2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24560041
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
峰本 紳一郎 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (90323493)
|
Keywords | 非線形光学 / 分子配列 / 偏光分光 |
Research Abstract |
2013年度は、前年度までに開発した干渉計をさらに安定化させ、さらに、配列した分子から発生する第3高調波の時間に依存した偏光状態を観測することに成功した。前年度までは、位相ドリフトが数分でπ/2程度あったのに対し、光学部品の固定法を改良することや干渉系全体を風よけで覆うことにより、30分の観測でもπ/5以下に抑えることに成功した。同時に、短時間の安定度も向上しており、1分当たりの位相ゆらぎはπ/20以下を達成している。 以上のように開発した干渉計を使用して、ほぼ直線偏光した基本波を用い、配列した窒素分子から発生する第3高調波について偏光状態を観測したところ、パルス全体にわたって楕円率がほぼ0であることが確認できた。このことから、今回開発した干渉計システムや解析プログラムが正常に機能していると考えられる。一方、配列した二酸化炭素分子から発生する第3高調波の偏光状態は試料の圧力に依存した振る舞いを示していた。圧力の違いは位相整合の様子の違いを表していると考えられる。試料ガスの圧力が低い (20 kPa) 時にはパルス全体に渡って0.1以下の小さな楕円率であるのに対して、圧力が高い (80 kPa) 時にはメインパルスにおいて0.3程度の比較的大きな楕円を持つことがわかった。このことは、基本波の偏光に垂直な方向の偏光成分は、基本波にわずかに残っている楕円成分が位相整合の効果によって第3高調波で増幅されて現れていることを示唆している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、前年度から行ってきた偏光分解型干渉計の開発において残っていた課題(位相ドリフトの改善)を解決すること、さらに開発した干渉計を用いてType I位相整合、すなわち、プローブ光の偏光方向を分子軸(ポンプ光の偏光方向)と平行および垂直にして発生する第3高調波の偏光状態を調べる計画であった。 消耗品として購入したミラーホルダーやポストの固定法を改良し、また、干渉計全体をアクリルカバーで覆い風除けとするなどの改善を行った結果、上述したように位相不安定性とドリフトは実験の遂行にほぼ影響ない程度まで低減できており、開発における課題は十分克服できた。 また、配列した分子からの例として、窒素分子および二酸化炭素分子を試料としたType I位相整合によって発生した第3高調波の偏光状態の評価に成功しており、当初の計画に沿って順調に研究が進んでいる。特に、窒素分子では、Type I位相整合に特徴的な直線偏光をしていることが確認でき、開発した干渉系システムの妥当性や安定性を示している。また、半自動的にデータを解析するプログラムも完成している。一方、二酸化炭素分子の場合、圧力によって顕著に変化することが確認できた。このことは、本研究計画の目標である発生メカニズムの解明には、圧力を変えて系統的な測定を行えば十分であることを示唆している。翌年度の方針を明瞭に示すことができており、研究はおおむね順調に進捗している。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究計画におけるこれまでの成果によって、特に配列した二酸化炭素分子から発生する第3高調波においては、位相整合の効果によって偏光方向と垂直な方向の楕円成分が増幅されていることがわかった。このことから、試料の圧力を変化させながら系統的に時間に依存する偏光状態を観測すれば、位相整合の様子を決定するパラメーターである屈折率を成分ごとに求めることができる。屈折率は分子の分極率(の周波数依存性)に関連する量であり、その分子座標系における空間的な成分を評価できれば、理論化学計算への有効な指標にもなる。そこで、本年度はまず、二酸化炭素分子、および酸素分子(二酸化炭素と同様な振る舞いをすると考えられる)に着目し、試料の圧力を変化させながら、Type I位相整合で発生する第3高調波の偏光状態を系統的に観測する。試料セルとその排気系を更新し、圧力の変更を精密・安定に行えるようにする。得られた結果を、伝播を考慮したシミュレーション計算と比較し、成分ごとの分子分極率を定量的に評価する。 一方、上記のように圧力ごとの屈折率を求められれば、Type II位相整合、すなわち、基本波の偏光に楕円がついている時に発生する第3高調波の(時間に依存する)偏光状態は伝播シミュレーションで容易に予想できる。そこで、本年度後半には基本波の偏光を変えながら発生する第3高調波の偏光状態を調べ、シミュレーションコードの妥当性を検証するとともに、時間に依存する偏光状態を自在に操るためのプロトコルの開発に取り組む。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度に残った課題として、干渉系の位相安定度を向上させるために多くの光学部品(ミラーホルダー・ポスト等)を想定していたが、予想より大幅に安価で少量の部品で十分な性能を発揮できた。同時に、配列した分子からの第3高調波発生において、試料圧力に対して想定よりも強く依存することが判明したため、本年度において真空部品として購入予定であった試料セル消耗品の更新を取りやめ、翌年度に試料セルを大幅に更新することにした。これらの理由により、翌年度の使用額を増やしている。 「研究の推進方策」で述べたように、本年度は圧力依存性を精密・簡便・安定的に測定するために、試料セルと排気系を更新する。そのため、多くの真空部品を消耗品として購入する。 また、Type II位相整合を調べるに当たり、いくつかの光学部品を消耗品として購入する。
|
Research Products
(10 results)