2013 Fiscal Year Research-status Report
大電力パルススパッタにおけるパルスオフ期間のターゲット電位を用いた薄膜構造制御
Project/Area Number |
24560063
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Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
中野 武雄 成蹊大学, 理工学部, 助教 (40237342)
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Keywords | 大電力パルススパッタリング / プラズマ電位 / 薄膜構造制御 / 堆積粒子エネルギー |
Research Abstract |
本研究の目的は、大電力パルススパッタ (High Power Pulsed Magnetron Sputtering: HPPMS) で実現されるスパッタ原子の高いイオン化率に、プラズマ電位の制御を組み合わせることで、低温の接地基板に堆積される薄膜の構造を制御することである。 本研究の申請時には、プラズマ電位の制御をアフターグロー期のターゲット電位を通して行うことを目指していたが、昨年度にプラズマに接触する新たな電極を追加して、ここに正の電位を加えることで、より有効なプラズマ電位制御が可能となることを見出し、薄膜構造制御についてもより効果的な結果が得られた。平成24年度に得られた成果は ISSP2013, IVC19 の 2 つの国際会議で発表し(後者は口頭発表)、2014 年 2 月には Jpn. J. Appl. Phys. 誌に投稿論文が掲載された。 平成24年度の手法は、既存のスパッタガンのアノードキャップの上に煙突様の電極を追加するかたちであったが、(1)プラズマ観察の視野を妨げる、(2)スパッタ粒子の輸送の障害となる、などの欠点があった。これを鑑み、今年度はアノードキャップを接地電位から絶縁し、任意の電位を印加できるようなスパッタガンを特注で作製し、実験を行った。昨年度の手法と同様に、アノードキャップ電極への +20V 程度の電位印加によって、HPPMS 膜は顕著な平坦化を示した。またプローブ測定によっても、期待されたプラズマ電位の上昇を確認した。 また、HPPMS を含むスパッタプロセスにおいて、成膜速度や膜厚均一性を制御するための鍵となるスパッタ粒子の輸送過程について、実験・理論の両面から評価を行った。スパッタ粒子が雰囲気のガスと衝突・散乱しながら輸送される過程を考察したもので、各 1 報の論文を出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
HPPMS とプラズマ電位の制御によって、接地された、かつ水冷された基板上に、緻密な構造を持つ金属膜を堆積する手法を確立できた。すなわち、高密度プラズマによって得られるスパッタ原子の高イオン化率という HPPMS の特徴に、プラズマの空間電位を上げて接地基板との間に電位差を設ける手法を組みあわせることで、金属イオンを高い運動エネルギーで基板に入射させることが可能となり、これによって膜の構造を緻密化することができた。 追加電極をプラズマに接触させることで、HPPMS の高密度プラズマが生成されているパルス on の期間にもプラズマ電位を上昇させることが可能となり、イオン化した原子の利用効率が高まった。このため、プラズマ電位が 20V 程度でも十分な平坦化効果を得ることができ、基板以外の周囲部品へ与えるダメージも軽減できることがわかった。さらに今年度は、スパッタガンのアノードキャップを電極として接地電位から絶縁し、この部分の電位を制御することによっても、同様に放電空間のプラズマ電位を制御することが可能となった。イオンの基板への入射エネルギーを高めるには、基板電位を負にする手法が従来から用いられてきたが、接地基板への入射エネルギー制御を可能とする我々の手法は、装置設計の自由度を上げ、HPPMS の実装置への導入を容易にするものと考える。 申請時にはターゲットに印加する電圧波形を制御し、アフターグロー期のプラズマ電位を高める手法を目指していたが、電極追加によって on 期のプラズマ電位を上げる手法は、本質的に当初のアイデアよりも優れたものであると考える。ただしパルス電位による効果は、スパッタ粒子の輸送過程に関連して理学的な興味の対象ではあるので、最終年度に引き続き研究の対象としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本申請研究の最終年度となる今年度は、まず電極追加方式について、実際の製膜装置に近いかたちで評価したい。具体的には、追加電極の位置やサイズ、また接地電極となる基板の面積やターゲットに対する相対位置が、パルス形成期のプラズマ電位に及ぼす影響について、ラングミュアプローブを用いた評価を行いたい。またアノードキャップ方式が有効性であることが昨年度にわかったので、論文出版につなげたい。 スパッタガン-基板からなる系にプラズマ電位制御用電極を追加する従来の手法ではプラズマが隠れてしまうのに比べ、アノードキャップ方式ではプラズマ発光が側面にある大面積の石英窓を通して観察できる。よって、当初申請時の計画にあった時空間分解式のプラズマ発光分光を行えるようにしたい。すでにプラズマ測光系を鉛直・水平方向に自動で移動できるステージは完成しており、ステージ制御プログラムについても昨年度に動作を確認した。一周期分の発光を積分したかたちでの計測では、実際の発光の空間プロファイルを確認でき、DC よりも平均強度が強く、空間的にもより広がっていることを確認できた。一昨年の予算で作成した、外部タイミング信号により動作するパルス電源も調整が終了し、動作可能になっている。ファンクションジェネレータを用い、より安定したタイミング信号でトリガ遅延測定を可能とし、HPPMS における粒子輸送過程の理解につながるデータを得たい。 本手法のアプリケーションとして、Spindt 型微小電子源の錐状電極作製の研究も、本格的に行う予定にしている。これは堆積粒子の垂直入射製が大きく影響するもので、HPPMS のもうひとつの側面である、入射方向制御に対する本手法の良い評価となるものと考えている。これは産総研の長尾善治氏らとの共同研究で、二層レジスト構造の基板を供給いただく予定である。
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