2012 Fiscal Year Research-status Report
加工限界のひずみ履歴・材料組織依存性評価のためのミクロ数理損傷モデルの構築
Project/Area Number |
24560132
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
大畑 充 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20294027)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 複相組織鋼材 / 延性損傷限界 / ひずみ履歴 / 不均質組織 / 数理損傷モデル |
Research Abstract |
延性損傷限界に及ぼすひずみ履歴依存性と組織形態の関係を解明するための実験的検討に着手した。材料は,フェラート-パーライト二相組織鋼材を対象とし,各相の粒径や組成,硬度がほぼ同じとなるようにパーライト体積分率のみを20%と65%に変化させた二種類の鋼材を作製した。さらに,不均質の影響を抽出することを目的に,各構成相であるフェライトおよびパーライトの単相材料を作製して試験に供した。 全ての材料に対して,一方向に引張って破断させる単調負荷試験に加えて,所定のひずみレベルまで単調負荷した試験片から,第一負荷方向に対して同方向,および垂直方向に採取した微小試験片の引張破断試験を行うことで,延性損傷限界のひずみ履歴依存性の基礎特性を調査した。その結果,単調負荷の場合に比べて負荷方向を90°変化させた場合の方が延性が向上し,またその程度は,パーライト分率が大きい材料の方が顕著であることがわかった。 このような二相組織鋼材の破断に至るまでの損傷挙動の観察を行ったところ,パーライト分率やひずみ履歴によらず,いずれも破断直前の最終段階になって,主としてフェライトとパーライトの境界のフェライト相側にて損傷が蓄積して微視き裂を形成することがわかった。すなわち,硬さが異なる二相組織の分率に応じて,フェライト境界部での損傷進展挙動が異なり,さらに,ひずみ履歴が変化した際にその蓄積挙動が変化することが,上記の実験結果をもたらす要因であることが示唆された。また,本実験・観察により,硬質のパーライト単相材は非常に脆いにも関わらず,フィライト相中に分散した際には延性的な損傷挙動を呈するという新たな知見を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
延性損傷限界に及ぼすひずみ履歴依存性と組織形態の関係を解明するための実験的検討を行うことを目的として,パーライト体積分率が異なる二種類のフェラート-パーライト二相組織鋼材と各構成相であるフェライトおよびパーライトの単相材料を作製して,負荷履歴を極端に変化させた場合の引張損傷限界評価試験を実施した。これにより,単調載荷の場合に比べて負荷履歴が変化することにより延性損傷限界が向上すること,また,その効果はパーライト分率が高いものほど顕著であることを見いだし,当初の実験目的を達成することができた。 さらに,破断に至るまでの損傷進展の内部挙動の観察を行うことで,当該二相組織材料では,硬いパーライト相の破断ではなく,主として軟質のフェライトと硬質のパーライトの境界近傍のフェライト相側にて損傷が蓄積して微視き裂を形成し,最終破断を支配するとの知見を得た。また,新たな知見として,硬質のパーライト単相材では脆性的な破断(へき開型破壊)が生じるにもかかわらず,フィライト相中に分散した二相組織材料中では延性的な損傷挙動を呈することがわかった。このような新たな実験・観察事実から,当初計画していた,試験片表面での組織レベルでのひずみ(損傷)局在化挙動を計測するシステムの構築を見送り,部材内部での硬質パーライトの損傷挙動を解明するための実験・観察手法の構築を優先すべきとの結論に至った。従って,当初の計画を変更するに至ったが,これまでにない,今後の展開に大きく寄与するであろう新たな知見が得られたことから,現在までの成果としては十分に得られたものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
フェライト-パーライト二相組織鋼材の延性損傷限界とそのひずみ履歴依存性は,硬質第二相であるパーライトの形態の一つである体積分率に依存することがわかったが,それには脆いパーライト相ではなく,相境界のフェライト相側での損傷が支配的であるとの重要な知見を得た。これは,二相材料中のフェライトおよびパーライトに生じるひずみだけでなく,応力(特に応力多軸度)が主要な駆動力であることを示唆するものであり,部材の表面での現象の観察のみでは延性損傷のメカニズムの解明には至らないことがわかった。そこで,次のような計画で解析および実験の両面から損傷メカニズムを解明するための方策をたてた。 解析的な検討では,二相組織材を再現する三次元不均質組織形態モデル化法の構築を目的として,実鋼材における不均質組織形態の分布を再現できるモデリング手法を開発する。そのため,Voronoi tesselation法を利用して,種々の不均質組織形態を再現可能な三次元組織構造モデル化手法の提案とプログラミングを行う。構築したモデルを用いて弾塑性有限要素法解析を実施し,二相材中のフェライト相およびパーライト相のひずみや応力多軸度の局在化挙動について考察する。 また,解析的な検討結果をベースとして,種々の多軸応力場,特に低応力多軸応力場での延性損傷限界を評価する実験装置の設計と作製に着手し,これまでにない新たな特性を取得する準備をする。 最後に,ひずみ履歴変化に伴う材料強度と損傷の発展をシミュレートする新数理損傷モデルを提案しプログラミングに着手する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の実験,観察により,二相組織材の延性損傷限界とそのひずみ履歴依存性には,高い応力多軸度下での軟質フェライト相の損傷挙動のみならず,低い応力多軸度下での硬質パーライトの損傷挙動が重要な役割を果たすことが,新たな知見として得られた。そこで,本年度に計画していた,試験片表面での組織レベルでのひずみ(損傷)局在化挙動を計測するシステムの構築を見送り,次年度の予算と合算して,主として低応力多軸度下での延性損傷限界を評価する新しい実験・観察装置の開発を行うこととする。本実験装置は世界的に類の無い独創的な着想に基づいたもので,他の予算を可能な範囲で削減しながら装置開発に重点的に予算配分する価値のあるものと考える。 また,並行して,二相組織鋼材中の軟質フェライト相,及び硬質パーライト相中の応力・ひずみ場を把握する必要性から,二相組織形態を再現した三次元不均質組織モデルを用いた大規模な数値解析を実施する。そのためには大規模な解析モデルの可視化や,膨大な計算結果データの蓄積が必要となることから,ファイルサーバーシステムの購入を計画する。
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