガラス転移 / X線表面散乱 / X線表面回折 |
Research Abstract |
24年度はX線反射率(XR)と微小角入射X線回折(GIXD)を中心とするX線表面回折法を用いて、様々な条件下における生分解性高分子超薄膜の表面・界面モフォロジーと薄膜構造の決定を試みた。この年度に取り組んだ主なテーマは、1.ポリ乳酸(PLLA)の立体異性体PDLAブレンドの薄膜におけるステレオコンプレックス(SC)化とそのメカニズムの解明、 2.ポリスチレン(PS)薄膜のガラス転移近傍で見られる特異なメモリー効果の定量的な測定、 3.果糖ガラス薄膜で見出された負の熱膨張現象とその機構解明の3つである。 1、2、3共に申請者の研究室の装置以外に、申請者の所属する関西学院大学が企業グループと共同出資で大型シンクロトロン放射光施設SPring-8に建設したフロンティア・ソフトマター開発専用ビームライン(BL03XU)も用いて測定を行った。主な成果はそれぞれ 1.PLLAとPDLAを1:1でブレンドした厚さ20nmの薄膜でもSC体が形成された。L体分子とD体分子が並行してらせん構造を取らねばならないSC体がこのような極薄条件下で形成されるというのは、PLLAの融点を上昇させるという応用上の利点のみならず、構造物理上も興味深い問題を提示している。 2.PS薄膜を室温まで急冷してガラス状態にした後も膜厚は時間変化していく。この時間変化を特徴づける緩和時間がPS薄膜が、それ以前にガラス転移点以上のどのような温度に置かれていたかどうかで変化することを見出した。この事実はガラスが液体時代の記憶を保持しているということを意味する。未解決問題のひとつであるガラスの物理に対して、本質的に寄与できる可能性がある新規な成果である。 3.高分子ではないが生物由来の比較的分子量の大きい有機物として糖類がある。糖類の一つである果糖を薄膜化することで、極めて報告例の少ない負の熱膨張現象を示すことを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、1複雑系薄膜の表面・界面・薄膜に固有な新規物性を探し出し、2それら物性の機構を解明することで、3環境に優しい生分解性高分子の薄膜構造と表面モフォロジーの制御を行い、環境調和型社会の実現を目指すことを目標としている。 平成24年度は「研究実績の概要」に記したように、バルク(巨視的な塊状試料)ではこれまでに報告されたことがない、まさに薄膜固有と言える物理特性・物理現象を幾つも発見することができた。申請者のこれまでの研究歴を振り返ってみても平成24年度は”豊作”の年であったということができる。 このような理由から研究目標の1に関しては悪くない自己評価を与えると共に、25年以降も生分解性高分子を中心とする高分子薄膜に固有な新規物性の発見に努めるよう心がけていきたい。 平成24年度の問題点としては上述のように1に関してはそれなりの進展が見られたものの、1で見出した現象の解明2とその応用3に関してまで研究を進めることができなかったという点である。よって2と3の進展を次年度以降の主な課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの達成度」にも記したように、研究目標の1「複雑系薄膜の表面・界面・薄膜に固有な新規物性を探し出す」は今後も継続する。具体的には24年度に調査できなかった生分解性高分子PBAやPEGなども研究対象とすることで、この課題を進めていきたい。 目標2「複雑系薄膜の表面・界面・薄膜に固有な新規物性の機構解明」が次年度の大きな課題となる。この課題を進展させることで、目標3「環境に優しい生分解性高分子の薄膜構造と表面モフォロジーの制御」の達成へとつなげていきたいと考えているわけであるが、2の進展には高分子薄膜の膜厚や基板の性質、高分子試料の分子量を系統的に変化させながら、新規物性がいかに変化していくかを明らかにすることが必要であるため、次年度からは24年度以上に数多くの試料を作製し、継続的に実験を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「今後の推進方策」にも記したが、生分解性高分子薄膜固有の物性の機構解明には、高分子の膜厚や分子量を系統的に変えながら薄膜を作製し、X線表面散乱・回折の測定を行っていく必要がある。また基板の種類・性質も重要な条件である。よって、次年度の研究費は、分子量の異なる生分解性高分子試薬の購入、および通常用いられているSi基板と、それよりも比較的高価であるSiCなどの基板の購入に充てられる予定である。なお通常の研究費を使用していった結果、1,500円程度の研究費の残額が発生したが、次年度は繰越金として研究費に組み込み、使用する予定である。
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