2012 Fiscal Year Research-status Report
多重極ソースモデルを用いた磁場源推定逆問題の直接解法と応用
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24560072
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
奈良 高明 東京大学, 情報理工学(系)研究科, 准教授 (80353423)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 逆問題 / 多重極 / 脳磁場 / RFID / 磁気双極子 / ソース推定 |
Research Abstract |
磁場源推定逆問題には, 脳磁場計測に基づく脳内活動源推定や, RFIDタグ定位など広範な応用がある.磁場源を複数の双極子で表現し,非線形最適化により双極子個数,位置,モーメントを求めるのが通常の方法であるが,初期値に依存して局所最適解に陥る,分布した磁場源の広がりは表現できない,という課題があった.これに対し本研究の目的は,磁場源を双極子のみならず,四重極子,八重極子...といった多重極子で表現した上で,その位置,モーメントをパラメトリックに推定する代数解法を開発することを目的としている.本年度は,脳磁場逆問題において,脳回に神経電流源が分布した場合を念頭に,双極子・四重極子モデルを用いた直接代数解法の開発を行った.また単一の磁気双極子位置を線形方程式の解とし定位する手法を応用し,RFIDタグの2次元定位システムを開発した.具体的内容は以下の通りである. 三次元空間中にN個の双極子・四重極子があるモデルを考え,N個の双極子・四重極子位置をxy平面に射影した位置をN次方程式の解として推定する手法を導出した.その係数は連立二次方程式の解として定められる.さらにこの連立二次方程式は,ハンケル行列を係数行列とする二次形式で表現されることを示し,消去法により連立一次方程式に帰着させるアルゴリズムを提案した.また脳回にある磁場源を想定し,半円筒上に分布した電流ソースの推定を数値実験により行った.この場合,逆向きの電流源を推定することになるため,従来の双極子モデルでは定位が不安定となるのに対し,提案法では安定して半円筒中心に位置推定可能であることを示した. また二次元平面上に磁気双極子がある場合,その磁場が満たす2つの偏微分方程式の荷重積分から2本の直交した直線が得られることを示し,その際必要な荷重積分量を計測する6個のコイルを開発し,RFIDタグの二次元定位システムを開発した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,以下の4つを具体的目的としている:1) 複数領域に存在する電流ソースを多重極モデルで表現し,領域中心位置,サイズ,および領域数を,観測磁場データから直接推定する逆問題手法を構築する,2) 上記1)の手法を脳磁場逆問題に適用し,活動源中心およびサイズをパラメトリックに推定する手法を開発する,3) 電流ソースを囲まない部分境界上の観測データを用いた直接解法を構築する,4) 上記3)で必要な磁場の面/線積分量を直接計測するセンサを開発し,磁気双極子のリアルタイム定位システムを構築する. このうち,基礎となるのは1)であり,特に広がりをもった電流ソースの領域中心位置の推定が最大の焦点となる.本年度は,多重極モデルのうち,双極子・四重極子モデルに対する直接代数解法を開発することができた.双極子モデルに対する直接解法と比較して,最終的にはN次方程式を解く点は共通しており,かつその係数を求める際,双極子モデルの場合は連立一次方程式,双極子・四重極子モデルの場合は連立二次方程式を解く,という体系的なアルゴリズムとなっている.より一般の高次多重極子モデルに対する直接解法に対しても見通しを与える重要な成果と考える.また脳回上ソースを念頭に半円筒上に分布した電流ソースに関して,双極子モデルでは近接した逆向き双極子として推定しなければならないため不安定となるが,四重極子モデルを用いれば安定な定位ができることを示したことも大きな成果である. RFIDタグの二次元正方形領域内位置推定に関して,正方形の4辺に配置した短冊形コイル,逆巻き三角形形状の蝶ネクタイ型コイル,および正方形ループコイルの6個このコイルを用いるだけで,2本の直交する直線の交点としてタグ位置を定位するシステムを開発した.二次元に限定されているが,目的3), 4)に対する大きな成果が得られたといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度提案した双極子・四重極子モデルを用いた直接代数解法を脳磁場逆問題に適用するため,MRデータから得られる大脳皮質上,脳回や脳溝部分に電流ソースを仮定した上で,安定に定位できることをまず数値実験で確認する.ファントムデータを用いた検証の後,実際の脳磁場データに適用し妥当性を検証する. 双極子・四重極子モデルでは,活動領域の広がり具合まではパラメトリックに推定することができない.そこで八重極,更に一般の2のd重極まで考慮したモデルに対し,直接代数解法を開発する.H21-22の科研費若手(B)にて,二次元の場合は既にd次の多重極が満たす連立d次方程式を導出している.H25年度には,これを三次元の場合に拡張する.四重極子(d=2)の場合,得られる連立二次方程式は,消去法により連立1次方程式に帰着できることを示しているので,一般次数の場合にも同様のアルゴリズムを構築する.特にd=3の八重極パラメタと,電流分布領域のサイズとの関係を明らかにすることで,脳内電流源の領域中心位置のみならず,広がり具合もパラメトリックに推定可能な解法を構築する. RFIDタグの位置推定に関して,より広い領域で三次元の位置推定可能なシステムとするために,磁性体コア挿入によるセンサ高感度化,2m四方程度の大型コイルの作成を行う.また磁気双極子推定の応用として,RFIDタグの場合と同じ定位手法を用い,雪崩用ビーコンの位置推定センサの開発も行っていく. なお,交付申請書に記載していた東京大学大学院・情報理工学系研究科・安藤繁教授とともに,脳磁場計測を専門とする㈱新領域技術研究所・武田常広・代表取締役・社長も新たに連携研究者とし,討論しながら研究を進める.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H24年度の研究過程で,雪崩遭難者発見用のビーコンは発振周波数が457kHzであり,搬送周波数が135kHzのRFIDタグ定位システムと殆ど同じ手法により定位可能であるという新たな着想が得られた.これは当初目的の「磁気双極子推定の応用」に叶い,なおかつ,意義深い応用対象である.そこで,数値計算用にH24年度に計上していた備品・消耗品費を変更し,H25年度における実験部品(増幅器,フィルタ,回路部品,治具部材)およびビーコン購入費に充てる予定である.
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Research Products
(7 results)